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恋を成就させるための作戦(フランス恋物語㉜)

実行

「レイコ、近いうちにみんなで日本食レストランに行こうよ!!」

4人で行ったシャンティイ・ドライブの後、帰ろうとした際にアランが私に投げかけた言葉だ。

・・・私はそれを頼りに、”アランが私との再会を望んでいる”と信じることにした。


5月8日、オルレアンのジャンヌ・ダルク祭りからパリの自宅に帰ってきた私は、ジョゼフから借りたままだったマフラーを見て、ある作戦を思い付いた。

それは、”アランと私を繋ぐ唯一の人物”ジョゼフに動いてもらうというものだった。

Josepheとのメール

ドライブの帰り険悪ムードで別れたのに、数日後ジョゼフは性懲りもなく「今、君の家の近くにいるんだけど、会えない?」とメールを寄越こしてきた。

あんなに嫌われているのにもめげず、いけしゃあしゃあとそんな言動に出られるのは、能天気なのか、よほど自分に自信があるのか・・・。

その時私は日本人の女友達とBellevilleでお茶をしていて、ジョゼフのメールに気付いたのは帰宅してからだった。

ちょっと意地悪い口調で返事を返す。

「残念ながら、私はあの時友達とBellevilleにいたわ。今メールに気付いたけど、一体何の用だったの?」

「特に何もないよ。ただ君のうちのそばを通りがかったから、君に会って”Bonjour"と言いたかっただけ。」

「あ、そう。ところで、ジョゼフのマフラー持って帰っちゃったんだけど、近いうちにあなたが働く本屋に返しに行くね。」

「あぁ、いつでもいいよ。俺は水曜休みだから、その日以外ならいつでもいるよ。」

・・・その言葉を思い出し、”明日は水曜日ではない”ことを確認した私は、アランと再会するのための作戦を実行するため、全てのドラマが始まったあの本屋へ行くことにした。

作戦開始

5月9日の夕方頃。

私はジョゼフのマフラーを携え、10区の”Canal Saint-Martin”(サンマルタン運河)の近くにある本屋に赴いた。

事前に連絡はしなかったため、レジの後ろでぼんやり本を読んでいたジョゼフは、私の突然の来訪に驚いた様子だった。

「Bonjour, Monsieur.」

最後にわざわざ””ムッシュウ”と付け、私は敢えて他人行儀に挨拶をした。

まずは、形式上”一番の用事であるマフラー返却”を、ジョゼフに対してうやうやしく行う。

そして、”当然守られるべき約束”のように私はひと息に言い切った。

「この前、アランが言っていた『みんなで日本食レストランに行く日』、いつにする?」

私の迫力に気圧されたジョゼフは、大人しくその提案に従った。

「わかった。アランに連絡して、いつがいいか聞いておくよ。」

私は心の中で、ガッツポーズをした。

再会までの2週間

翌日の夜、ジョゼフから「アランと連絡を取って、食事会は再来週の水曜日に決まったよ。」とメールが来た。

私は、作戦が着実に成功していることに小躍りした。

「アランと確実に会える日が決まって良かった。あと2週間待とう。」

希望を手に入れた私は、自分の中にとてつもないエネルギーが沸いてくるのを感じた。


この2週間の間に、私の日本語教師の仕事の面でも大きな進歩があった。

日本語教師の資格を持たずに採用された私は、いきなり教壇には立たず、まずは研修を受けるよう学校側から言われた。

研修の内容は、先輩の授業を見学してその後質問をしたり、教授法のレクチャーを受けるというものだった。


私は研修を3時間受けた後、初めての授業を任されることになった。

授業のテーマは「比較級・最上級」で、活用など文法的にも簡単だったのが恵まれていたと思う。

全く緊張せず、ちゃんとした授業として展開することができた。

私は日本にいた時イベント司会の仕事をしていたことがあったので、その経験も大いに役に立った。

授業をしている間、子どもたちがキラキラした目で私の話を熱心に聞いていたのが印象的だった。

授業終了後、後ろで見守っていた先輩方からのダメ出しを覚悟していたが、意外と好意的な総評をいただけたので安心した。

・・・帰宅後の私ははドッと疲れが出て、食後すぐに眠ってしまったが。


日本語教育の教授法には、「翻訳教授法」と「直接教授法」の二つがある。

【教授法】
学習者にとって日本語は外国語(あるいは第二言語)であるので、指導に際しては外国語教授法が用いられる。
翻訳教授法 - 日本語以外の言語を使って日本語を教える方法。世界では、学習者も教師も同じ言語の使用者であるので、こちらが採用されやすい。
直接教授法 - 日本語だけで日本語を教える方法。日本国内では、学習者の母語が多岐に渡る場合が多く、公平を期すためにも、こちらが採用される。

私が勤める日本語学校は、「直接教授法」の方針で、生徒に教える際は日本語を使うのが基本だ。

フランス人である学長との契約など細かいやりとりは、日本人であるベテランの先輩が間に入ってくれ、通訳の役割を果たしてくれる。

「フランスで就業するためにフランス語力を上げる」という目的から解放された私は、トゥールにいた時より、フランス語の勉強を怠るようになっていた。


その頃には、SNSで知り合った日本人の女友達とよく遊ぶようになり、これから行く旅行など頭の中は楽しいことでいっぱいだ。

「ジャンヌ・ダルクの活躍により、シャルル王太子がシャルル7世として戴冠した大聖堂」があるランスにも、友達の一人と行くことができ、いい思い出ができた。

楽な方に流される私は、「フランス語を学ぶことは、フランス人の彼氏と長く交際を続けるための大事な条件」であることを、すっかり忘れてしまっていたのである。

再会の日

5月24日、水曜日。

遂にその食事会の日がやってきた。

ジョゼフが指定した店は、オペラ大通りから脇に入った所にある奏”Kanade”という和食レストランだった。

店内に入ると大きな絵が目に入り、居酒屋というよりもオシャレな創作料理店という雰囲気で、「遊び人のジョゼフらしく、いいお店を知っているな」と感心した。

約束の19時より少し前に着き店内を見回すと、テーブル席で一人で待っているアランの姿が目に着いた。

その思いがけない幸運に、私の心は躍った。

「これは神様が私に与えてくれたチャンスだ。」


この再会は、今後の二人の関係性を大きく変えてゆくものになるのである・・・。


ーフランス語恋物語㉝に続くー

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