アランとの再会(フランス恋物語㉝)
L’occation
5月も後半に入った水曜日。
今夜、遂にアランに会える・・・。
約束の時間より少し早めにお食事会の店”奏”(Kanade)に入ると、アランだけが先にテーブルに着席していた。
「!!!!!!!」
できることなら、残り2人のメンバーが来る前に彼と連絡先交換をしておきたい。
「Ça fait longtemps, Alan !」
久しぶりと言って、ビズで再会を喜び合う。
気のせいかもしれないが、アランの表情は嬉しそうに見えた。
隣の席に座ると、私は微笑みながらアランの顔を眺める。
初めて会った3週間前のシャンティイ・ドライブの時は、私の気分が最悪でまともに彼の顔を見ることができなかったから。
そうだな、globeの髪が長い頃のマークパンサー・・・ちょうど「Anytime smokin' cigarette」の頃に似てるかな。
アランも伸ばしかけのボブで、その髪型がよく似合っていた。
アランの魅力を再確認したところで、私は第一の目的である連絡先交換を先にしておかなければと思った。
「フランス語勉強するためにフランス人の友達が欲しいから、連絡先交換しない?」
アランは笑顔で「Bien sûr!」(もちろん)と快く応じてくれた。
初めに目的を果すことができた私は、ホッと胸を撫でおろした・・・。
まもなくして、ジョゼフと若いフランス人の女の子がやってきた。
私はてっきりドライブの時にいたギョームが来ると思っていたのだが、正直アランさえ来てくれれば他のメンバーは誰でも良かった。
「遂にジョゼフの彼女登場か!?」と思っていたら、その女の子は後輩の書店員で、日本食とサブカルが好きだから連れてきたという。
名前はローズで、21歳だと言っていた。
まだ新人で元・書店員だったアランと面識はないようで、お互いに初対面の挨拶をしていた。
まるで東京にある創作料理屋のようなお店で、私たち4人は乾杯した。
テーブルの上には、私が代表で選んだ刺身、天ぷら、揚げ出し豆腐、寿司などの料理が並んでいる。
特に、日本と変わらないレベルの刺身の美味しさに、私は一人感動していた。
食事をしながらなるべく向かい側のジョゼフとローズとも会話するようにしていたが、彼らの話題が現在勤務中の本屋の愚痴に変わったタイミングで、私はアランと二人だけで話すようになった。
私たちの会話は「休日どこに出かける?」から始まり、そのうちMuséeの話題になった。
「オランジュリー美術館に前から行きたいと思っているの。」
「いいね。あそこは特にモネの睡蓮が最高だよね。」
それを聞いて、私は一つの賭けに出た。
「Tu viens avec moi?」
(一緒に行かない?)
「Bien sûr!」
(もちろん)
しかもアランは、「明日はどう?」と言ってきた。
私は「明日行けるよ。」と即答し、これであっけなくデートの約束ができてしまったのである。
果たして、こんなにトントン拍子に進んでいいのか・・・。
私はデートのきっかけを作ってくれた”Claude Monet”に心から感謝した。
L'accident
食事が終わると2軒目はバーに行こうということになったが、ローズは帰ると言って、私とジョゼフ、アランの3人が残った。
私たちが入ったバーはスタンド席しかなく、私たちは3人で小さな丸テーブルを囲んだ。
バーでは二人の会話を何となく聞いているだけだったが、私はアランの近くにいられればそれだけで幸せだった。
1時間ほど経った頃、ジョゼフは「トイレに行く」と言って席を外した。
アランと二人きりになった瞬間、停電で辺りが真っ暗になった。
私たちはお互いの所在を確かめるように身を寄せ合い、耳元で囁くように会話をした。
突然のアクシデントは二人を急接近させ、心の準備ができていない私は胸のドキドキが止まらない。
暗い所で体が触れ合うと、アランのことを男として意識してしまっている自分がいた。
・・・アランは私のことを友達以上に思ってくれているのだろうか!?
明日のデートの約束を取り付けられたというのに、私はもっと先のことまで考えてしまっていた。
しばらくして部屋が明るくなると、私たちは我に返ったように距離を空けた。
心なしか、アランの表情がさっきよりセクシーに見える。
ちょうどそこにジョゼフが戻ってきて、「トイレで急に停電になって大変だったよ。」と自分の苦労話を語り出した。
彼は、さっき私たちの間に起こったちょっとした変化にきっと気付いていないだろう。
Le geste
2軒目のバーを出ようとした時、酔ったジョゼフはわずかな隙を見てキスしようとしてきたが、私はそれを拒否した。(幸いアランはそれを見ていないようだった)
その後3人で散歩してる時も腰に手を回してきたが、私はそれを跳ねのけ、そこからはアラン側を歩くようにした。
さすがのジョゼフも諦めたようで、それ以上はちょっかいをかけて来なかった。
今夜はそんなに寒くなく、散歩するにはちょうどいい気温だ。
最終的に、二人は私のアパルトマンまで歩いて見送ってくれた。
帰宅した後、私は考えた。
彼らは今頃、どんな会話をしているんだろう!?
「自分のナンパした女の子が、友人に心変わりされる」って一体どんな気分なんだろう?
それは想像の範疇を越えすぎて、私には全く解らないことだった。
こうして私の作戦は見事成功し、アランとデートの約束までこぎ着けたのである。
早速明日はアランとのデートだ。
果たして、こんなに上手く行きすぎていいのだろうか!?
この恋が成就するかどうかは、明日になってみないと誰にもわからない・・・。
Kindle本『フランス恋物語』次回作出版のため、あなたのサポートが必要です。 『フランス恋物語』は全5巻出版予定です。 滞りなく全巻出せるよう、さゆりをサポートしてください。 あなたのお気持ちをよろしくお願いします。