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パリのシンデレラ(フランス恋物語59)

Le rêve

その夜、私はミカエルの夢を見ていた。

駅のプラットホームで、私とミカエルはキスをしている。

ミカエルは、初恋の人”エドワード・ファーロング”にそっくりで、とても美しい・・・。

ずっとキスしていたいのに、夢の中の私は泣きながらこう言っている。

「ごめんなさい。

私は他の人と結婚しなきゃいけないから、もうあなたとは会えないの。」

ミカエルはキスをやめると、悲しい顔をして私を強く抱き締めた。

「わかったよ、マシェリ。

これでお別れだね。

アデュー。」

間もなく発車のベルが鳴り、私たちは無情にも引き離された。

「ミカエル~!!!!」

泣きながら電車を追う・・・。


私はそこで目が覚めた。

La réalité

目覚めると、ニコラが心配そうに顔を覗き込んでいる。

「Bonjour,Reiko. Ça va?」

・・・あぁ、そうだった。

昨夜私はニコラと結ばれて、名実共に恋人関係になったんだっけ。

「大丈夫よ。

夢に日本の両親が出てきて、ホームシックで泣いただけ。」

私はとっさに嘘をついた。

本当は、実家の両親なんて会いたいと思っていないくせに。

「そうか・・・。

レイコは半年以上も日本を離れて心細いよね。

これからは僕がたっぷり愛してあげるから、何も心配しなくていいよ。」

そう言って、ニコラは私にたくさんのキスをくれる。


次第にそのキスが発展して、”朝の部”に突入そうな勢いだ。

・・・まぁいいや。

昨日ニコラを選ぶと決めたのは私。

彼と愛し合うことで、ミカエルの記憶を上書きするしかない。

私は気持ちを切り替えて、ニコラの愛撫に没頭することにした・・・。


”朝の部”が終わり一眠りした後、目覚めると12時前だった。

「平日なのに、仕事は大丈夫なの?」

私が尋ねると、ニコラは服を着ながら答える。

「何言ってるの?8月のフランスはバカンスだよ。

商談が入る時もあるけど、僕は基本的に自由さ。

これからはレイコとの時間を最優先にするつもりだよ。

今日も君さえ空いてれば、ずっと一緒にいたいと思っている。

レイコの今日の予定は?」

私の日本語教師の仕事は、8月のグループレッスンはバカンスで休みで、個人レッスンのみ受け持つことになっている。

今日は個人レッスンはないので完全に休みだ。

「私も今日は休みだけど、どこに行くの?」

「まずはブランチを食べに行こう。何が食べたい?

あっさりした物が食べたくて、フランス料理という気分ではなかった。

「アジア料理・・・。たとえばタイ料理とか。」

私の予想外の回答に、ニコラは喜んだ。

「いいね!!この近くにいいレストランがあるから案内するよ。」

・・・私は苦手な料理から解放されたのが、すごく嬉しかった。

Mai Thai

ニコラが連れて行ってくれたのは、マレ地区にあるカフェ・デ・ミュゼの道を挟んで向かいにある、”Mai Thai”というタイ料理店だった。

コロニアルスタイルのインテリアが目を惹くおしゃれなお店で、パリっ子たちにも人気があるようだ。

ランチメニューは前菜、メイン、デザートがセットになっていて、私はパクチー抜きの鶏そぼろ、ニコラはココナッツミルクカレーをオーダーした。

フランス人向けなのであまり辛くなくマイルドな味だったが、私はタイ料理が食べられて満足だった。

「レイコは、アジア人なのにパクチーが苦手なんだね。」

ニコラが意外そうに言う。

「だって、パクチーは元々日本にあった物じゃないもの。

同じアジアと言っても広いんだよ。」

「そうか。まだまだ知らないことだらけだな。

もっと僕に日本のことを教えておくれ。」

そう言って、ニコラは私にキスをした。

La surprise

ランチを終えると、ニコラは「連れて行きたい所がある。」と言って、私を車に乗せた。

着いたのは、1区のカンボン通りにあるシャネル本店だった。

ドアマンに促され中に入ると、今までの自分とは無縁だった、煌びやかな世界が広がっている・・・。

ニコラはニコニコしながら私に言った。

「レイコと会ってから考えていたんだけど、君に似合うのはシャネルじゃないかなと思ったんだ。

ここにある物何でもプレゼントしてあげるから、欲しい物言ってごらん。」

・・・そんな「プリティーウーマン」みたいなことが自分の身に起こるなんて。

私はめちゃくちゃ驚いた。

確かに、シャネルは私の好きなブランドだ。

OLの時、自分へのプレゼントでシャネルの手帳や小物を買ったことがある。

店内を見れば、自分が欲しい物なんていくらでもあるだろう。

・・・でも、付き合ったばかりの恋人に、こんな高価な物を買ってもらうのは何か違う気がした。

「ありがとう。

私はシャネルは好きだし、ニコラの気持ちはすごく嬉しい。

・・・でも、今は何もいらない。」

そう言うと、不満そうなニコラを振り切り、外に出た。

Le Café

シャネル本店近くのカフェで、私たちはさっきのことについて話し合った。

「なんでレイコはプレゼントを断ったんだい?

