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マルタ最後の夜(フランス恋物語89)

The last day of class

10月23日、金曜日。

あっという間に、授業最終日を迎えた

・・・とは言っても、授業中は全然実感が沸かなかったのだが。

最後の授業が終わる時、担任のメルケル(※独首相に似ているから付けられたあだ名)に「クララとレイコは今日で最後よ。」と紹介され、やっと実感した。

放課後、スペイン大学生グループのリーダー格の男子が言った

「”FACE BOOK”やってる?これでみんなで繋がろうよ。」

私が「FACE BOOKやってない。」と言うと、学校のパソコンを使って初期設定をしてくれた。

すると、すぐにスペイン大学生グループのメンバーたちと繋がり、私はFACE BOOKの便利さに驚いた。


クラスメイト全員とお別れのハグをした後、私とクララは一緒に帰った。

「2週間、あっという間だったね。」

「そうだね。」

クララが尋ねた。

「どう? この2週間で英語は上達した?」

「正直あんまり・・・。

『日本語以外の言語』を話そうとすると、フランス語が先行してしまって・・・。」

仏独ハーフでネイティブはフランス語、ここに来るまでドイツ語学習中だったクララも、同じ状態だったようだ。

「私も、英語話そうとすると、ドイツ語の単語が出てきて苦労したわ。

でもいいの。それは英語圏に住んでみたからこそ、わかったことだし。」

「そうそう!!私もまったく一緒!!」

私たちは顔を見合わせて笑った。


不思議なもので、マルタに来てからの13日間、私はフランス語で会話がしたくて仕方がなかった。

授業初日、フランス語で話しかけようとした私に、「マルタでは英語で話しましょう」とクララは釘を刺し、私たちは今日まで英語でしか話したことがない。

明日は、「同じ飛行機の隣の席を取って、一緒にパリまで帰ろう」と約束している。

彼女は最後まで、私とフランス語では話してくれないのだろうか・・・。

Dinner party

10月24日、土曜日。

私とクララは明日フランスに帰るので、今夜、ヨハンとカオリさんとの4人で食事会が企画された。

私とクララのリクエストで、シーフードの美味しいイタリアンに行くことになった。

ヨハンが探してきたそのレストランは海岸沿いにあり、テラス席を予約してくれていたので、テーブルからの眺めは最高だった。

今夜はあまり寒くなく、夜風が気持ちいい。

海の向こうには、セントジュリアンの街並みがキラキラと輝いている。

数日前、みんなでクラブに行ったのが懐かしく思い出された・・・。



「Cheers!」

ヨハンの掛け声で、4人は乾杯した。

私たちは様々な料理をオーダーしてシェアしたが、特にマグロのカルパッチョとシーフードパスタが絶品だった。

カルパッチョはレモンがマグロの味を引き立たせていて、パスタはオリーブオイルベースだったが、魚介の出汁がよく出ていて、フレッシュトマトとの相性が抜群だった。


話題は、英語学習のこと、先生やクラスメイトの話題、それぞれの母国の話など多岐に渡ったが、最後はこの2週間の思い出話や、お互いへの感謝の言葉となった。

「Thank you for helping me when the drainage pipes were blocked and water was overflowing.」

カオリさんは何度も、私とヨハンに水漏れの件についてお礼を言っていた。

「That’s horrible.」

その時一緒にいなかったクララも話には聞いていたようだ。

もうカオリさんは同じアパート内の新しい部屋に引っ越し、快適に暮らしているという。


クララとヨハンは共通の趣味であるサッカーの話で盛り上がったいた。

私は二人がサッカー好きということを、この時までまったく知らなかった。

私とカオリさんは「日本に帰国後会おう」と約束をしていたので、お互いのメールアドレスを交換した。

私は10月末にパリから東京へ、カオリさんは11月末にマルタから東京に帰る予定だ。

「年末に忘年会を兼ねて合いましょう。」とカオリさんは言った。


「そういえば、ヨハンとクララとも連絡先交換しなきゃ。」

そう思って、二人に声をかけたら「”FACE BOOK”で繋がろう。」と言われた。

FACE BOOKは今日スペイン大学生にも勧められたし、そんなにメジャーなものなのか・・・。

「FACE BOOKと言えば、ヨハンはマーク・ザッカーバーグに似てない!?」

クララとカオリさんが同時に同じ言葉を言った。

「よく言われるんだよね。自分ではわからないんだけど。」

ヨハンは苦笑した。

・・・私もヨハンの第一印象はそうだったな。

でも、彼を”好き”だと確信してからは、似てると思わなくなっていた。

恋する気持ちって本当に不思議だ。

on the way

美味しい料理と「もう帰るんだ」という気持ちも手伝って、この日の私はワインを飲み過ぎていた。

帰り道、私とヨハンが並んで歩き、その後ろをクララとカオリさんが付いてゆく・・・という形でアパートに向かっていた。

私は酔っていたし、「ヨハンと歩けるのはこれが最後だ」という思いから、こんなことを言っていた。

「I'm glad to go back Paris tomorrow. 

