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カミーユとローズから学んだ教訓(フランス恋物語56)

Michaël ou Nicolas

親友・エリカちゃんが教えてくれた”国際恋愛専用出会い系サイト”は大当たりだった。

登録後1週間以内に、私は二人の素敵なフランス人とデートをし、キスをする関係にまで進展した。

一人は、エドワード・ファーロング似の大学生、ミカエル、22歳

もう一人は、ジョージ・クルーニー似の不動産経営者、ニコラ、38歳

一度に贅沢すぎる状況に立たされた私は、どちらも選べずにいる。

7月も終わりで、私がフランスに住めるのは残り5ケ月。

ぐずぐずしている暇はないのだが・・・。

Musée Rodin

ニコラと初デートをした数日後の、8月に入ったある日。

私はエリカちゃんとMusée Rodin(ロダン美術館)に行く約束をしていた。

ロダンと言えば、「考える人」「地獄の門」ぐらいしか知らなかったが、「せっかくパリに住んでいるのだから見ておかなければ」と思っていたのだ。 

午後、ロダン美術館前で私たちは待ち合わせた。

夏の太陽に照らされたエリカちゃんは、相変わらず美しい。

エリカちゃんに会ったら、まずミカエルとニコラの話をしたかったのだが、「長くなりそうなので後でゆっくり話そう」と、とりあえず黙っておくことにした。

ロダン美術館 (Musée Rodin)
パリ7区にある美術館で、オーギュスト・ロダンの自己の作品及びロダンがコレクションした美術品を中心として所蔵する。
美術館の建物自体は、1908年から亡くなるまでの10年間、ロダンがアトリエとして使い、暮らした「ビロン館」(Hôtel Biron) である。
1911年にフランス政府がビロン館を買い取ることとなったときに、この館を気に入っていたロダンが、自己の作品及びコレクションを国家に寄付するので、美術館として残して欲しいと提案彼した。
ロダンの死後の1919年に開館し、2005年に改修されている。

館内に入ってみると、ロダンの作品だけでなく、彼が収集していたという印象派の絵も展示されていたことが意外だった。

Camille Claudel

でも、一番目を惹いたのは、ロダンの弟子でもあり、長年恋人関係だったといわれる”Camille Claudel”カミーユ・クローデル)の作品だった。

なぜ同じ館内に、彼女の存在を色濃く残そうとしたのか・・・。

美術に詳しいエリカちゃんが、二人の関係を詳しく説明してくれた。

Camille Claudel(カミーユ・クローデル)
カミーユは19歳の時に42歳のロダンの弟子となり、やがて恋人関係となった。
しかし、ロダンには内縁の妻ローズ(38歳)がおり、以後15年間も複雑な三角関係が続く。
カミーユの作品は常に「ロダンの模倣」と評され、妊娠・中絶という出来事が追い打ちをかけ、2人の関係は破綻し、ロダンはローズのもとへ帰っていった
心を病んだカミーユは40代後半に統合失調症を発症して精神病院に入院
その後30年間にわたって隔離生活を余儀なくされ、終生故郷に戻ることはなかった。
生涯確執が消えなかった母、妹とも疎遠になり、唯一親交を保っていた弟ポールにも看取られることなく、1943年に78歳の生涯を閉じた。

エリカちゃんは、さらにこの展示室ができた経緯も教えてくれた。

「カミーユの惨状に胸を痛めたロダンは、自身の美術館の建設にあたって、その一室をカミーユ・クローデルの展示室にするよう遺書を残したんだって。

精神を病んだカミーユは自分の作品をたくさん壊しちゃったらしいけど、現存するものがここに展示されているらしいよ。」

初めて知る三人のドラマを聞いて、私はカミーユに同情した。

ロダンのせめてもの罪滅ぼしだったんだろうね。

死後こうやって自分の作品が多くの人に見られるのは良いけど、生前は浮かばれなかったカミーユが可哀想・・・。」

エリカちゃんはさらに、ローズの情報も付け加える。

「ちなみに、ロダンは死ぬ直前の70代の時に、ローズと正式な夫婦になったらしいよ。」

私は、なんでロダンがそんなにモテるのかがわからなかった。

「ロダン、芸術家としてはすごいんだろうけど、男としては最低だね。」

「まぁ、そういう私生活がハチャメチャなところが、芸術家なんだろうけど。」

・・・確かに、よく言われる言葉である。

L`age mur

そんな前情報を知った後の、カミーユの作品「分別盛り」(原題「L`age mur」)は胸に迫るものがあった。

老婆に導かれるように連れ去られる男性と、両膝をついてそれに追いすがる若い女性・・・。

まさにカミーユ自身が置かれた関係を表現した作品で、「行かないで」という悲痛の叫びが聞こえてきそうだ。

・・・私はこれを見た時、”恋愛の危うさ”と”結婚の堅実性”を痛感した。

Girls talk

美術館を出た後は、庭園のカフェで休憩することにした。

バラが有名なロダン美術館の庭園は現在見頃ではなかったが、深緑を眺めながら飲むペリエもなかなか良かった。


私はここぞとばかりに、エリカちゃんにこの1週間の恋愛報告を始めた。

「エリカちゃんの教えてくれたあのサイトすごいよ!!

