ep.23 終焉へのカウントダウン

この世界を作った人がいるとして、私はその人を許せないだろう。
この世界の真実など、知りたくなかった。なんて言っても今更だけど、どうしてそれで私がこんなに苦しい思いをしなければならないのか。

私はただ、変わらぬ日々を過ごせたらそれで良かった。
ただ穏やかに、大切と思える人がいる、それだけで十分だった。
いつか二人で。先のことを願えるだけで、それでもう心の底から幸せだったのに。

それが、どうして。

「ユク!」

エレンに悍ましい招待を受けたあくる日、私は中央管理塔の最深部へと連れてこられた。そこには、マザー・システム、全てのノエマの情報・管理を司るマザー・ノエマが鎮座していた。

高い天井と冷たい床から、おびただしい数のコードに接続され、まるで生きているかのような唸りを上げていた。

私よりも高い位置、マザー・ノエマの近くにエレンは仁王立ち、隣に捕縛されたユクが立たされていた。

「ナナ……!なぜ君がここに? ……ああ、そうか悪趣味な奴め。」
ユクは私の存在に気づくと一瞬驚きの表情を見せ、すぐに顔を顰めた。

「N.017には私の実験に参加してもらおうと思ってな。特等席を用意した。」

「実験?馬鹿馬鹿しい、そんなことになんの意味があるんだ!第一、ナナは関係ないだろう!」
エレンの言葉に、ユクが怒りを露わにする。

「関係がないと、本気で思っているのか?情報提供義務、並びに職務怠慢、その上重要参考人逃亡幇助の現行犯。それら全てにお前が関わっているんだ、それを、理解した上での発言かね?」
「そ、れは……!」
エレンにそう言われ、ユクの言葉が詰まる。

「さて、君の目的を教えて貰おうじゃないか。と言っても、ほとんどの情報は確保してあるから、答え合わせという方が正しいのだろうな。」

取り押さえられたユクと、マザー・ノエマがコードによって繋がれる。
エレン達はユクの目的も、行動もある程度把握している。だから本来、既定の規則に基づけば、この強制情報開示コードの使用は間違っている。
対象を壊して情報をこじ開けることは、たとえ相手がプログラミングされたロボットだとしても行うべきでは無いのだ。

「どうやらお前にはコネクト自体に意味を見出していたようだが、今回コネクトするのはその本体では無い、独立したマザー・システムだ。お前がどんなに悪あがきをしようと、こちらにとっては痛くも痒くもないからな、まあ、存分に暴れると良い。」
「そうさせてもらうよ。」
エレンの言葉に軽口で返すユク。しかし、彼女の言うことが本当であれば、ユクの目的は達成されないことになる。
私は、目の前が真っ暗になるような心持ちだった。

細い線、太い線、様々な大きさのコードがユクに繋がれていく。
張り付けられように、縛り上げるように。
そして、最後の一本がつなぎ終わった。

『対象とコネクトしました。強制情報開示コードの使用を開始しますか。』

マザー・ノエマから、無感情なアナウンスが鳴り響く。

「……めて…、やめてください!!」
私の制止など、無意味だとわかっているのに、それでも叫ばずにはいられなかった。

「逃げて、ユク!お願いだから、逃げてください!!あなたの犠牲の上に成り立つ誰かの幸せなんて、どこにも無いんです!!」

暴れようとした私を、複数のノエマに押さえ込まれる。

「ああ、中々如何して、良い顔をするようになったなあ、N.017。今後の君に期待をしてしまうよ。」
そう言いながら、マザー・ノエマに認証コード入力していく。

『認証コードが入力されました。強制情報開示コードの開始まであと……』

終わりへのカウントダウンが始まった。

「ナナ、ごめんね」

そう言ってなんとも言えない表情をするユクの瞳が、絶望に濡れてなどいないことに、その時の私は気付かなかった。

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