君にシャネルは似合うと思ったのに・・・。」

私の辞退が、ニコラは不思議で仕方がなかったようだ。

「私はシャネルは好きよ。

今使っている手帳もシャネルだし。

でも、誕生日でもないのに、あなたに買ってもらうのは何か違うなって思ったの。」

私は思ったことを率直に話した。

ニコラは自分の思いを畳みかけるように言う。

「僕は、君と恋人になれて本当に嬉しいんだよ。

僕が君にできることは何かないかい?

君が今、本当に欲しいものって何?」


・・・私が今本当に欲しいもの、それなら2つある。

「フランス語力と、日本語教師の資格かな。」

それを聞いたニコラは喜んだ。

「素晴らしい答えだね。

じゃ、どちらも援助するよ。

フランス語の良い先生は僕が探しておく。

日本語教師の資格の通信教育は君が申し込んでおいて。

受講費用は僕が持つから。」

・・・この2つは、どちらも喉から手が出るほど欲しかったが、資金難で諦めていたものだった。

私は少し考えてから、遠慮せずその申し出を受けることにした。

「本当!? すごく嬉しい!!私頑張るね。」

私は目を輝かせて、ニコラにお礼を言った。

「僕にできることなら何でも言って。

そうだな・・・僕もそろそろ日本語のレッスン、本気で受けなきゃ。」

ニコラも思い出したように言った。

Le Ciel de Paris

この日のディナーは、モンパルナスタワーの56階にあり、エッフェル塔などの景色が一望できるフレンチレストラン”Le Ciel de Paris”だった。

このレストランの存在はガイドブックで知っていたが、なにぶん高いので「パリにいく間に奮発して1回行けたらいいかな?」と思いながら、なかなか行けずじまいでいた。

ニコラの経済力だと、こんなレストランも気軽に行けるんだ。

金銭感覚が麻痺しそうで怖い・・・。


ニコラが事前に予約してくれていたのか、私たちはエッフェル塔の見える窓際の席に案内された。

メニューやワインのオーダーはニコラに任せ、私は地上210mから見下ろす外の景色に魅入っていた。

ヨーロッパの夏は夜が長いので、夕焼けに照らされるパリの街並みがとても綺麗だ。

高い位置から見るエッフェル塔も圧巻だったが、区画がきれいにブロックされたパリの街を俯瞰できるのが面白い。

凱旋門や、アンブァリッドなど、特徴のある建物を見て、そこに纏わる思い出を回想したりした。

そういえば、アンブァリッドの職員にナンパされたこともあったっけ・・・?

その話をニコラにしたら、彼は嫉妬するだろうか?

いや、彼ぐらいの男性になると、嫉妬するどころか喜びそうな気がする。


そんなことを考えているうちに、前菜が運ばれてきた。

フォワグラを口に運びながら、ニコラが私に言う。

「今日はレイコと一緒にいられて幸せだったよ。

僕は毎日君と一緒にいたい。

今夜はレイコが僕のうちに泊まりに来てくれないかな?」

そこまで言われるとは思わなかったので、私は驚いた。

「私も、あなたといられて幸せよ。

でも、明日は日本語の個人レッスンがあって準備しなければいけないから、今夜は一緒にいられないの。

明日の夜で良ければ、あなたのうちに泊まりに行けるけど、それでいい?」

ニコラは納得したようだ。

「わかったよ。じゃ、君の用事のない日は、なるべくうちに泊まりにおいで。

僕の家の方が君んちより広いし、ベッドも大きいから二人でゆっくり眠れるよ。

足りない物があれば買うから、何でも言って。」

私は、ニコラの家がどんな感じなのか、興味があった。

私は自分の家にバスタブがないのが不満だから、ニコラの家にはあったらいいなぁ・・・。


私たちはメインの仔牛のローストを味わいながら、外の景色を楽しんだ。

陽がどんどん落ちていって、夕闇に染まってゆくパリの街並みは絵画を見ているようだ。

デセールが届く頃には、外は真っ暗になり、街の灯はキラキラ輝きだして、まるで星空みたい・・・。


今私は、パリに住んでから一番と言ってもいいくらい、最高の気分でディナーを迎えている。

隣では、ハリウッドセレブのような風格を湛えたニコラが私を見つめて微笑む。

「レイコ、愛しているよ。

君を幸せにするためなら、僕は何だってやる。

君はそれくらいの価値がある、素晴らしい女性なんだよ。」


たった一日で変わってしまった環境に、私は驚きながらも感謝した。

やっぱり、私はこの人を選んで良かった。

親友のエリカちゃんミヅキちゃんもお墨付きをくれたし、間違いない。

・・・今朝、ミカエルの夢を見て泣いていた私は、もうそこにはいなかった。


この後、私とニコラはさらに親密となり、二人の関係はさらに発展してゆくのである・・・。


ーフランス恋物語60に続くー


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