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宮田みや
2020年12月20日 02:04
『対管理システム用人工知能第六号機』それが僕に与えられた最初の役目であり名前だった。長いわ堅苦しいわ、そのうえ覚えにくいわで、あんまりこの名前は好きではない。代わりに、あの人がつけてくれた「ユク」という愛称を名乗っている。「ユク」は数字の六という意味で、あの人の友人の故郷の言葉だそうだ。そのまんますぎて、初めて聞いた時は笑ってしまった。僕らの、僕の仕事は、都市型運用管理システムノエマの
2020年12月21日 04:35
連れてこられたのは、広い地下空間だった。元は上下水道が通っていた所だそうで、ここはそれらの道が繋がる分岐点のような、中継地点のような場所だそうだ。私はユクから話を聞かされた。ユクはどこから来たのか、何のためにここに来て、何をして来たのか。そして、私たちノエマの正体の事を。私はその話を聞いて心底腹がたった。なんなのだ、いきなりやって来て私たちを呪縛から解放だ?ふざけないで欲しい。私た
2020年12月22日 01:48
「以上が、監視対象624から私が得た情報の全てになります。」ユクが連行されてから数日後、私は尋問のため中央管理塔まで来ていた。あの日、ユクからノエマの正体を聞かされた私は、ユクの確保に伴い、ネームド候補としての任務を解任された。ユクが私に与えた情報は、超特級レベルの機密事項だったため、私は情報制限の措置を受けることになり、特殊任務はおろか、通常任務も一時中断となった。「どうだい、調子は
2020年12月23日 03:29
心の底から願っても、叶わない事はある。伸ばしても伸ばしても、その手が届く事はない。どれだけ走っても追いつけないように、どれほど逃げても着いてくるように。遠すぎて、大きすぎて、距離感の分からなくなったあの月のように。伸ばしたその手が、掴みかけたこの手が空を切る。届いたと思った瞬間にするりと指の間から逃げられてしまう。それらは、自分の努力だとか掛けてきた時間とかはあまり関係のない
2020年12月24日 02:29
『彼は捕まりたかったように思えてならない』エレンのその言葉が、あの日から耳に残り続けていた。確かに、ユクの能力を鑑みれば、幾らでも逃げようはあっただろうし、そこに何らかの違和感が生じてもおかしくない。ノエマを破壊すると笑う彼の言葉を、一体どこまで信じて良いのだろうか。それすらも、今の私には判断出来なかった。色々と、思うところがありすぎて、頭が痛くなってきた。する事がないから結局一人
2020年12月25日 02:50
ユクが捕らえられてからも、制御不能に陥るノエマの数は減らなかった。私の謹慎も未だ解けてはいなかったが、その分時間だけはあるので独自に調査を進めていた。ドルフィレはあれ以来、出されても飲み込まずに隠れて捨てている。自分が人間だと知ってしまった今、それこそ今更ではあるが、本来持ち得ていたものを奪われるのはなんだかとても嫌だったのだ。今なら、ユクが言っていたことも分かるかもしれないと、少し、思
2020年12月26日 03:51
「それで、僕が心配になってわざわざここまで一人で来た訳、と。」小さな個室、二人きり。私はユクと相対する。「心配、ではありません。ただ、気になることがあったので。」「気になること?」まただ。ユクは時々、冷たい笑顔を見せる。以前はどこからそれを感じていたのか分からなかったが、今改めて見据えて気が付いた。目が、笑ってないのだな。笑顔で私を拒絶する。この表情に冷たさを感じた。「
2020年12月27日 02:17
「だから行きましょう、外へ、二人きりで!」そう言って手を差し伸べるナナの顔は、見たことのない満面の笑みだった。ナナが心を、感情を取り戻せたことは、心の底から嬉しく思う。だけど。「ありがとうナナ。でも僕はまだここを出るわけにはいかないんだ。」だからこそ、嬉しいからこそ、その手を取ることは出来なかった。「どうして!」ナナと出会ったことで、僕にも変化が訪れた。ただ命令を受けて
2020年12月28日 03:21
「ほう、N.017が規定違反をねえ。」部下からの報告を聞いて私は見ていた資料から目を離した。処罰について裁量を求められたが一旦保留にして下がらせた。N.017は興味深い個体である。普通、ナンバーズからネームドに昇格するには、マザーシステムの厳正なる審査の上、適正有りと認められてから初めて“進化”のフェーズへと移行できる。リミッターの解除を行うのだ。しかN.017はその手順を踏まず、
2020年12月29日 04:36
警備隊に部屋から引きずり出された私は、拘束され別の塔の監視部屋へと閉じ込められた。入れられてすぐはどうにか出れないか模索したももの、程なくして抵抗は無駄だと思い知らされた。「いつも、こうだ。」近づけたと思うと距離が出来る。手に入れようともがけばもがくほど、遠くの彼方に行ってしまう。私が何かしようとしたところで、そんな事すら無意味に感じてしまう。それでも諦めきれずにいるのは、ユクをまだ
2020年12月30日 05:13
暗い部屋で独り、ただただ自分の無力を嘆く。ここに入れられて、これ以上私に出来ることはない。開かない扉を殴りつけても、出された薬を吐き出しても、彼の元に行けないのであれば、全て無意味だ。「明日、21時。例のコードが使用されるぞ。」わざわざそれを言う為だけに、エレンが来た。その性格の悪さに辟易する。「何か言ってくれたまえよ。なんのために君たち2人を泳がせていたと思うんだ。」思わず体が硬直
2020年12月31日 06:11
この世界を作った人がいるとして、私はその人を許せないだろう。この世界の真実など、知りたくなかった。なんて言っても今更だけど、どうしてそれで私がこんなに苦しい思いをしなければならないのか。私はただ、変わらぬ日々を過ごせたらそれで良かった。ただ穏やかに、大切と思える人がいる、それだけで十分だった。いつか二人で。先のことを願えるだけで、それでもう心の底から幸せだったのに。それが、どうして。
2021年1月1日 11:43
『認証コードが入力されました。強制情報開示コードの開始まであと……』無慈悲に鳴り響くアナウンス。抵抗一つ見せないユク。どうして。伸ばしていた手を下ろしてしまいかけた次の瞬間、ドオオオン!!!遠くの方で大きな音が聞こえた。音の後すぐ、足元が激しく揺れる。ドン!!バン!!ドゴン!!!間髪いれず彼方此方から大きな音と激しい揺れが襲ってくる。私が事態を理解する頃には、高い
2021年1月2日 11:34
「ふざけるな!離せ!!誰が要求を受け入れるものか!!」喚き散らすエレンを連れたノエマ達は、崩壊の進む最中、瓦礫の影へと消えていった。「ユク!」私はユクの元へと駆け寄り、彼に繋がっていたコードを乱暴に取り外した。「早くこんなとこから出ましょう。危険ですし、あなたには言いたいことが山程あるんです。」一本、また一本と外しながら早口に言う。ユクの言葉を聞くのがなんだか少し怖かった。「ナナ