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アランとの初デート(フランス恋物語㉞)

Rendez-vous

昨夜ジョゼフに主催してもらったお食事会で、アランと電話番号交換だけでなく、なんと翌日のデートの約束までできてしまった。

その夜は、信じられない幸運と明日へのデートの期待でなかなか眠れなかった。

そして、翌日。

私たちは、14時にオランジュリー美術館前で待ち合わせをしている。

窓の外を見るといいお天気で、絶好のデート日和だ。

どうか、本当にアランが来てくれますように・・・。

Musée de l'Orangerie

私はモネはもちろんのこと、印象派の絵が好きなので、前からオランジュリー美術館に行ってみたいと思っていた。

【Musée de l'Orangerie】(オランジュリー美術館)
セザンヌ、マティス、モディリアーニ、モネ、ピカソ、ルノワール、シスレー、スーティンなどの作品を収蔵している。
1区のコンコルド広場の隣、テュイルリー公園内にセーヌ川に面して建っている。もともとはテュイルリー宮殿のオレンジ温室(オランジュリー)だったが、1927年、モネの『睡蓮』の連作を収めるために美術館として整備されたのである。
1965年からはフランスに寄贈されたジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨームコレクションの散逸を防ぐために保護に当たっている。
1999年8月から改装のため永らく休館が続いていたが2006年5月再オープンした。

