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ミカエルとの夜(フランス恋物語91)

Gare de l'Est

10月27日、火曜日。

この日私は、12時に”Gare de l'Est”(パリ東駅)でミカエルと待ち合わせをしていた。

彼とは1ケ月前、彼の地元”Château-Thierry”(シャトー・ティエリ)で会って以来だ。


約束の時間より少し前に、改札の向こうから歩いてくる、美しいミカエルの姿が見えた。

「Reiko・・・!!

私を見付けたミカエルが微笑む。

私たちは抱き合いキスをして、再会を喜び合った。


私は改めて、大好きなミカエルの顔をまじまじと眺めた。

「あれ?前より髪が伸びて、さらに大人っぽくなってる・・・。」

7月に初めて会った時は少年っぽい印象だったが、22歳のミカエルは会うたびに大人の男性に近づいているように見えた。

まぶたにかかる前髪を払う仕草は、前にはなかったセクシーすら感じさせる。

「モデル並みにカッコよくて美しい人が、今夜私の家に泊まりにくる・・・。」

こんな幸せなことがあっていいのだろうか?と私は逆に怖くなった。


ひとしきりキスをした後、彼は聞いた。

「今日はどこに行くの?」

私は、楽しみな気持ちで目をキラキラさせて言った。

「あのね。

私、ミカエルとエッフェル塔に昇ってみたいの。

どうかな?」

ミカエルは意外そうに笑った。

「いいよ。

でも、お腹が空いたな。

まずはランチに行こう。」

私たちは目に入った、駅前のカフェで軽くランチすることにした。

La tour Eiffel

「なんでエッフェル塔に僕と行きたいと思ったの?」

エッフェル塔のエレベーターを待つ列に並びながら、ミカエルは私に尋ねた。

「前から、デートで行きたいと思ってた場所なの。」

「ふ~ん・・・。」

ミカエルは不思議そうな顔をした。


エッフェル塔は、3年前の元夫との新婚旅行で昇ったような・・・気がする。(あまり記憶に残っていない)

でも、パリに住んだこの半年間は昇ったことがなかった。

ミカエルがパリに来ると聞いた時、「”いかにもデート”なエッフェル塔は、デートで行くのにピッタリな場所」だと、私は一番に思い付いたのだ。

有名な観光名所だけに待ち時間は長そうだが、そんなことは気にならなかった。

だって、私たちは見つめ合ってキスしていれば、それだけで幸せなのだから・・・。

【La tour Eiffel】(エッフェル塔)
フランス革命100周年を記念したパリ万国博覧会の目玉として、1889年3月31日に開業した。
建設には、鉄橋建設の際に用いるトラス構造の技術が活用された。
ギュスターブ・エッフェルの指揮のもと、26ヵ月と5日で造られた。
当初は万博のパビリオンの役割をもって建てられ、その後は電波塔としての役割も持っている。
エッフェル塔全体の高さは324m
展望台は3層に分かれ、1階部分が57m2階部分が115m3階部分が276mの高さがある。
2階まではエレベーターもしくは階段で、3階まではエレベーターを使って昇る。
現在は年間700万人が訪れるパリを代表するモニュメントになり、来場者の75%は外国人が占めている。

この日は天気も良かったが、思ったほど待たずに初めのエレベーターに乗ることができた。

2ème étage

まずは2階で降りると、展望台をぐるりと回り、パリの景色を一つ一つ眺めてみる。

2階から頂上の3階に上がるにはエレベーターを乗り継ぐ必要があるので、私たちはその列に並んだ。


待っている途中、日本人のツアーグループが目に入った。

その子どもの集団を見たミカエルは、目を細めて「Ils sont mignons.」(可愛い)とつぶやいた。

私からすると普通の日本人の子どもたちだし、特にモデルレベルというわけでもない。

「そう?私はフランス人の子どもの方が可愛いと思うよ。」

そう言っても、ミカエルは自分の主張を変えなかった。

「そんなことないよ。絶対日本人の子どもの方が可愛い。」

ミカエルの表情を見ていると、お世辞などではなく、本心から言っているのがよくわかる。

その言葉を聞いて、彼が私を「美しい」と言い続けている謎が、やっと解けた気がした。

「そっか・・・こうやって私たちはないものねだりをしているから、お互い惹かれ合っているんだな。」と、私は納得したのだった。

Sommet

私たちはエレベーターを乗り継ぎ、頂上の3階まで到達した。

ガラス張りかと思ったら、下界を隔てるものは荒い網のようなワイヤーだけで、風がビュービューと吹き付けてくる。

10月の終わりのパリの風は冷たかったが、ミカエルとくっついているので全然寒くなかった。


「エッフェル塔に昇るのは初めて」というミカエルが、276mの高さからパリの街を珍しそうに眺めている。

「せっかく来てもらってるんだから」という思いで、私はわかる範囲でガイドのように説明を始めた。

「あれがアンヴァリッドで、ナポレオンが眠っているんだよ。

その横にあるのが・・・。」

私がさらに続けようとすると、ミカエルはキスで唇を塞いだ。

・・・う、この人、こんな上級テクを隠し持っていたとは。

私は面食らった。

ミカエルとは初めてデートした時からずっとキスをしていたが、話す途中でこんな風にされるのは初めてだ。

「パリの観光名所はもういいよ。

それよりも、今夜泊まるレイコのうちってどこにあるの?」

そう言うと、不意に後ろから私を抱きすくめた。

「!!!!!!!!!!」

ミカエル・・・この1ケ月の間に何があったの!?

