記事一覧
銀河皇帝のいない八月 ①
プロローグ
木星軌道に星百合が咲いた。
巨大な百合の花の形をした、無機鉱物のような物質からなる何か……
しかしそれは生きている。
生物なのだ。
星百合はあるとき忽然と宇宙のどこかに咲き現れ、星々の間に道をつくる。
ほどなく、その道のゲートとなる空間の歪みが、衛星カリストのすぐそばで発生した。そこから小さな光が飛び出し、亜光速で木星圏を脱すると太陽の方へと進路を取った。
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ㉒
第二十二話(最終回) 戦士タキオの父
シムノサ平原に冷たい風が吹きすさぶ。
この地一帯が、冬本番を迎えようとしているのだ。
俺は、毛長象の引く荷車の上で腰を下ろし、マントの合わせを引き寄せて冷気の侵入を阻もうとした。
足元には「七芒星の魔導士」の体が、顔まで毛布をかぶせられ横たわっている……
ささくれ巨人を仕留めた後、そのまま谷底で朝を迎えた俺は、ジャコーインの洞窟から使えそうなも
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ㉑
第二十一話 〈核〉のありか
暴れる巨人の肩の上で、突き刺した剣にしがみつきながら、俺はあの岩陰からドルイエが這い出してくるのを見た。
さすがの「七芒星の魔導士」も、このあり得べからざる状況にじっとしていられないようだった。
「タキオ! その剣は確かに魔剣なのか?! 〈核〉を壊す魔力の封じ込めをしてもらってあるのか?!」
念話の声が俺の脳裏に響く。
俺は自分の落ち度だと言われた気がして
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑳
第二十話 呪いの〈核〉
巨人に気づかれぬよう、その真下まで近づいた俺は、奴がしがみついている崖の反対側の急斜面を登り始めた。
弓で狙うのは奴の首の後ろ。そのために、なるべく高い位置から矢を放つ必要があったのだ。
「タキオ……」
脳裏に魔導士の声が響いた。
離れた岩陰から念話の術を使っているらしい。俺には初めて聞く心の声だった。
「うまく矢が刺さったら、すぐにそこから飛び降りろ。わし
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑲
第十九話 脱出
ジャコーインの洞窟は、思いのほか俺たちが巨人と遭遇した渓谷に近いようだった。
いや、洞窟自体が渓谷の一部なのかもしれない。
俺とドルイエは、崩落する土砂を避けて洞窟を後戻りし始めた。
「クマラハの弓を!」
ドルイエの言葉に、俺は洞から一番近い横穴を探り、クマラハが遺した強弓と荒縄に繋がった矢の束を見つけた。
俺たちは洞窟の入り口目指して駆け出したが、洞を離れるとあっ
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑱
第十八話 崩落
「小癪なマネを……」
苛立ったジャコーインは、斬撃の術を駆使してネジヅタを切り離しにかかった。
だが、その切り方はネジヅタの特性を考えない思慮を欠いたものだった。切られたツタの端々が絡まるべきものを求めて踊り狂い、その一部がジャコーインの首をとらえたのだ。
「!」
たちまち魔導僧の顔に苦悶の表情が浮かび、術を施していた全ての力が途絶した。
体の自由を取り戻した俺とド
「ノグ・アルド戦記」読みました
アルロンさんの創作大賞2024参加作品、ファンタジー小説「ノグ・アルド戦記」を、とても楽しく拝読しました。
以下、感想ですが結末にも触れてますので、未読の方は読んでからご覧ください。
2ヶ月で書かれたとのことでしたが、これだけの数の登場人物を設定して関係づけながら活躍させるのは大変だったのではないでしょうか。
終盤まで「これ、誰だっけ?」というような混乱もなく、皆しっかりと性格づけができており
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑰
第十七話 逆襲
「ジャコーイン!」
ドルイエが俺の肩から手を外し、魔導僧に向かって印を結んだ。
見えない力が俺たちとジャコーインの間でぶつかり、弾ける。
ジャコーインの高笑いが洞に響き渡った。
「どうした、ドルイエ。破閃光術を撃つがいいぞ。封縛術などでわしを捕らえるつもりか。いずれにせよ、疲れ果てているおぬしの力ではどうにも出来ぬがな!」
ドルイエの意図はわかっていた。
ジャコー
【ショートショート】決戦!七夕ステージ (後編 - 織姫妖怪)
向こう瑞ヶ丘遊園の上空に暗雲が垂れ込め、大気が不安定になっていた。
遠くからゴロゴロと響く雷鳴とともに、アシスタントのスマホがブーと鳴る。
「あ、ヤベ……」
「この台本もらってますよ。やっぱり間に合いそうにありませんが…」という返信にアシスタントは真っ青になった。
代役のサトルに送るはずの台本PDFを、間違って本来のスーツアクターに送っていたのだ。
時すでに遅し。
ドヤドヤと戦闘員
【ショートショート】決戦!七夕ステージ(前編 - 彦星誘拐)
「何ーっ!? 開演に間に合わないーっ!?」
東京郊外の遊園地〈向こう瑞ヶ丘遊園〉。
七月七日、七夕のその日、イベントステージでは人気特撮ドラマ『呪術戦隊カイセンジャー』ショーの準備が完了しつつあった。
そこへ飛び込んで来たのは、主演ともいうべきカイレッド役のスーツアクターが、ゲリラ豪雨による事故で開演時間に遅れるという知らせだった。
舞台監督は頭を抱えた。
「どーすんだよー……誰か代役は
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑯
第十六話 真相
身動きできない俺は、膝をついた姿勢のままずるずると魔導僧の方へと引きずられていった。
僧侶は懐から何かの瓶と小さな盃を取り出し、中身を注いで俺に差し出した。
恐らく、あの戦士の自由を奪っている薬と同じものだ。
「心配はいらぬ……奴の様子を見ただろう? 元気そのものだ。健康を害することはない……」
そして、一度飲み下せば健康な操り人形に成り果てるわけだ。
僧侶は盃を俺
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑮
第十五話 魔導僧
「ほう……ネズミがここまで入り込んだか」
僧侶が言った。
あざけりと警戒がないまぜとなった口調だった。
「入り口は固く封印していたはず。術の心得があるか……いや、おぬし自身ではないな? 連れの男が魔導士だったか」
頭上で受け止めた剣が、さらに力を得て俺に近づいてきた。
見ると、僧侶がゆっくりと手を挙げるに連れ、その力が増しているようだった。
「目の前で消え失せた
【ファンタジー小説】ささくれ巨人と七芒星の魔導士 ⑭
第十四話 幽鬼
ドルイエが細い息の間で囁くように答えた。
「いる……」
ならば、やるべきことをやるだけだ。
俺は旋刃棍を袖口から出し、洞窟の奥へ向かおうとした。
「奴は……恐らく瞑想状態で巨人に憑依している……気づかれぬように近づき……隙をついて息の根を止めろ……」
魔導士は印を結び、自分の体に治癒術式を施し始めた。
「少し遅れるが……わしも後を追う……」
無理するな……と