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ニコラとの出会い(フランス恋物語55)

Michaël

7月終わりの火曜日、私は、中学時代からの憧れの人”エドワード・ファーロング”にそっくりな22歳の大学生・ミカエルとパリでデートした。

エドワード・ファーロングがそのまま大人になったような美しいミカエルに、「君のこと気に入ってるよ。また会ってくれる?」と言われ、たくさんのキスをもらった私は幸福の絶頂にいた。


しかし、「パリから1時間離れた町に住んでいる」「22歳という若さから、将来を考えられない」という理由で、私は彼への好意にブレーキをかけていた。

あんなに幸福感に満たされながらも、ミカエルに対しては「一日デートして、人生の素敵な思い出を残せればいい」という気持ちで、留めておこうとしたのだ。

「そもそもこんな美しい男の子が、私にすっと夢中でいるはずがない。
私なんかより綺麗な日本人女性と出会えば、きっとそちらに心が移るだろう。」

・・・私はミカエルの気持ちを考えず、そう思い込もうとしていた。

Nicolas

30歳になり子どもが欲しいと考え始めた私は、あんなに嫌がっていた結婚を意識するようになった(元々はフランス人男性とのPACSを希望していたが、ビザの問題等外国人である自分には不利なので、その案は却下した)

親友のエリカちゃんには、「これからは結婚を考えられる人しか、会っちゃダメだよ。最低でも30歳以上」と釘を刺され、彼女に紹介された”国際恋愛専用出会い系サイト”でも、30代・40代のフランス人男性を探すようにした。


その中でヒットしたのが、38歳のニコラだった。

写真で見た第一印象は、「ジョージ・クルーニー似のハンサム」だ。

38歳という年齢よりは老けて見えたが、そんなことは全く気にならないくらい、銀幕スターのような美しく整った顔立ちは私の目を惹いた。


そして、彼の最大の魅力は、今まで出会った男性にはない、大人の貫禄と色気と・・・絶大なる安心感だった。

もう既に子どもが2・3人いるのではないか?・・・そんな風格もあったが、彼は私の質問に「離婚歴はあるけど、子どもはいない」と答えた。

”バツイチ・子ナシ”の私と、全く同じ条件だったのも共感を持てた。


結婚相手として考える上で、”父の代からの不動産業を引き継ぎ、経営者をやっている”というのも、経済的に問題なさそうで好条件だ。

私は、今自分が住んでいるアパルトマンの大家さん夫婦・・・あの素敵な日仏カップルを思い出した。

La japonaise

彼はオリエンタリズム趣味のある父親の影響で、昔から日本人女性のエキゾチックな雰囲気に憧れを持っているとのことだった。

私の和顔を気に入ったらしく、チャットで話す時点で「Ma cherie」(マ・シェリ)と呼び、「Bonne nuit」(おやすみ)と言う時はWEBカメラで”投げキッス”をするくらいの惚れ込みようだ。


7ケ月間のフランス生活で肩肘を張っていた私も、この人の元なら心おきなく甘えられそうな気がした。

もしかしたら・・・結婚も視野に入れられるかもしれない。

私がフランスにいられる期間は残り5ケ月で、迷っている暇はない。

私はミカエルに心の中で「ゴメンナサイ」と呟きつつ、ニコラとのデートを決めたのだった。

Mandarin Oriental Paris Restaurant Camélia

ニコラとの初めてのデートは、7月最後の金曜日だった。

「マンダリンオリエンタルホテルの中にあるフレンチレストラン”Camélia”(カメリア)のディナーを予約したよ。」と彼は言った。

【Mandarin Oriental Paris Restaurant Camélia】
1930年代の歴史的な建物を改装して、2011年、高級ファッションブランドの並ぶサントノレ通りにオープンした、ホテル・マンダリンオリエンタル
西洋と東洋の伝統が見事にフュージョンし、その一角にあるフレンチレストラン「カメリア」では、夏に庭園ダイニング「ラ・ターブル・デュ・ジャルダン」を開催している。

私は、パリ中心部のサントノレ通り沿いにあるというそのホテルに向かう。

実際その建物を目にすると・・・自分の経済力では一生縁のないであろう、いかにも高級そうな雰囲気が漂っていた。

事前にネットで調べてきたが、5つ星の格付けより更に上の”パラス”というランクに私は少しビビッている。

「あぁ、日本からドレッシーなワンピを一つ持ってきてて、本当に良かった・・・。」


ホテルのエントランス前で待っていると、長身の体にパリッとしたジャケッを着たニコラが現れた。

その姿を一目見て、”ダンディ”という言葉が頭に浮かぶ。

彼は私の前に歩み寄り、「君と会えて嬉しいよ。」と一輪のバラを差し出した。

単純な私は、「わ、いかにもフランス男らしい!!」と感激してしまった。

誕生日とか送別会以外に花を貰うのって初めてかも・・・。

なぜ女性というのは、こんな時、花に弱いのだろう!?