「え~っと・・・あっちの方かな?」

私はドキドキして、その方向を適当に指差すのがやっとだった。

Supermarché

ミカエルと一緒に行きたかったデートスポットはエッフェル塔だけで、あとは家でゆっくり過ごすつもりだった。

和食好きのミカエルのために料理を作ろうと、日本食のスーパーに連れてゆく。

私は説明をしながら「何が食べたい?」と聞くと、「レイコに任せるよ。」と言ったので、カレーとお好み焼を作ることにした。


食材を求めてもう1ケ所、普通のスーパーにも寄った。

すると、ミカエルが提案した。

「レイコ、前に『君に料理を作ってあげたい。』って言ったよね。

僕も作っていいかな?」

・・・私は彼が料理好きなことをすっかり忘れていた。

「是非お願いしたいわ。何を作ってくれるの?」

「そば粉のガレット。母の出身地、ブルターニュの名物なんだ。」

そば粉のガレットは東京の専門店でも食べたことがあり、私も大好きだった。

ミカエルは私のうちにある物を聞きながら、必要な食材を選び始めた。

Chez moi

その夜、私が作ったカレーをミカエルは美味しそうに食べてくれた。

おかわりもしていたが、こんな細い体にどうやって入るのか不思議だった。


私が皿を洗っていると、ミカエルは「シャワーを浴びてくる」と言った。

あぁ、これで私が交代でシャワーに入れば、ミカエルと一緒に寝ることになるのか・・・。

私はその後起こることを想像して、顔が赤くなった。


sur le lit

一緒にベッドに入ると、ミカエルは強く私を抱きしめた。

同じボディソープを使っているはずなのに、ミカエルの首元からはすごくいい匂いがする。

私たちはキスをしたが、今までのものよりも湿り気を帯びている気がした。

たくさんのキスをした後、ミカエルは私のTシャツに手をかけた。

彼が私の服を脱がすのは初めてのことで、私はドキドキしながらされるがままになっていた。

ミカエルの唇が、私の首筋から下の方へとゆっくり這ってゆく。

そこまでは、想定の範囲内だったのだが・・・。


ミカエルは、足の爪先から私を丁寧に舐め始めた。

彼のような美しい男の子にここまでしてもらうのは、さすがに申し訳ない。

「Arrête.」と抵抗してみたが、やめる気配は全くなさそうだった。

私はすぐに諦めて、彼の好きなようにさせることにした。

ミカエルの美しい目に見つめられて体を愛撫されるのは、今までにない快感が伴う。

私は思わず、甘美な溜め息を漏らした・・・。

彼は、私の全身を隈なく、繊細な唇と舌で埋め尽くしてゆく。

その行為は、私を味わい尽くそうとする、彼の果てない愛と欲望を感じた。


・・・そんなつもりではなかったのに、今夜の私は完全に受け身だった。

それが彼の望みだったのかどうかはわからない。

ただ自分の体を差し出し、ミカエルの望むがままにさせていた。


その中でも・・・私が最も感じて声をあげてしまったのは、背中の窪みの部分だ。

ミカエルの接吻により、まるで背中に羽が生えたような、夢見心地な感覚に陥った。

まさか、彼がこんなに女性の体を知っていたなんて。

私はミカエルを「若い男の子」と侮っていたことを、心の中で謝罪した。


彼は最後に、私のショーツを下ろそうとした。

次はどんなことをするつもりなんだろう?

緊張と期待が高まる。

私が一糸纏わぬ姿になると・・・ミカエルは言いにくそうにある言葉を伝えた。

「Reiko・・・tu saignes.」

え!? ”出血している”ってどういうこと!?

もしかして、生理始まった!?

事実を確認すると、私はいっきに現実に引き戻された。

このアクシデントにより、私たちは"faire l'amour"を中断せざるを得なくなった。

Bonne nuit

私は謝ったが、ミカエルは「気にすることないよ。」と言って、優しく抱きしめてくれた。

私の予定では、生理が来るのはもう少し後のはずだったのだが・・・。

慣れないマルタ留学帰国準備で、気が付かないうちにストレスが溜まっていたのかもしれない。

「やっぱり、私たちは結ばれない運命なのかな。」

”それまで”が、今までの人生でも一番というくらいすごくいいものだっただけに、その先を知らないまま終わるのは、とても残念に思われた。

「こればっかりは仕方ないね、マシェリ。」

ミカエルは私のおでこに優しくキスをして、ずっと髪を撫でていた・・・。


私たちはついさっきまで、「抱き合ってキスができればそれでいい」と思っていた。

でも、新しい快楽を知ってしまうと、それだけでは物足りなくなってしまう。

あと数日で私は帰国するし、ミカエルが日本に来ない限り、私たちが会うことはないだろう。

私たちはこのまま、中途半端な関係で終わってしまうのだろうか・・・。


その夜、ミカエルに抱きしめられて幸せなはずなのに、モヤモヤした気持ちを消せないまま眠りについた・・・。


明日、私とミカエルは最後の一日を迎える。

しかし彼にとっては、これが最後のつもりではないようだった・・・。


ーフランス恋物語92に続くー


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