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ミカエルへの謝罪(フランス恋物語60)

選択

7月後半、親友エリカちゃんが紹介した”国際恋愛専用出会い系サイト”で、全く違う魅力を持つ二人の男性と私は知り合い、デートをした。

それは、22歳の大学生・ミカエルと、38歳の不動産経営者・ニコラだ。

初めは初恋の人にそっくりのミカエルに惹かれていたが、結婚を考えられる相手であるニコラの押しに負けて、最終的には彼を選んだ

セレブな彼と付き合うことによって、私の8月からのパリ生活は余裕のあるものに変わり、それは何よりの安心感に繋がった。

しかしそれは、”ミカエルと切る”ことを決意しなければならない、ということでもあった。

Michaël

ニコラとの交際をスタートさせた翌日。

この日の午後、翌日の授業のための準備があり、私は一人家にいた。

私は日本語教師をしているのだが、無資格の私でも学校内で個人レッスンを受け持つことになったのだ。

授業内容は完全に任されていたので、自分で資料などを用意する必要があった。


ニコラからは「毎日一緒にいたいから、なるべくうちに泊まりにおいで。」と言われたのだが、今夜はそのために断っていた。

さっき、授業の準備は終わった。

ミカエルに「もう会えない」と伝えるのは、今夜がチャンスだ。

明日以降の夜は、予定がない限りニコラとずっと一緒にいるかもしれない・・・。


電話を使ってフランス語で話すのは苦手だったので、二人が登録している”国際恋愛専用出会い系サイト”内の機能のチャットで、ミカエルと話すことにした。

私がオンラインにすると、彼はすぐに話しかけてくる。

私目当てなのか、他にもいい日本人の女の子がいないか探しているのか、どちらかなのはわからないけれど・・・。


サイトをオンラインにすると、早速ミカエルが話しかけてきた。

レイコ、なんで最近チャットしてくれないの?
もう忘れてほしいってこと?

うわ~、いきなり直球で来た。

でも、これなら初めから本題に入れるし良かったかも・・・。

私は手短に話した。

ごめんなさい。
他の人と付き合うことになりました。
私のことは忘れてください。

どんな返事が来るのかドキドキしていたら、ミカエルからこんな返事が返ってきた。

わかったよ。
でも、どうして僕じゃダメだったの?

これも正直に話すしかない。

私は、パリに住んでいる人と付き合いたかったから。
それに彼は38歳で、結婚を考えられる年齢なのも良かった。
あなたはまだ学生だから無理でしょ?