私が5分前に入口前に到着して待っていると、14時ぴったりにアランは現れた。

彼が約束通り来てくれたことに、私は安堵した。

笑顔でビズを交わすと、私たちは美術館に入った。


モネはその生涯で200点以上の「睡蓮」を制作したが、そのうちの8点がオランジュリー美術館に所蔵されているという。

「睡蓮の間」は四方が「睡蓮」の絵に囲まれ、ここにいると池の中央に自分がいるような、そんな不思議な感覚がした。

私はモネ独特の色彩が好きだ。

そして、柳や蓮など日本庭園の要素が見られる睡蓮の絵は、日本から来た私にノスタルジーを呼び起こす。

「ここにずっといたい」と思わせるぐらい、「睡蓮の間」が気に入った。

私が感動していると、隣にいたアランがつぶやいた。

「ここには何度か来たことあるけど、やっぱりいいね。全然飽きない。」

好きな人と絵の好みが合ってとても嬉しく思った。

Jardin des Tuileries

オランジュリー美術館はチュイルリー公園の敷地内にある。

美術館を出た後、アランと並んで公園内を散策していると、私の中である記憶が蘇った。

「ここは、3年前に前の夫と来て、私が離婚の決意をしたところだ!!」


同居後まもなく夫に幻滅して、ずっと別れたいと思っていた結婚生活。

簡単に離婚してくれない夫と、仕方なく行ったフランスの新婚旅行

その旅行中、チュイルリー公園で”素敵なフランス人の家族連れ”を見た私は、急にある決意を思い立ったのだ。

「私は絶対夫と離婚する。」

「独身になったらフランスに行って、フランス人男性と恋をする!!」


3年後・・・私は今まさにその夢を叶えている。

色々遠回りもしたけれど、無謀だと思われた夢を「有言実行」できている現実に、私は密かな感動を覚えていた。

もちろん、隣にいるアランにそんなことは話さないけれど。

Café

その後、私たちはセーヌ川にほど近いカフェで休憩した。

アランが好きだと言うそのカフェは、可愛らしくて上品な内装で、その趣味の良さもいいなと思った。

ギャルソンに注文を告げると、私たちはお互いの詳しい自己紹介をした。

アランは28歳で、前はジョゼフと同じ書店員だったが、辞めた現在はフリーライターをしているらしい。

大学の専門はフランスの歴史だと言っていた。

だから、「私がジャンヌ・ダルク好き」という話をした時、すごく興味を示してくれたのだろう。

出身はナントと言っていて、私が「ナントに行ったことある」と言ったら喜んでいた。

また、6〜26歳まで柔道を習っていて、初段の腕前だそうだ。

文系とか、歴史好きとか、武道を習っていたとか、自分との共通点がたくさんあったのがとても嬉しかった。

今度は、私が自分の自己紹介をした。

アランは優しい笑顔で私を見つめながら、ずっと話を聞いてくれる。

その笑顔は私に癒しを与え、安心させてくれるものだった。


カフェに入って一時間くらい経った頃、ふと会話が途切れ二人の目と目があった。

すると・・・ゆっくりとアランの顔が近づき、私の唇に一瞬だけのキスをした。

そのキスは、アランの誠実な人柄そのものを表している気がした。

Pont de la Concorde

カフェを出てからは、私たちは手を繋いでセーヌ川沿いを散策した。

私たちはどちらともなくキスをしたが、それは彼の友人・ジョゼフのものとは真逆の、全然いやらしさのない清らかなものだった。

その映画のようなシチュエーションに酔いしれながらも、私は一抹の不安も抱えていた。

「フランス人の男性は『付き合おう』と言わずに、唇へのキスでその思いを表す」と聞くし、トゥールの彼氏・ラファエルとの交際の時も私たちはキスから始まった。

今回のアランの場合も、そう思っていいのだろうか・・・。


時間はちょうど夕暮れ時で、セーヌ川に映る夕焼けがとても綺麗だった。

私たちはコンコルド橋の途中で歩みを止め、セーヌ川や観光客を乗せたクルーズ船をしばらく眺めていた。

そのクルーズ船を見ているうちに・・・3年前、自分も夫とその船に乗っていたことをふと思い出した。

当時の重苦しい感情が、私の心を一瞬曇らせる。

あの時のセーヌ川も美しく輝いていたが、私の心は鉛色だった。

でも・・・今日の私の心は夕焼けのように明るく、幸せに満ちた温かい色をしている。

あぁ、離婚して本当に良かった。

今私はパリに住んで、素敵なフランス人の男性と一緒に、こうやって美しい景色を眺めているではないか。

「せっかくここまで来たんだから、私は絶対に幸せにならなければならない」・・・私はそう強く誓った。

Dîner

ディナーは、アランが何度か行ったことがあるというビストロに行った。

オーダーを彼にお任せしたら、運ばれてきた料理はどれも美味しかった。

よく考えれば・・・2日連続で同じ人と食事をするというのは不思議な気がする。


私は食後の紅茶を飲みながら、そろそろ大事なことをアランに聞かなければと思っていた。

なぜ私にキスをしたのか、恋人のように接しているのか、本当に私のことが好きなのか・・・確信の持てる言葉が貰えないと不安で仕方がない。

試しに「私のどこに興味を持ったの?」と聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「Tu es gentie.」
(親切)

「Tu es curieuse.」
(好奇心旺盛)

「Tu es très belle.」
(とても美しい)

・・・そんなことを言われても、半信半疑だ。

「どういうところが”curieuse”なの?」

「フランスの歴史が好きだったり、フランス国内や外国など色んな所を旅行して行動的なところ。」

それで少しは納得できたけれども・・・。


私はジョゼフの件もあったし、アランとはまだ3回しか会っていない。

「フランス人の彼氏が欲しい」と思いながらも、この恋に臆病になっていた。

アランのことは、諦めようとしても諦めきれなかった・・・すごく気になっていた人だ。

しかし、あまりにもうまくいきすぎて、私はまだ疑いの気持ちを捨てきれないでいる。

ずっと不安そうな表情をしていると、アランは本当に心配そうな顔でこう言った。

「Pourquoi tu es triste?」
(どうしてそんなに悲しいの?)

その表情を見て、私はやっと「遊び目的ではないのかな」と思えるようになってきた。


それから、ずっとひっかかっていたのが、”シャンティイ・ドライブ”で、私とジョゼフがずっとキスをしていたこと・・・それを知った上で、私を選んだのかどうかも気になった。

でも、それをわざわざ聞くのも野暮な気がして、私は口をつぐんだ。


最後にアランは、「明日と日曜は仕事で会えないけれど、明後日土曜と来週月曜会おう」と言ってくれた。

ここまで言ってくれているんだし、「彼を信じて、少しずつ愛を育んでいこう」と思うことにした。


その夜、アランは私を家まで送ると、別れ際に軽いキスだけをして紳士的に帰って行った。

「私を大事にしてくれている」と思って、彼を信じていいのだろうか・・・。

こうして、私とアランの交際が始まった。


しかし、運命の神様というのは気まぐれで、ずっと私に味方してくれるわけではなかった・・・。


ーフランス恋物語㉟に続くー

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