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ep.15 空に浮かぶ月

心の底から願っても、叶わない事はある。
伸ばしても伸ばしても、その手が届く事はない。

どれだけ走っても追いつけないように、
どれほど逃げても着いてくるように。

遠すぎて、大きすぎて、距離感の分からなくなったあの月のように。

伸ばしたその手が、掴みかけたこの手が空を切る。
届いたと思った瞬間にするりと指の間から逃げられてしまう。

それらは、自分の努力だとか掛けてきた時間とかはあまり関係のない出来事で、酷く理不尽なように感じるけれど、ただ、それだけの事だったのだと、気づけるのには時間がかかる。

狭くて、殺風景な部屋の壁を見つめながら、うだうだと思考をこねくり回す。
何度目かの同じ終着点に辿り着いたところで、考えるのをやめた。

結局、何もないのだ。
自分が今大切な人の為に行って最良のことなど、何もない。
ただ自分が今後悔しないために行動するしかないのだ。

ふと、足元に伸びる影の輪郭のやらかさに目が行く。
そうしてようやっと、自分が下を向いていた事に気がついた。
ふんわりと優しい光の線を辿ると、殺風景な壁の上の方に、小さな窓がある事に気がついた。
呆れで少し笑いが溢れる。

窓の外には、にっこりと笑うような半月がいて、こちらを面白そうに伺っていた。

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