ニコラはごく自然にそっと私の背中に手を回すと、ホテルのエントランスへと誘導する。

そのエスコートぶりは紳士然としていて、まったくいやらしさがない。

ここまで完璧な大人の男性と歩いていると、自分までセレブ女優になったと勘違いしてしまいそうだ・・・。


私たちが通されたのは、ホテルの中庭の空間部分を利用した、緑豊かなテラス席だった。

ニコラは、私が「夏の野外にテラス席で食事をするのが好き」「都会の中の自然が好き」という言葉を聞いて、ここを選んだらしい。

彼の気の利いたチョイスは、私を喜ばせた。


私たちは、その中でも眺めの良いテーブルに通されて着席した。

ニコラはウェイターにシャンパンを頼むと、このレストランの特徴について、ゆっくりとわかりやすいフランス語で私に説明した。

「ここのレストランのシェフであるマルクスは、”カメリア”だけじゃなく、マンダリン内のレストランを全て監修している。

彼は、柔道黒帯を持っているくらいの大の親日家で、料理の中の随所に日本のエッセンスが散りばめらているんだよ。

僕は日本料理も好きだから、ここはよく来るレストランの一つだ。

きっと君にも気に入ってもらえると思う。」

ジョージ・クルーニー似の甘いマスクが、私に微笑みかける。

・・・今まで自分の人生とは全く無縁だったシチュエーションに、「これは夢ではないか!?」と、私は自分の頬をつねりそうになった。(つねらなかったが)


・・・前回はエドワード・ファーロングで、今日はジョージ・クルーニー。

”国際恋愛専用出会い系サイト”、すごすぎる!!!!!

La conversation

食事中、私たちはたくさんの話をした。

まずは、お互い「どういうところが気に入ったか?」という話題から始まり、ニコラは、「君の日本女性的な美しい容姿とオリエンタルな雰囲気、そして、知的で冷静なところが好きだ。」と言った。

私は、「整った美しい顔と、安心感を与えてくれるところ、父親のような包容力がいい。」と、ニコラの好きなところを挙げた。

彼のフランス語は外国人の私にもわかりやすく、また彼は、私の拙いフランス語を聴き取る能力にも長けている。

そういう意味でも、彼との相性はいいかもしれない・・・そんな気がした。


ニコラはまっすぐ私の目を見て、こう質問した。

「ところで、レイコは再婚は考えているの?」

私は正直に答えた。

「前の夫は日本人だったけど、”Macho”男尊女卑)なところがイヤで別れたの。

次結婚するとしたら、そんな考えをもたないフランス人男性がいい。」

すると、ニコラも自分の身の上話をした。

「僕の前妻はフランス人だよ。

彼女は気性が激しくてヒステリー気味で、付き合いきれなくなって別れたんだ。」

そして、私の手を握り、目を見つめながらこう言った。

「それに・・・僕は昔から、日本人女性に憧れていた。

次再婚するなら君のような人がいいな。」

・・・とりあえず、私たちの意見は一致したようだ。

Après le dîner

カメリアでのディナー後、ニコラはカフェに誘ったが、お腹いっぱいで歩きたかった私は断り、「ちょっと散歩しましょう。」と提案した。


マンダリンオリエンタルホテルを出て少し歩いたところで、ニコラは私に熱烈なキスをした。

「そういえば・・・レストランで結婚の話とかしながら、まだこの人とキスしてなかったな。」

・・・ニコラのキスを受けながら、私はそんなことを考えていた。

彼のキスはとにかく情熱的だったが、その大人の色気を纏ったルックスの割には、「可もなく不可もなく」という感じだった。

フランスに来てからというもの、キスの経験値がやたらと上がってしまった私は、いつの間にか”キスの分析をする癖”が付いてしまっていた・・・。


恋人モードになった私たちは、手を繋いでセーヌ河沿いを歩き、ライトアップされたルーブル美術館を見に行ったりした。

ルーブル周辺の散策が終わると、ニコラは「君のうちまで送るよ。」と言い、タクシーで私のアパルトマンまで送ってくれた。

「『うちに上がらせて』とか言わないかな?」と少し身構えたが、彼はタクシーを待たせて玄関の前で私にキスをすると、「Bonne nuit.」(おやすみ)と言い、そのままタクシーに乗って帰って行った。

「そういえば・・・パリでタクシーで送ってもらうなんて初めてだな。」

何もかも初めての体験に、私は驚いてばかりだった。

大人の男性

帰宅すると、今夜ニコラと会った感想を思い出していた。

今まで年下の男性とばかり付き合ってきた私にとって、ニコラが持つ大人の魅力は何もかもが新鮮だった。

自分が今まで年上男性を避けてきた理由の中に、男というだけでエラそうにする、父親や元・夫への反発があったことは大きい。

でも、年下の女である私を、一人の独立した人間として、尊敬を持って接するニコラの態度は、私の”年上男性への苦手意識”を払拭してくれた気がした。

そして・・・セレブな彼に自分がお姫様扱いされることで、今までにない高揚感を味わったのも事実だ。

「年上の男性と付き合うのも悪くないかもしれない」

ニコラと出会ったことで、私は自分の男性観が変わるのを感じた。

Michaël ou Nicolas

初恋の人にそっくりで、まだあどけなさの残るミカエル。

そして、セレブで大人の魅力たっぷりのニコラ・・・。

一度に恵まれすぎてしまった私は、どちらか一人を選ぶ必要性に迫られていた。

二人ともまだ1回しかデートをしていないが、彼らは毎晩私に熱烈なメールや、チャットのラブコールを送ってくる。

私はどちらともにほど好い返事をして、付かず離れずを保っていた。


そして、彼らどちらか一方のある行動により、私はその人を選ぶことになるのである・・・。


ーフランス恋物語56に続くー


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