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ミカエルとの出会い(フランス恋物語54)

Edward Furlong

私が初めて恋をした白人男性は、中学生の時に一目惚れした「ターミネーター2」のエドワード・ファーロングだった。

それ以来、私は高校や大学で欧米に留学し、彼のような男の子と恋することを夢見た。

しかし、「海外留学なんてとんでもない」という厳しい親の反対に合い、それは夢に終わった。


・・・いや、終わってはいない。

日本人男性との離婚を経て、アラサーでフランス留学を果たした私はパリに住んでいる。

そして今・・・エドワード・ファーロング・20代版のルックスを持つフランス人男性”ミカエル”と、デートの約束をしているではないか!!

「夢は諦めなければ叶う」

そんな青くさい歌詞のような言葉が、私の中でキラキラと輝いていた。

Michaël

エリカちゃんが教えてくれた”国際恋愛専用出会い系サイト”で、私とミカエルは出会った。

私たちは、お互いのプロフィール写真を一目見て気に入り、それからは毎日時間さえあればサイト上のチャットで話すようになった。

「こんなカッコよすぎる男の子が、私を気に入るはずがない」

初めは半信半疑だったが、彼は私がオンラインになるとすぐに話しかけてくるし、”最高12時間”というチャット記録を更新したことで、「どうやら彼の想いは本気らしい」と、少しは確信を持つことができた。

日本のカルチャーが好きだという彼は日本語を勉強中だが、会話は専らフランス語で行われた。

そのチャットはWEBカメラで相手の表情を確認できるので、彼の笑顔を見られることは何よりのモチベーションだ。

”憧れの俳優にそっくりの美青年”のためなら、私は長時間に及ぶフランス語会話も全く苦にならなかった。


・・・ただ、そんなミカエルにも二つ問題があった。

一つは、パリから電車で1時間かかる町に住んでいること。

そしてもう一つは、「22歳の大学生」ということだった。

エリカちゃんにさんざん注意された「将来のパートナーとして考えられない、若い男の子」を、私はまた選ぼうとしている。


チャットで知り合って1週間も経たないうちに、ミカエルは「パリに行くから、会える?」と私に尋ねた。

・・・デートするぐらいいっか。

ここまでタイプの人と出会えることなんて、なかなかないし。

たった一日でいい、これ以上ない美しい青年と、一生の思い出に残るデートをしたっていいじゃないか。

そう思った私は、歓迎の返事をした。

「Bien sûr!!(もちろん) あなたのために、最高のデートコースを考えておくね。」

私たちはメールアドレスと携帯番号を交換し、デートの日時を約束した。

Le bonheur

7月下旬の火曜日。

この日は晴天で、絶好のデート日和だった。

お昼12時過ぎ、パリのGare de l'Est(東駅)で私たちは待ち合わせをした。

「今電車の中だよ。もうすぐレイコに会えるの、すごく嬉しい。」

ミカエルは会う前からテンションの高いメールを送ってくれるのだが、なぜ彼がそこまで気に入ってくれているのか、私は不思議で仕方がなかった。

改札前で待っていると、ミカエルはすぐに私を見付けてくれた。

ちょっと遠慮がちに私の頬にビズをする。

「僕の住んでいる町に日本人はいない」と言っていたから、もしかしたら彼が日本人とビズをするのはこれが初めてなのかもしれない。


私は、改めて目の前のミカエルを見た。

彼も、私を見つめてニコニコと微笑みかけてくれる。

実物のミカエルは写真やWeb動画よりさらに美しく、そのまま俳優やモデルになれるんじゃないかというくらいの容姿だ。

こんな素敵な男の子とデートできるなんて、夢のようだ。

あぁ、生きてて良かった・・・。

私は彼との出会いを導いてくれた、神様とエリカちゃんに感謝した。

国虎屋

彼が日本マニアなのは聞いていたので、まずはうどんの美味しい国虎屋でランチを食べることにした。

そういえば2ケ月前に、遊び人のジョゼフともここに来たっけ・・・?

アイツは性格が最低だったけど、今一緒にいるミカエルは純粋に私のことを気にいってくれている、外見だけでなく心も美しい男の子だ。


私は目の前でうどんと格闘しているミカエルを眺めた。

箸でうどんを掴むのが難しそうなその姿は、私の母性本能をくすぐった。

時間がかかっても決して音を立てず美しく食べる所作から、彼の育ちの良さが窺える。

”一人っ子”と言っていたが、きっとご両親に愛されて大事に育てられたのだろう。

食べ終わったミカエルは「ゴチソウサマデシタ。」と手を合わせて、日本語で挨拶をした。(日本のドラマを見て覚えたという)

