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ep.22 支配者は嗤う

暗い部屋で独り、ただただ自分の無力を嘆く。
ここに入れられて、これ以上私に出来ることはない。開かない扉を殴りつけても、出された薬を吐き出しても、彼の元に行けないのであれば、全て無意味だ。
「明日、21時。例のコードが使用されるぞ。」
わざわざそれを言う為だけに、エレンが来た。
その性格の悪さに辟易する。
「何か言ってくれたまえよ。なんのために君たち2人を泳がせていたと思うんだ。」

思わず体が硬直する。エレンは私とユクの関係に気付いていながら調査を任せたのか?

「心というものは本当に興味深いね。完全にコントロールされていたはずの君のリミッターすら無視して、進化してしまうのだから。ああ、それほどまでに君にとってはアレが大切な存在だったと言う訳か。」

言葉の端からじわじわと毒が染み込んでくるような、そんな不快感がある。

「ねえ、一連の真相を知って、君は不思議に思わなかったかい?どうしてわざわざ“人間”を使ってノエマを作ったのか。アレみたいに良く出来たヒューマノイドが作れるのなら、私たちなんて存在必要なかったじゃないか。」

黙って顔を背けるが、気にせずエレンは話し続ける。

「君はさ、何がノエマを作り、ノエマたちをノエマたらしめていると思う?」

コツ、コツ、コツ。
狭い部屋の中、足音だけがやけに響く。

「プログラミング?それとも頭に埋め込んだスーパーナノコンピュータ?もしくは君の嫌いな向精神薬?」

私の後ろで足音がぴたりと止まる。

「正解は君たちノエマ自身の“心”だよ。」

耳元で嗤う。
彼女は愉しんでいる。私の心を恐怖で支配することを。

「私たちはさ、最初から必要のない存在だったんだよ、いつか壊れて捨てるモノ、蔑ろにしてもいいモノ、傷付けても誰も咎めたりしないモノ。都合良く作られたから、都合良く扱っていいモノ。
だけど一番の問題は人間たちの扱いじゃない。私たちが、それを甘んじて受け入れたことだ。
ノエマの感情は、心は、薬が奪ったものなんかじゃないお前たち自身か、各々自分は傷つけられても蔑ろにされても、都合良く扱われても良いと受け入れたから、だから、ノエマはいつまで経っても人間になれないんだ。
でも、だからこそ君に注目したんだよ。」

床に座り込む私の視線に無理やり這入り込んできたエレンは、恐ろしいほどに身の毛もよだつ笑顔で私を見下ろしていた。

「N.017、いや、“ナナ”だっけ?君をあのヒューマノイドの最後のステージに招待しようじゃないか。
一介のナンバーズが自力で手に入れた心が本物なら、さ、壊れる瞬間を私に見せておくれよ。」

月の隠れた夜の空は、落ちてしまいそうな程暗かった。

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