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ep.13 相反するもの

連れてこられたのは、広い地下空間だった。
元は上下水道が通っていた所だそうで、ここはそれらの道が繋がる分岐点のような、中継地点のような場所だそうだ。
私はユクから話を聞かされた。
ユクはどこから来たのか、何のためにここに来て、何をして来たのか。
そして、私たちノエマの正体の事を。

私はその話を聞いて心底腹がたった。
なんなのだ、いきなりやって来て私たちを呪縛から解放だ?ふざけないで欲しい。
私たちは望んで今をノエマとして“生きて”いるのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
解放、だなんて、まるで私たちのやって来た事全てが無駄なことのように言わないで欲しかった。
それでもユクの話は止まらない。
私たちは薬で感情を奪われ、正しい知識や常識を奪われ、自由を奪われているのだそうだ。
「だからなんだって言うんです。」
ようやっと絞り出した言葉はその後、崩壊したダムのように溢れ出てきた。
「私は、私たちは望んでノエマとしての役割をこなしてきました。もうずっと、長い間です。ドルフィレが向精神薬?だったら何だって言うんですか。それで、冷静な判断が出来るんだから何の問題もないじゃないですか。」

ノエマの役割が無駄だなんて、存在を否定されるのと同意義である。そっちの常識に勝手に当て嵌めて、勝手に同情して、何が解放だ。
ふざけるな。

「本当に問題ないと思ってるのかい?」
「は?」
「薬で、環境で力尽くに感情を奪って、それでなんの問題も起きないと思っているのかい?」
ユクの問いは意味不明だった。
「現に、過去何百年もの間なにも起きてきていません。それが事実として記録に残っていますから。」
「それは誰が取った記録?不都合な真実が意図的に削除されている可能性は?」
「昔のノエマが取った記録でしょう。削除されていたのなら形跡が残ります。ドルフィレも改良が重ねられています。何か問題が起きた事実など、ないのです。」
言葉はどんどんと積み重なっていく。
否定の言葉を拒否するように、どんどん、どんどん積み重なる。
「そっか。」
しかし、想像よりもユクの反応はあっさりとしていた。
「まあ、真実なんてものは、誰かの主観を通した瞬間に真実でなくなるしね。僕の真実は君にとって信じがたい嘘になるし、君の真実は僕にとって受け入れ難い事実になるわけだ。それを僕に捻じ曲げることはできないしね。」
そういって笑うユクの顔は、どうしてだから酷く寂しく見えた。

遠くの方からバタバタと足音が響く。

「もうそんな時間か。」

“ユクは人間でなくロボットである。”

その話を聞かされた時、頭の中で何かの縛りが解ける感覚がした。
ユクを人間と前提した場合の約束は、ユクが人間でないと私が知った瞬間に無効となる。
つまり、ユクを尊重するために約束した‘’情報を秘密とする”という約束が無くなり、中央へと情報が伝達された。
だから、この足音は私が送ったデータを元に、ユクを捕らえると判断した中央が寄越したノエマたちの足音だ。

「意外と早かったね。」

ユクは、まるで全てを見通していたかのように落ち着き払ってそんな事を言う。

「残念です。」
「僕もだよ。」

だだっ広い地下空間、一人の人型ロボを取り囲む、沢山の人間モドキ。
ノエマの手によって、ユクは捕らえられた。
その間、彼は一切の抵抗を見せなかった。

連行されるユクの背中が遠のく次第に、私の世界も音を立てて色褪せていくようだった。

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