But・・・I miss you.」

もしかしたら”I miss you”は”I love you”よりも重いのかもしれない。

でもこれは自分の紛れもない本心だったので、彼にどう受け取られても構わなかった。

ヨハンは驚くこともなく、笑顔で「My darling・・・」と言い、私の肩を抱いた。

「恋人以外でも”darling”って使うんだ・・・。」

私は生きた英語を学んだ。


ヨハンは私の肩を抱いたまま、レストランからアパートまでの道のりをずっと一緒に歩いてくれた。

「肩を組んで歩いたりして、後ろの二人にどう思われてるんだろう・・・。」

「今すごく幸せだけど彼と一緒に歩けるのもこれで最後なのか・・・。」

・・・ヨハンの英語を一生懸命聞いて返さなきゃいけないのに、色んな思いが交錯して私は大変だった。

The last night

うちに帰ると、私とヨハンは自然とソファに座り、とりとめのないことを話し続けていた。

会話の内容は上の空で、私の頭の中はずっと同じことを考え続けていた。

「今日までの2週間、当たり前のように過ごしてきたヨハンとのルームシェア生活。

それが、明日の朝で終わってしまうなんて寂しすぎる・・・。」

私の表情から気持ちを察したヨハンは、何も言わずに抱きしめてくれた。

「ヨハン・・・。」

ヨハンは「レイコが『いい』って言うまで、ずっとこうしてるからね。」と言い、優しく頭を撫でてくれた。


・・・気が付くと、私たちはそのまま眠ってしまっていた。

その夜、私はとても幸せな夢を見た。

The day of departure

10月25日、日曜日。

朝、目覚めると、目の前にヨハンの顔があって驚いた。

ヨハンは私を抱きしめたまま、すやすやと眠っている。

「あ、昨日そのまま寝ちゃったんだ・・・。」

リビングの時計を見ると、空港へのお迎えが来る1時間前だった。

ずっとこうしていたい気持ちに駆られながらも、私は出発の準備を始めることにした。

ヨハンの腕からそうっと抜けようとすると、彼も目を覚ました。

「Oh...good-morning,Reiko.」

私は「good morning.」と答えると、バスルームへと急いだ。


出発の時間になり、私は玄関の前で最後の挨拶をした。

「Thank you so much for the past 2weeks.」

ヨハンは私を抱きしめてこう言った。

「I am glad you were my roommate. 」

私が「Me too.」と言うと、ヨハンは私のおでこにキスをした。

それは彼にとって親愛の情に過ぎないことはわかっていたが、私は感激して泣きそうになった。

私はそっとヨハンから離れると、気持ちを振り切るようにドアを開け出て行った。

・・・こうして、私は思い出の詰まった部屋を後にしたのだった。


「Good-morning,Reiko!!」

アパートのロビーでは、一緒に出発するクララが待っていた。

「クララと一緒なら、私も明るい気持ちでパリに戻れる。」

私は彼女に感謝した。

Airport

私たちは空港に着くと、航空会社のチェックインカウンターに向かった。

私たちの乗る飛行機は、マルタ10:15発→パリ13:00着

「隣の席に変更したい」と申し出ると、すんなり応じてもらえた。


チェックインカウンターを離れて歩き出した瞬間、クララは言った。

「Alors, parlons en français maintenant.」
(じゃあ、今からフランス語で話しましょう。)

・・・それは、私が諦めかけていた、そして最も欲していた言葉だった。

「bien sûr!!」(もちろん!!)

私は笑顔で応えた。

from Malta to Paris

帰りの飛行機では、封印していたフランス語を話せてイキイキしている自分に気付いた。

「あぁ、なんで私は英語は話せなくて、フランス語は話せるんだろう・・・。」

パリのシャルルドゴール空港でクララと別れるまで、この不思議な気持ちがず~っと消えなかった。

本を読めば英語の方がたくさん単語を知ってるし、翻訳するのだって英語の方が楽なのに・・・。

私は中学、高校、大学1年の計7年間、英語教育を受けてきたが、フランス語を学んだのは東京のスクール1年半と、フランス生活の10ケ月だけだ。

やはり会話できるようになるのには、それについての学びが必要なんだと痛感した。

「あ~あ、学生の時に語学留学したかったな。」

若い頃に行ったからといって、私が語学堪能になるかどうかは怪しかったが・・・。


「私のうちはボルドーにあるから、また遊びに来て。」

パリの空港での別れ際、クララは住所を書いたメモをくれた。

「私は今月末帰国するからすぐには行けないけど、今度フランス旅行する時はボルドーに遊びに行くね。

クララも東京に行く時は連絡してね。」

私たちはフランス式に頬にビズをし、笑顔で別れた。

Michaël

パリの自宅に帰宅後すると、早速ノートPCをネットに繋いだ。

私は、まず母親に無事パリの自宅に戻ったことをメールした。

マルタにいた2週間まったくネットができなかったので、メールボックスを見るとたくさんのメールが溜まっていた。

そのメールを順番に見ていくうちに、ミカエルからメールが届いていることに気付いた。

そろそろマルタからパリに戻った?
いつ日本に帰るんだっけ?
レイコがパリにいる間に会いに行きたい。
連絡ください。

ミカエル・・・。

私は一瞬にして、1ケ月前のミカエルとのデートを思い出し、懐かしい気持ちになった。

今朝、ヨハンとの別れ際に泣きそうになっていた自分は、もうどこかに行ってしまっている・・・。


私がパリを発つのは10月30日。

今日は25日だから、明日を除けば3日間ある。

私はミカエルに返事した。

今日の午後、マルタからパリに帰ってきました。
10月30日にパリを発つので、27・28・29日なら空いてます。
この間でミカエルが来る日を教えてください。

すると、すぐに返事が返ってきた。


その内容は、私を驚かせるものだった・・・。


ーフランス恋物語90に続くー


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