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エコロジカル・アプローチ@バレーボール【15/16】まとめ

ここまで「エコロジカル・アプローチ」をバレーボールで実践していくために何が必要かを考えてきましたが、結論としては「動作にしても戦術にしても、プレイヤー自身がそれをつかんでいく・構築していくには、プレイ環境をデザインして試行錯誤してもらうしかない」ということですね。
そこで大事なのは、「有効な試行錯誤が成立するために指導者は何をするべきか」の手引きであり、このシリーズがそのガイドブックになってくれればと願っています。

これらのことは、「エコロジカル・アプローチ」が提唱される前から様々な分野ですでに「基本」になっていたことかもしれませんが、スポーツ界で「エコロジカル・アプローチ」が認知されるようになった今が、指導観を変えていく大きなチャンスだと感じています。

有効な試行錯誤が成立するために指導者は何をするべきか

まとめると
・実際の動きはほとんど「無意識」で成り立っていて、正確・詳細に認識することは非常に難しい。
・「意識」「筋収縮」「動き」には時間のずれがあり、「意識した通りに動かせる」ことはなくて、起きた結果から「意識」を修正していくしかない。
・やりたいことができるようになるには【試行錯誤】で感覚をつかむしかないし、「感覚」は教えられない
・動作習得のために指導者ができることは「試行錯誤の環境のデザイン」とガイドしかない。
何が起きて欲しいか、何が起きうるのか、その動作は普通おもにどんなもので成り立っているかが分かっていると、試行錯誤をデザイン・ガイドするのに役立つ。
「その動作は大まかにどんなもので成り立っているか」【動作原理】
「何が起きているのか、何が起きて欲しいか、何が起きうるのか」は「観察」するしかない。
「見える」ために役に立つ知識はあるし、知識があるからこそ「見える」ものがある。
・役に立つ知識:指導者が知ろうとすべきことは「動作原理」「解剖学」「物理学」「発達過程」である。
・試行錯誤は誰にでもでき、あなたにも試行錯誤のガイドは簡単にできるし、始めたときから、その喜びを味わえる(どこまでも奥は深いけど)

まず、やってみてほしいことは

試行錯誤の環境をゼロから組み立てるのではなく、まずプレイヤー・チームがやっていること・できていることから始める方がオススメです。まずは、観察してみましょう。

・何ができているか、気になることは何かを整理してみる
気になることは一旦置いておいて、今できていることから、もう少しできそうなことを探してみる
・「できそうなこと」をプレイヤーが実際にやっている姿を想像する
起きて欲しいことが起きそうな、そのチャンスのある環境だろうか?
・どんな環境にすると有効だろうか?

プレイヤーは何ができるようになりたいと思ってやっているんだろうか?
「起きて欲しいこと」はどのくらいクリアにイメージできているんだろうか?どのくらいクリアになるといいんだろうか?を想像してみます。

・何を感じてもらったら、「感じる焦点」をどこに当てたら、上手く試行錯誤できそうか?
・「こういう環境で繰り返したら、こんなことができそう」=「仮説」
・本人が持っている「イメージ」も含めて試行錯誤の「環境」
・やってみて確かめる=「検証」

「仮説」が明確になると、何をやって、何を確かめればいいかという「検証の方法」も明確になります。

「まずはやってみましょ」「やってみて、どうだったか確かめましょ」なのですが、
・上手くいかなくて直ぐ嫌になってしまう(励ましが必要?)
・感じて欲しいことに意識が向いていない
・上手く行きかけてることがあるのに気づいていない

などのように、ちょっとした声かけで試行錯誤が成立するようになる場合も多いので、試行錯誤が成立していない個々の状況を観察して、その理由を想像してみます。それがなんとなく見えてくると「仮説」に従って「声掛け」をしてみて、試行錯誤がどう変化するか観察する。そして、少しでも良い変化があったら一緒に喜ぶ。その繰り返しが「指導」の醍醐味だと思います。

ここでちょっと具体的な例を紹介したいと思います。

高校女子のセッター練習

先日、ある高校女子チームで、練習試合の合間にセッター2人の練習をお手伝いしました。2人とも「持ってしまう」ことがあるので何とかしたいという指導者からのリクエストでした。

セッターA:非力だが「ボールに力を伝える感覚」は持っている
・とらえる位置が低くなり「持って修正する」つまり、イメージ通りの軌道にするために「ボールを持ち上げる」動作(キャッチの反則)が加わることが多い
・ある程度できたところで「目標に近い所・遠いところ」にパスを出して「短い距離のトス・長い距離のトス」を要求し、それぞれに合った「とらえる位置」を選べるようにした
「今のトスの『とらえた位置』は、高かったか?ちょうどよかったか?低かったか?」という3択の質問に答えてもらえた
→「イメージ通りのボールを上げるにはどこで捉えればいいか」に徹する準備はできたので、少しずつ難易度を上げ、できる範囲を広げていける

