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ep.18 拒絶の裏側

「それで、僕が心配になってわざわざここまで一人で来た訳、と。」

小さな個室、二人きり。私はユクと相対する。

「心配、ではありません。ただ、気になることがあったので。」
「気になること?」

まただ。ユクは時々、冷たい笑顔を見せる。
以前はどこからそれを感じていたのか分からなかったが、今改めて見据えて気が付いた。

目が、笑ってないのだな。

笑顔で私を拒絶する。この表情に冷たさを感じた。

「制御不能になったノエマや、行方不明になったノエマ達を調べたところ、そのほとんどであなたの痕跡が見つかりました。」

「だからここに居るんだろう?」

少しずつ、答え合わせをしている気分だ。
ユクの表情は崩れない。

「だから最初、あなたがノエマたちに“何か”しているんだと思いました。例えば、初めてあなたと出会った時に私に何かしたように。」

ユクと初めて接触してから、私がユクの情報を渡さない約束をするまで、それなりに時間があった。本来ならばリアルタイムで送られるはずの情報が改竄する前にすでに他のものとすり替えられていたのだ。
そして今思えば一眼見た瞬間私に走った電撃は、衝撃という感覚的なものでなくて、実際に私に放たれた電磁波と考えた方が自然と思ったのだ。
放たれた電磁波によりジャミングなりハッキングなりされたのまと思う。

「ノーコメントで。」

眉を上げて答える。しれっとしたもんだ。

「あなたに真実を知らせれてからしばらくは、私との出会いも仕組まれたもので、最初から私諸共壊すつもりだったのだと思うと、酷く傷つきました。」
腹が立ったり、役に立てず悔しかったり、色んな感情が湧き出てきたが、結局はそういうことなのだ。

「……それは、ごめん。」
「謝らないでください。謝る必要はないんです。私が勝手に期待して、私が勝手に傷ついただけだから。」
謝らなくていいのだ。ユクも私も、自分の望みを通しただけなのだから。
「あなたに謝られたら、私は許すか許さないかを選ばなければいけないでしょう?」
そんな簡単に割り切れる感情などではないはずだ。

「ねえユク、あなた本当はノエマたちに何もしてないのでしょう?」

私が確信をもってそう聞くと初めて、ユクの顔色が変化した。

「はは、何を言ってるんだい?」
「あなたの本当の目的は、“ここ”に来ることだったんじゃないですか?」
長い間これだけの数のノエマシステムに見つからず行動をし続けてこれたのだ、こんなにも簡単にユクに辿り着くなんて、それ自体がおかしな話だったのだ。しかしユクの目的が捕まることなら話は別だ。私はユクにそう言った。

「純粋に、君たちの方が優秀だっただけじゃないかな?これでもちゃんと痕跡は隠したはずなんだけど。」
調査を進めて一つ分かったことがある。
ユクの残した痕跡の隠蔽よりも遥かに高度な技術である事実が隠されていたのだ。
イスから少し、腰が浮く。前のめりになっていた。
「あなたがノエマに接触したのは、制御不能に陥る第一フェーズが過ぎてのタイミングだった、ということです。」
つまり、それはどういうことか。
「つまり、この事実はあなたがノエマの暴走には関わっていない。そう見せたかっただけということに繋がるのです。」
ユクの顔から嘘の笑顔が剥がれ落ちた。

「ここを出ましょう、ユク。私はあなたを助けたい。」

「なら正攻法で解放してよ。今君が言ったそれを上に報告すれば僕はお役ごめんだろう?」

「何者かの手によって消されました。だからここに一人でいるんです。さあ!」

右手を差し出す。
「あなたが私にくれたもの、全部全部返したい。私のとっておき、全部あげても足りないんです。だから、だから行きましょう、外へ、二人きりで!」

私はこの時初めて心の底から笑った気がした。

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