その姿がいじらしすぎて、私は思わずキュンとしてしまった。

BOOK OFF

次に「日本好きならここは外せないだろう」と思って、案内したのがBOOK OFFだ。

パリにはジュンク堂書店もあるが、古本屋の方が何か買う時に安くていいかなと思い、こちらを選んでみた。

初めて入る日本の商品だらけのBOOK OFFに、ミカエルは興味津々のようだ。


音楽のCDやDVDコーナーを見て回った後、彼は漫画コーナーにも足を運び、「『めぞん一刻』の単行本はどこにある?」と私に聞いた。

一緒に探してあげると、すぐに『めぞん一刻』全巻パックのセットが見付かった。

「フランス語版は全巻持っているんだけど、日本語の勉強も兼ねて日本語版も買おうかな。でも結構高いな。」

・・・すごく悩んだ末、彼はそれを大人買いしていた。

『めぞん一刻』全巻を持ってホクホクしているミカエルが、私に行った。

「この漫画のヒロインの音無響子は、僕の理想の女性なんだ。

レイコは響子のイメージピッタリだよ。」

・・・私はそれを必死に否定した。

とらや パリ店

”日本を感じられるパリデート”のラストは、とらやパリ店を選んだ。

そんなに甘い物が好きではない私は、東京のとらやにも行ったことがなかったのだが、ミカエルに日本の甘味処の雰囲気を知ってほしくてここを選んだ。

店内は落ち着いたカフェという雰囲気で、そこまで”和”を強調したものでなかったが・・・。


写真付きのメニューを見せながら、私は彼にデザートやドリンクの説明をした。

ミカエルが「レイコに任せるよ。」と言ったので、私は彼の分としていちごミルクのかき氷と抹茶のアイスドリンク、自分の分は抹茶のアイスと、アイスティーをオーダーした。


生まれて初めて食べるかき氷に、ミカエルは感動したようだった。

「舌が真っ赤になるから見てごらん」と言って鏡を差し出すと、その変化に驚く姿が可愛かった。

抹茶のアイスドリンクは予想に反して苦かったようで、私は自分が使っていないアイスティーのシロップを全部あげた。

彼はそれをドバドバと入れて、美味しそうに抹茶を飲んでいる。

ミカエルは「大学を卒業したら日本に住んでみたい」と言っていたが、その頃には甘くないお茶も飲めるようになっているのだろうか・・・。


ミカエルは挨拶ぐらいしか日本語を話せないし、私のフランス語も相変わらずひどいものだったが、私たちにとって、会話はそんなに必要なかった。

ただ、お互いを見つめて微笑み合う・・・それだけで十分だったのだ。

Jardin des Tuileries

とらやを出た後、私たちはチュイルリー公園を散歩した。

チュイルリー公園は3年前、関係が破綻している夫と新婚旅行で訪れた際に、「絶対この人と離婚して、フランスに来て、フランス人の彼氏を作るんだ!!」と誓った因縁の地だ。

2ケ月前にはアランとここを歩いて、同じことを思い出したっけ。

そのアランとは、10日ほどで別れてしまったが。

今一緒に歩いているミカエルとはどうなるのだろう・・・。


そんなことを考えていると、突然歩みを止めたミカエルが、私の方に向き直ってこう言った。

「僕、レイコのこと気にいっているよ。また会ってくれるかな?」

遠距離恋愛を嫌う私は、こんな返事をしてしまった。

「あなたがパリに来てくれたら・・・。」

ミカエルの表情が、一瞬曇ったのがわかる。

・・・あぁ、私はなんてことを言ってしまったんだろう。

焦った私は、とっさに付け加えた。

「私もあなたのこと気にいってるよ。でも先のことはわからない。」

「D'accord.」
(わかったよ)


そう言ったかと思うと、ミカエルの顔が近付き、私の唇にキスをした。

・・・それは、私が今まで生きてきた中で、一番幸福に満ちたキスだった。

顔を離して、はにかんだ表情のミカエルがとても愛おしい。

・・・ミカエルと付き合うかどうかなんてわからない。

・・・先のことなんてまったく予想が付かない。

だからと言って、彼とのキスを止めることができようか。


その後、彼が電車に乗るギリギリの時間まで、私たちはずっとキスをしていた。

ミカエルとのキスに官能性はなかったが、”彼とキスをしている”という幸福感が、何よりも私を満たした。

私を離さなかったミカエルも、きっと同じように感じていたと思う。

キスとキスの合間の、間近で見る切ない表情のミカエルはとてつもなく美しく、私の胸はこれ以上ないくらいときめいた。

「こんなに美しい人が、なんで自分なんかを好きになってくれるんだろう?」

その疑問は残ったままだったが、今日一緒に過ごすことで、彼の私への想いが本物だということは十分に感じることができた。


彼が買っていた切符の時間は、パリの東駅19:50発だった。

私が電車まで見送ると、ミカエルは最後まで名残惜しそうにしていた。

その姿を見た私は、離れてしまう寂しさよりも、「この人はここまで私のことを好きでいてくれるんだ」という嬉しさの方が勝っていた。

そして、彼を乗せた電車を、私は幸福に満ちた気持ちで見送った・・・。

Nicolas

その夜、自宅に帰ったミカエルからメールが届いた

「レイコ、今日はとても楽しかった。君と会えて幸せだよ。おやすみ。」

それは私を安心させてくれるものだった。


でも、私たちは「次いつ会うか」という約束はしていないし、フランス人には「付き合う」と契約する習慣が、そもそもない。

今日確認できたことは、お互い「気に入っている」という言葉と、何度も繰り返したキス・・・それだけだ。

私はミカエルに、「Moi aussi. Bonne nuit.」(私もだよ。おやすみ。)とだけ、短く返事をした。


・・・実はミカエルの他にも、”国際恋愛専用出会い系サイト”で、恋人候補となる”ニコラ”という男性がいた。

今夜もサイトをオンラインにすると、ニコラからチャットで話しかけられた。

私はミカエルに「悪いな」と思いながらも、ニコラとのチャットを始めた。


そのニコラとも、私は近いうちにデートすることになるのである・・・。


ーフランス恋物語55に続くー


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