セッターB:高い位置でとらえ、軌道の低いトスを上げる
・「とらえた位置で、そのままボールに力を伝える」というリクエストが伝わらない=「どこでとらえればどこに飛ぶか?」を試せない
・「ボールを手に持ち、そのボールで、飛んできたボールを突いて飛ばす」ことで「足を使ってボールに力を伝える感覚」がつかめた
・通常のセッター練習で、パスされたボールの位置や方向転換の角度など難しい条件が加わると「とらえた位置で、そのままボールに力を伝える」が消え、ボールを持ってしまう

・どんな軌道のトスをイメージして練習するのが「とらえた位置で、そのままボールに力を伝える」を再現させやすいか?
・「難しい条件」が加わっていないか観察、少しずつ「難しい条件」が加わっても再現できるように、球出しを調節する
「とらえた位置で、そのままボールに力を伝える」が分からなくなってきたら、「ボールを手に持ち、飛んできたボールを突いて飛ばす」練習で感覚を取り戻す

相手の試行錯誤の【中に入って】、それでも決して邪魔せず、安心を提供し、整理の手伝いをし、焦点を当てるべきところを探していく、「試行錯誤に立ち会っていく」感じなんですね。

必要なのは「正しいやり方でやらせる」ことではなく、「プレイヤーが自分自身の試行錯誤で動作感覚をつかんでいくのを導く」ことです。
そのためには「試行錯誤」が成立しているのかどうか、どんな試行錯誤が進行しているのか、観察することが絶対条件です。

・プレイヤーに「起きて欲しいこと」のイメージはあるか?どんなものか?
実際に起きたことを認識できているか?
自分がどんな風に、どんな感じでやったか覚えているか?
「こうしたら」「こうなった」「だからこうしてみよう」とつながっているか?

これらの「プレイヤー自身の認識と感じていること」を観察し想像していくことが全てと言ってもいいでしょう。

以下に「エコロジカル・アプローチ」関係をリストアップします。

非線形的運動学習理論『エコロジカル・アプローチ』by雑賀雄太
【1/5】:エコロジカル・アプローチとは
【2/5】:制約主導型アプローチとは
【3/5】:ゲーム・モデルとエコロジカル・アプローチ
【4/5】:具体的なエコロジカル・アプローチの導入、特に育成年代
【5/5】:コーチングとは『信じること』

エコロジカル・アプローチ@バレーボール by布村忠弘
【1/16】なぜ「エコロジカル・アプローチ」なのか?
 
【2/16】基本技術(オーバーパス)習得における「制約主導」
【3/15】「変動(バリアビリティ)をどのように調節するか」セッター練習の例
【4/16】「制約」という言葉について
【5/16】どんなパスがいいパスか?「代表性」について
【6/16】「ゲームモデル」との関係
【7/16】「言語化」はどこまで可能か?:プレイヤーが真に必要としているのは
【8/16】「言語化」の留意点:スキル習得においては「言語化できず、言語化すると不正確になる可能性がある」
【9/16】「スモールサイドゲーム(SSG)」の可能性
【10/16】"Smashbal" 段階的に制約が発展するスモールサイドゲーム
【11/16】スモールサイドゲームと「主体的・対話的で深い学び」
【12/16】「主体的学び」のために指導者が学ぶべきこと
【13/16】「観察の喜び」を共有したい
【14/16】試行錯誤を成立させるために
【16/16】タスクの「単純化」と「分解」

今後も、エコロジカル・アプローチ実践のために役立つことについて情報を集め、アップデートしていきたいと思いますので、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

「20230817追記]早速素晴らしい取り組みを教えていただきましたので、リンクを張りたいと思います。サッカー畑の中学体育教員の方の授業の取り組みです。

「20240117追記」

教える・教えない問題

【だから、過干渉は避けた方がよい。では親や大人の側は何もすることがないのかというと、さにあらず。朝顔に棒を挿すだけでなく、やることはいっぱい。植物の成長には水、肥料、光、二酸化炭素が必要。耕作者は、それらをふんだんに利用できる環境を整える必要がある。】

【子どもの能動性を重視しているからといって、大人の関与がなくて構わないなんて私は思わない。しかし大人の関与が必要だからといって、子どもの意欲の根を切るような過干渉を肯定することはできない。大切なことは、子どもが楽しそうにのびのびと成長すること。そのために何ができるか、ということ。

それには、よく観察する必要がある。雨の日に水をやり、晴れの日に水をやらないみたいなことは、観察していないから起きてしまう。よく観察し、いま、何が必要なのかを考え、環境を整えることで改善できるならそれをする。でも、成長し、事態を打開する力は、作物(子ども)そのもののもつ力。】

まさしく「エコロジカル・アプローチ」ですね。


このシリーズのタイトル画像は「みんなのフォトギャラリーの画像」から「試行錯誤」というキーワードで検索してヒットしたみじんことオーマの作品・写真からいただきました。たくさんの画像をありがとうございました。

シリーズとして押さえておかなければならないことが残っていることに気づきましたので、さらにもう少し続きます。
次回は エコロジカル・アプローチ@バレーボール【16/16】タスクの「単純化」と「分解」

布村忠弘のプロフィール




バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。