2人も恋人候補が出来ちゃった。」

私の予想以上の快挙に、エリカちゃんは前のめりになる。

「え、本当!?すごいじゃん!!・・・で、どっちにするの?」

私は、ミカエルとニコラのプロフィールと、それぞれのデートの様子をかいつまんで報告した。

「え、それ、絶対ニコラでしょ?迷う必要なんてある?」

・・・エリカちゃんの感想は、100%予想通りのものだ。

彼女の言うことはもっともなのだが、私は精一杯の抵抗をしてみた。

「でも・・・ミカエルとキスをした時の、あの幸福感が忘れられないの。」

私のお花畑な回答に、彼女は呆れたように言った。

「レイコちゃん・・・キスで生活はできないよ。

自分の置かれた立場をわかっているの?

日本語教師の仕事だって不安定なものだし、そもそも今のワーホリビザのままだと年末には帰国しなきゃいけないんでしょ?」

・・・彼女の言うことが正しすぎて、私はぐうの音も出ない。


私はさっきの「分別盛り」を思い出した。

”配偶者”という立場を得られれば、老婆になってもその身分は安泰だ。

夫がうつつを抜かした若い娘にも法的に勝つし、夫の遺産も当然のごとく受け取れ、その生活は保障されている。

やはり、エリカちゃんの言う通り、初めから結婚前提で話を進めてくれているニコラにするべきなのだろうか・・・。

La promenade

ロダン美術館を出た私たちは、近くのChapelle Notre-Dame de la Medaille Miraculeuse(ノートルダム・ド・ラ・メダイユ・ミラキュルーズ教会)へ行って、”奇跡を起こす”と言われているマリア様のメダルを買ったり、Eglise St-Sulpice(サン・シュルピス教会)に行き、堂内の子午線をまじまじと眺めたりした。

その後、Jardin du Luxembourg(リュクサンブール公園)に行き、終わることのないガールズトークを繰り広げた。

Le dîner

だんだんお腹も空いてきたので、レストランがたくさんあるというモンパルナス通りをエリカちゃんに案内してもらった。

彼女お薦めの、”安くて美味しい”というフレンチビストロに私たちは入る。

牡蠣好きの彼女と1ケ月ぶりの生牡蠣を堪能していると、ニコラから「Qu'est-ce que tu fais en ce moment ?」(今、何してる?)と電話がかかってきた。

「女友達とディナー中。」と答えると、「終わる頃に迎えに行って、君たちを車で送ってあげるよ。」とニコラは提案した。

エリカちゃんに伝えると、「いいじゃん!!送ってもらおうよ。私もニコラに会ってみたいし。」とノリノリだったので、その申し出を受けることにした。

「じゃ、2時間後に来て。ビストロの詳細はメールで送る。」と言うと私は電話を切った。

Nicolas

2時間後・・・。

窓の外を見ると、車を降りて手を振るニコラが見えた。

私たちは急いでお会計をすると、ニコラの元に駆け寄った。

彼の車は国産車ではなく、真っ黒のベンツだった。

日本では高そうだけどフランスではどうなのか、私にはよくわからない。

彼は初めて会うエリカちゃんにも、紳士的なビズをしていたが、美男美女のその姿は、映画のワンシーンのようだった。


車に乗り込むと、フランス語が堪能なエリカちゃんは、ニコラに質問攻めを始めた。

どうやら、私への想いが本気かどうか、色々聞いてくれているようだ。

完全に会話は把握できなかったけれど、隣で運転しているニコラの表情は、真摯なものに見えた。


エリカちゃんを先に送り届けると、ニコラと私は二人きりになった。

私は、「今日彼女とどこに出かけたか」について報告すると、ニコラは満足気に頷いた。

まるで、娘を迎えに来たお父さんのようだ。

・・・でも、その父娘のような関係も、私のアパルトマンの前に着くと豹変した。

Michaël

車を停めたニコラは、助手席に座る私に濃厚なキスを始めた。

イマイチそのキスに集中できず、色々なことを考えてしまうのは、なんでなんだろう?

目を瞑った私の脳裏には、ミカエルとキスをした時の高揚感が蘇った。

「やっぱり私が好きなのは、ミカエルなのかな・・・。」

そう思うといてもたってもいられなくなり、私はニコラから離れ、「ごめんなさい。今日は疲れているからもう帰りたい。」と言った。

ニコラは「わかったよ。」と優しく微笑み、最後の軽いキスをすると、私を解放してくれた。


自宅に帰り、携帯を見ると、エリカちゃんから、「ニコラの気持ちは本気だから大丈夫だよ。お幸せに!」とメッセージが入っていた。

そのすぐ後に、ミカエルから「Tu me manques.」(君がいないと寂しい)というメッセージも届いた。

・・・私はどうしたらいいのだろう?

ミヅキ

数日後には、もう一人の女友達、肉食系女子”ミヅキちゃん”とのリヨン旅行が控えていた。

エリカちゃんとは真逆の視点を持つ彼女にも、相談してみよう。


彼女との旅によって、私がどちらの男性を選ぶのか、遂に決まるでのある・・・。


ーフランス恋物語57に続くー


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