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ep.20 監視対象

「ほう、N.017が規定違反をねえ。」
部下からの報告を聞いて私は見ていた資料から目を離した。
処罰について裁量を求められたが一旦保留にして下がらせた。

N.017は興味深い個体である。
普通、ナンバーズからネームドに昇格するには、マザーシステムの厳正なる審査の上、適正有りと認められてから初めて“進化”のフェーズへと移行できる。
リミッターの解除を行うのだ。

しかN.017はその手順を踏まず、リミッターすらも解除しないままに進化を得たある意味特別な個体だ。
“変化”する個体はこれまでにもいたが、しかし大抵がその変化に耐えきれず機能停止、壊れてしまう。
だというのに、N.017その変化に耐え、そして進化してみせたのだ。

私たちノエマが本当は人間である事実を隠しているのは、様々理由はあるが、都合が良いというのが一番大きい理由だろう。
他所から見たら無駄に思うかもしれないが、例え朽ちていく星であろうと、ここが私たちの星であることに変わりなく、そこを管理し、生き良い暮らしを守るために今の制度があるのだ。
この星を捨てた人間の為などでは決してなく、終わりゆくこの星と共に死んでいく私たちのための選択なのだ。

N.017に変化が起きたことに、すぐに私は気がついた。監視を強め情報を集めさせたのもこの時からだ。
しかし、最初のうちはいくら調べようとしても何も出てこなかった。アクセス出来る情報には、何もおかしな点は見つからなかったのだ。
そしてその何も出てこないことに違和感を感じ、ステルス小隊に調査をさせたとこらでようやくある一体のヒューマノイドAIと接触していることが判明した。
どうやらN.017はヒューマノイドを人間と認識しているようで、自動プログラムにより保護対象として定め、情報を守っていたようだ。

私はそれを知ってもなおN.017とそのヒューマノイドを泳がせることにした。
放っておいたのは、自力で進化を遂げた個体の更なる変化を観察したかったからだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
現にN.017は今、完全に感情を取り戻しつつある。
ドルフィレをやめたくらいでどうにかなるものじゃない。それ程に私たちノエマの歴史は長いものとなっていたのだ。
しかし、それでもなおN.017を突き動かす何があったのだろう。
喪失の先に得られる感情が何であるか、私も実際に目にしたことはない。

私はN.017を監視対象から実験対象へと引き上げる決断をした。

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