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ジャンヌ・ダルクがくれた勇気(フランス恋物語㉛)

気になる人

フランス人男性3人とのシャンティイ・ドライブから戻ると、そのままパリのLina's caféで夕食を食べた。

そろそろ帰る時間となり、私を連れてきたジョゼフとカフェを出ようとした時、アランが私を呼び止めこう行った。

「レイコ、近いうちにみんなで日本食レストランに行こうよ!!」

彼とは今日会ったばかりだが、その優しい人柄に私は惹かれていた。

アランはまた私と会いたいと思ってくれたのだろうか・・・。

La écharpe.

ジョゼフは最後のお守りと思ったのか、単に同じ地下鉄を使うだけなのか、私と一緒にLina's caféを出て同じ電車に乗ってきた。

彼は機嫌を取ろうとして腰に手を回してきたが、私はそれをはねのけ「今日は一人で帰るから、うちまで送らなくていい。」と言った。

彼は「D'accord」とだけ言い、そのまま自分の最寄り駅で降りて行った。


帰宅して、私はあることに気が付いた。

ジョゼフに借りたマフラーを、自分の首に付けたまま帰っていたのだ。

「あぁ、またアイツに会わなきゃいけないのか・・・。」

わざわざ約束を取り付けて彼には会いたくなかったので、彼が働く本屋に返しに行くことにした。


その晩ベッドで目を閉じると、アランの優しい笑顔が浮かんでなかなか消えない。

でも、行きの車中で私とジョゼフがずっとキスしていたことを彼は知っているはずだ。

そんな私のこと、好きになるはずなんてない。

アランのことは諦めよう。

そう言い聞かせて、私は眠りについた・・・。

Les amies japonaises

4月1日にパリに引っ越してきた私だが、5月に入っても周りに友達は一人もいなかった。

パリの合気道道場には通い始めたが、特にそこで友達ができるという感じでもない。

トゥールの道場では、先生はもちろん、アルノーセバスチャンなど、信じられないくらい色んな人に親切にされたことを思い出す。

しかし、パリの合気道仲間は予想以上にクールだった。


私はとにかく、悩み事を相談したり、パリで遊んだり、一緒に旅行に行ってくれる日本人の女友達が欲しかった。

フランス国内のジャンヌ・ダルクゆかりの地巡りもしたいし、パリを拠点にスペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコも絶対訪れようと思っていた。

そこで、SNSの在仏日本人コミュニティで「パリ在住の日本人女性の友達募集」と投稿してみた。

すると、そこで知り合った20代後半の女性たち数人と、友達になることができた。

しかし、5月7・8日に開催されるオルレアンのジャンヌダルク祭りは、元々興味がなかったり、日程が合わないなどで断られ、結局一緒に行ける人は見付からなかった。

仕方がないので、私は一人でオルレアンに行くことにした。

Fêtes de Jeanne d'Arc

ジャンル・ダルク祭りの由来は、「1429年5月8日 百年戦争でイギリス軍に包囲されたオルレアンの街をジャンヌ・ダルク率いる軍が解放した」ことにちなむとされている。

私が7・8日を選んだのは、7日の夜カテドラルを使ったプロジェクション・マッピングと、8日にミス・ジャンヌ・ダルク登場のパレードがあると聞いたからだ。

初日は早めにオルレアン入りし、ジャンヌ・ダルクの家、オルレアン大聖堂、ホテル・グロスロ、オルレアン美術館、考古学歴史博物館、市内の教会・・・とオルレアンの観光名所をくまなく回った。

19時開始の、サン・ピエールマルトロワ教会での合唱コンサートも楽しみにしていて、これもとても素晴らしいものだった。

22時からは、この日一番楽しみにしていたカテドラルを使ったプロジェクション・マッピング。

私はホテルに荷物を置いてきてから、、カテドラルがよく見える場所を陣取り、その時を待った。


開始の鐘の音が鳴ると、カテドラルをスクリーンにして、ジャンヌ・ダルクの生涯が次々と映し出されてゆく・・・。

私は今まで見たことのない、芸術の国が生み出す幻想的な世界観に酔いしれた。

「Excellent !」

ふと、隣から女性の歓声が聞こえた。

声のする方を見ると、私と同じくらいの年のフランス人カップルが、肩を寄せ合い、幸せそうにカテドラルを眺めている。

・・・その姿を見て、一人でオルレアン観光を楽しんでいるつもりだった私の胸に、ぽっかりと穴が空いているのを感じた。

プロジェクション・マッピングの最後の演出は、火刑に処されるジャンヌ・ダルクを象徴するように、カテドラルの下から勢いよく炎が燃え上がっていく。

私の恋心も、いっそのこと燃え尽きてしまえばいいのに・・・。

気が付けば、アランのことを考えてしまっている自分がいた。


翌日8日、ホテルをチェックアウトすると、フランス各地の民族衣装を着た人たちのパレードを見に行った。

中世の雰囲気の残るオルレアンの街で彼らの姿を見ると、昔にタイムスリップしたようだ。

ランチを済ませると、午後から開始される軍事パレードを見る。 

鼓笛隊から始まり、戦車が登場し、空を見上げると軍用機も飛んでいる・・・。

見たことのない光景に私の目は奪われた。


今日はもう、パレードを見ている間ずっと「今、アランが一緒にいてくれたら・・・」と考えてしまう。

まるで失恋旅行みたいじゃないか。


やがて、本日の主役である乗馬姿のジャンヌ・ダルクが登場した。

まだあどけなさを残しながら、髪を短く切り甲冑姿で勇ましく行進するオルレアンの乙女。

その姿は、ただの女でしかない私に勇気をくれた。

祖国のために殉じた少女に比べれば、実らない恋に挑戦することなんて全然大したことない。

「決めた・・・。ダメ元でいい。私はアランを諦めない。」

戦略

オルレアンからパリの自宅に帰ると、私は散らかったままの自分の部屋をぼぉっと眺めていた。

ふと、ジョゼフから借りたままのマフラーが目に留まる。

・・・その瞬間、私の中である作戦が閃いた。

本屋にいるジョゼフにマフラーを返しに行った時、『前にみんなで約束していた日本食レストランに行く日、いつにする?』と言って、具体的にこの計画を進めさせよう。

もしその会食が実現すれば、「フランス語の勉強をする為にフランス人の友達がほしい」という口実で、アランとギョームに電話番号を聞いてみるのはどうだろう・・・。

このマフラーを持って帰ってしまったのも、きっと何かの意味があるに違いない。

ジョゼフには悪いけれど、彼になんとか繋いでもらう。

そう決めると、私は明日にでもその本屋に行こうと考え始めていた。


こうして、ジャンヌ・ダルクがくれた勇気は、次の恋へ一歩踏み出すきっかけとなってゆくのである・・・。


ーフランス恋物語㉜へ続くー

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