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ジョゼフとの出会い(フランス恋物語㉖)

面接

トゥールからパリに戻った日の夜、パソコンを開いてみると、応募中の日本語語学学校から面接日お知らせのメールが届いていた。

トゥールに行くために面接日変更をお願いした後、すぐに返事が来なくて心配していたけれど、ちゃんと別の日を設けてもらえて良かった。


数日後、面接指定日にその語学学校に向かった

その学校は2階建ての建物の中にたくさんの教室が入っていて、私は2階奥の校長室に通された。

私は校長と名乗るフランス人女性と挨拶し、自己紹介や志望動機、希望条件などをフランス語で話した。

彼女が言った今後の流れは、こんな感じだった。

「とりあえず明日の夜授業の見学に来てみて。

その後、日本人の先生にわからないことは何でも質問していいわよ。

明後日には私を相手に模擬授業をしてもらいます。

その様子を見て合否を決めます。」

時給は12ユーロだと聞いて、私は日本語教師の資格を持ってないのに、それだけもらえるのは悪くないと思った。

どれだけ授業を持たせてもらえるかは不安だったが、校長には「フルタイムで働きたいです。」と伝えておいた。

日本語教師

翌日、先輩の日本語教師が教える授業を教室の後ろで見学させてもらった。

その光景を見ていると、2月にトゥールでで小学生に日本語を教えたことを思い出す。

やっぱり、フランス人に日本語を教えるのは楽しそうだ。

私は是非この仕事をやりたいと思った。


授業の後、先ほど授業をしていた日本人女性に今後自分がどうなるかについて質問をすると、こんな答えが返ってきた。

「本来は日本語教師の資格のある人しか採らないけど、今は人が足りなさすぎてそんなこと言ってられない状況だから、採用は大丈夫だと思うよ。

ただ、いきなり授業は無理だから、初めはトレーニングを受けてもらうことになると思う。」

無料でトレーニングを受けさせてもらえるのはありがたいと思ったし、とりあえずやれるだけ頑張ってみようと思った。


さらにその翌日、私は校長相手に模擬授業を披露した。

その場ですぐに「OK」を貰えることができて、心からホッとした。

何回のトレーニングを受けて一人前の日本語教師として扱ってもらえるのか、その後どれくらい授業を任せてもらえるのか、収入的な不安は消えなかったが、とりあえず「仕事が決まった」という体面を保てたことに私は安心した。

ここから、私のパリでの日本語教師の仕事が始まるのである。 

Librairie

3泊4日のトゥール滞在の最終日、遠距離恋愛中のラファエルとの別れを決意した私。

気が付けば、4月も終わりに近づいていた。

「フランス語が拙い私が自分の思いを伝えるには、手紙しかない」

・・・そう思ったのだが、手元に便箋がないことに気が付いた。

「本屋になら、文房具も置いているのではないか」と思い、私は家を出て探してみることにした。


10区の”Canal Saint-Martin”(サンマルタン運河)の近くに、その本屋はあった。

3階建てくらいの大規模なもので、ここなら便箋も置いてそうだ。

階段横の太い柱に各階の取り扱い商品の案内図があったので、「”文房具”ってフランス語で何って言うんだっけ?」と、持って来た電子辞書で私は検索を始めた。

「Qu’est-ce que vous faites,Madame?」
(何をしてますか、マダム?)

声のする方を見ると、ブラット・ピットに似た書店員が興味深そうに私の電子辞書を眺めている。

フランス人でブラピ似って珍しいな~と思いながら、私は答えた。

「便箋が欲しいので、文房具コーナーがどこにあるのか探しています。」

「あぁ、それはここだよ。」

彼は1階の奥にある便箋のある売り場まで連れて行ってくれた。

Joseph

「Merci beaucoup.」

私がお礼を言って便箋を選び始めると、そのブラピ似の書店員は言った。

「僕の名前はジョゼフ。君の名前は?」

私は今までのフランス生活で、「初対面の男性が、名前を名乗ったり聞いたりするのはナンパの始まり」ということを学習していた。

そして、アンヴァリッドのナンパ経験で、「好印象で身元がはっきりしている人なら、ナンパを受けてもいい」という新たなルールを作ったことを思い出した。

この人はここの書店員で身元が判っているし、爽やかそうだし、何と言ってもブラピ似というのがすごい。

そして、「書店員」という知的な雰囲気の職業も私の好奇心を誘った。

「Je m'apelle Reiko.」

私が素直に名前を名乗ると、ジョゼフは嬉しそうに話し始めた。

「レイコ・・・いい名前だね。『本屋で電子辞書を見ている君が面白いな』と思って気になってたんだ。今度良かったらお茶しない?」

「D'accord. 」

こうして、私たちはお互いの連絡先を交換したのである。


彼が去った後、私はいくつかある便箋の中から、バラの模様が美しい便箋を選んだ。

そのバラの絵を見て、3月2日の私の誕生日にラファエルが渡してくれたバラの花束を思い出し、少し感傷的な気分になった。

レジに便箋を持って行くと、さっきのジョゼフが待っていて親し気な様子で私に話しかける。

「素敵な便箋だね。誰に手紙を書くの?」

「日本にいる"Une amie"(女友達)に書くの。」

私はとっさに小さな嘘をついた。


本屋を出た時、神様が気まぐれのように起こした出会いに、私は運命的なものを少し感じ始めていた。

私がラファエルに手紙を書こうとしなければ、ジョゼフには会わなかった。

これは、別れを決意した私へ、神様のプレゼントだろうか!?

もうこの時には、ラファエルへの罪悪感よりも、ジョゼフからのメールを楽しみにしている気持ちの方が勝っていた。


このジョゼフという男との出会いが、のちにさらなるドラマを引き起こすことになるのである・・・。


ーフランス恋物語㉗に続くー

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