ミカエルには悪いが、これで諦めてくれるだろう。

わかったよ。
お幸せに。
でも、今まで通りレイコと連絡は取り続けたい。

最後の一行に、私は思わず「え!?」と声が出た。

なんでミカエルはそこまでして、私と連絡を取り続けようとするのだろう。

一度デートしてキスしただけの関係だし、他に彼氏ができた女なんて用がないはずなのに。

でも・・・特に断る理由も思い付かなかった。

いいよ。

私はつい、こんな返事を返してしまった。

「どうせすぐにいい子が見付かって、私のことなんて忘れるだろう。」

ミカエルがあまりに美しすぎるので、私はそう思い込んでいた・・・。

Le restaurant japonais

ミカエルとチャットをした翌日。

午後の日本語の個人授業を終えた私は、ディナーとお泊まりの約束をニコラとしていた。

ディナーの店は、オペラ地区にある日本料理屋をリクエストした。

ここは、お好み焼きが食べられるのが売りの店だった。


”ジョージ・クルーニー似”のニコラがお好み焼きを食べる姿は、ギャップがあって面白い。

彼もお好み焼きが好物のようだ。

「何度かお好み焼きを食べたことがあるけど、美味しいね。

これはフランス人にも好まれる味だよ。」

それを聞いた私は、いかにお好み焼きが好きかを語った。

「私は今まで何度も家で作って食べたけど、やっぱり外で食べるお好み焼きは比べ物にならないくらい、すごく美味しいと思う。

あぁ、日本のお好み焼き屋が恋しくなるなぁ。」

セレブなニコラはこんなことを言った。

「もし日本に一時帰国したかったら、連れて行ってあげるよ。

僕も日本が好きだし。

レイコは日本のどこに行きたい?」

それよりもヨーロッパを満喫したかった私は、自分の意見を言った。

「パリにいれば日本の味が食べられるから、帰国しなくていいよ。

それよりも、私はパリを拠点に行きたい所がたくさんあるの。

フランス国内で一番行きたいのは、ジャンヌ・ダルクの生まれ故郷のDomrémy(ドンレミ)でしょ。

あと、ヨーロッパなら、夏の間にギリシャのサントリーニ島に行きたいし・・・。」

それを聞いたニコラの目が輝いた。

「いいね!!

レイコは外国人なのに、そこまでジャンヌ・ダルクが好きだなんて面白い。

サントリーニ島は僕も興味があって、素敵な彼女ができたら一緒に行きたいと思ってたんだ。

この8月にどちらも行こうよ。」

私は嬉しかったが、ニコラがそんなに休めるのか心配になった。

「いいの?だって仕事は?」

ニコラは私の頬を撫でながら言った。

「8月はバカンスだって言ったでしょ?

僕は基本的に空いてるよ。

8月の間に行きたい所はどこでも連れて行ってあげるから、他にもあれば遠慮なく言うんだよ。」

嬉しい!!

今月中に、ドンレミもサントリーニ島も行けるなんて!!

私は「Merci beaucoup!!」(ありがとう)と言うしかなかった。

・・・こんな時「この人は娘を溺愛する父親みたいだな」と、私はいつも思う。

Chez Nicolas

この夜、私は初めてニコラの家に泊まりに行くことになった。

さすがと思ったのが、彼はパリの中でも高級住宅街と呼ばれる16区のパッシー地区に住んでいるということだ。

「結婚していた時の一軒家は前妻にあげたから」と彼は言ったが、現在住んでいるアパルトマンも、一人で住むには十分すぎる広さだった。

「これからここが自分の第二の家になるかも」と思った私は、隅から隅まで家の中を見せてもらった。

内装はモデルルームのようなオシャレな作りで、ニコラのセンスの良さを感じる。

驚いたのは、専用のトレーニングルームかあったことだ。

バリバリ仕事も遊びもこなす男は、健康管理や体力維持が大事だということか。

私が一番嬉しかったのは、我が家にはないバスタブが設置されていたことだった。


それにしても、男性の一人暮らしにしてはすごく綺麗な家なので、私は思わず聞いてみた。

「こんなに広い家だと、自分で掃除するの大変じゃない?」

ニコラはセレブならではの返答をした。

「自分で掃除なんてしないよ。

週に3日ぐらいハウスキーパーに掃除を頼んでいるよ。」

ハウスキーパーとは、憧れの響きだ・・・。

「でも、料理は自炊するよ。

もちろん僕が作るから、レイコは何もしなくていいよ。」

・・・至れり尽くせりで、まさに最高な男性だと思った。

L'effort

その夜、ニコラに抱かれながら私は考えた。

私が彼に返せるのはこれしかない。

ここで頑張らないと。

ニコラは38歳という年齢の割に性欲は旺盛な方だった。

フランス人の一人目の彼氏・ラファエルが20歳で淡泊だったのを思い出して、「男性の性欲というのは、年齢よりも個人差の方が大きい」ということを、私は身を持って知った。

ニコラの愛の行為に淫靡さというものはあまりなく、どちらかというと”スポーツ”に近い感覚だった。

それは私にとって初めてのことだったが、だからこそ、技術と快楽に集中できるといえなくもない。

私は余計な情緒はなるべく排除し、持っている限りの技巧を尽くした。

その思惑は成功し、彼はますます私にのめり込んでゆくようだった。


こうして、私たちの不思議な恋愛関係はどんどん深まってゆき、ドムレミの旅へと繋がってゆくのである・・・。


ーフランス恋物語61に続くー


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