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エコロジカル・アプローチ@バレーボール【14/16】試行錯誤を成立させるために

エコロジカル・アプローチ@バレーボール【13/16】「観察の喜び」を共有したいからの続きです。

このシリーズでは、指導者の役目は練習環境(制約)のデザインであり、「やっている練習が、その感覚をつかむための試行錯誤になっているか?」を観察して環境(制約)を整えていくことであるということを、一貫して主張してきました。

目の前のプレイヤーにどんな「試行錯誤」が展開しているのか? 「こうしたら」「こうなった」「だからこうしよう」が成立しているのか?を観察していると、プレイヤーは 「上手くできないのは正しいやり方ができていないからだ」と考え、「言われた(信じる)通りの正しいやり方をやろう」として頑張っていることがとても多いと感じます。それでは試行錯誤が成立しないのです。

せっかく頑張っているのに、試行錯誤が成立していないために無駄な努力になり、やればやるほど苦しくなっていることが多いのです。よって、試行錯誤の成立を妨げるものを取り除いていくだけでも、指導者の貢献はとても大きいということになります。

そこで、今回は「試行錯誤の成立を妨げるもの」について考察していきたいと思います。


試行錯誤の成立を妨げるもの

・何が起きて欲しいのかが明確でない

第6回で説明したように「起きるべき結果」を言語化することは、プレイヤー自身が最適解を求めることを可能にし、1つ1つのプレーの検証もできるようになります。「正解かどうかは、誰でも見ることのできる結果から分かる」ことになり、指導者の手を離れプレイヤーの試行錯誤に委ねられるわけです。しかし、それが明確でないと「指導者の中の答を忖度する」ということが起きがちです。

基本的な技術練習においては「課題は一度に一つだけ」が原則ですが、いくつもの課題が一度に求められていることがよくあります。アンダーハンドパスでも「落下地点に入れない」「ヒット面が分からない」「筋力が足りなくてボールが十分飛ばせない」等の問題が同時に起きていることはよくあります。まずは、動かなくても取りやすいボールを出して、「落下地点に入る」という負荷をなくさないと試行錯誤が成立しないでしょうね。これも「今何をつかもうとするのか」のイメージが明確でないという問題だと考えられます。

本シリーズの第3回「変動をどのように調節するか」セッター練習の例で説明した、球出しはつかんでほしいことをつかむ試行錯誤になるように「変動を適切に調節する」ことであるというのも同じですね。

・「正しくやる」ことに意識が支配されていて、起こっていることを感じようとしていない

これは「試行錯誤」をハナから否定というか、全く信じていないパターンで、どう声をかけていいか一番悩むところですが、指導者の多くが「正しいやり方を説明してその通りにやらせる」のが指導だと思っているし、教わる方も、「こうすれば上手くいくというのがあって、それさえ教えてもらえればいい」と思っているのが現状なんでしょうね。

そういうものではないということは第7回第8回の「言語化について」でも詳しく説明していますが、「試行錯誤で自分の感覚をつかむ」ということを実際に体験してもらうしかないのではないかと考えています。

・自分がやっていることが認識できていない

アンダーハンドパスの例では、「面がどこを向いているか」 「面がどの方向に動いたか」 を認識できていないのが、初心者の「普通」です。 自分がやっていることが認識できないと、それを変える試行錯誤が成立しません。

そこで、「面」の認識を構築していきたいわけですが、プレイヤーが何を感じ認識していそうか?まずはしっかり観察し、仮説を立ててみることが必要です。手の組み方を変えてみたり、肘を曲げてみたり伸ばしてみたりして、違いを感じてもらいます。「面の動き」については能動的に動かした方が認識しやすくなるので、意識的に腕を振ってもらうことが役に立ちます。動かしてみないと「面がどこを向いていたか」は分からないものなのです。

・自分の感覚を信頼できない

試行錯誤は「こんな感じでやった」ら「こんな感じのことが起きた」ということを自分の感覚でとらえていることが必要ですが、指導者から常にダメ出しされているとその感覚を信じられなくなります。特に、結果に対する指導者からのフィードバックが一貫していないとなると悲惨ですね。

・「ちょっとはマシ」を喜べない

試行錯誤は「今回のやり方の結果」と「さっきまでのやり方の結果」のどちらが求める「起きて欲しいこと」に近いかによって、よりよいやり方を選んでいくわけです。よって、どちらがより近いかという「微妙な違い」が分かることが重要です。「完璧にできないと意味がない」と思ってしまうと「微妙な違い」=「ちょっとはマシ」を喜べず、試行錯誤のための貴重な情報が無駄になってしまいます。

また、上手く行きかけてることがあるのに気づいていないことはよくあります。少しの「よい変化」に気づき、それに驚き喜ぶことは、指導者のとても重要な役目ですね。

・試行錯誤で選べる(探索の)範囲に正解がない

ディグ練習で、「定位置まで下がってから、フェイントと判断したら前にダッシュして上げる」という練習を見ました。この練習は「判断と反応のタイミング」が重要で、ちょうどよいタイミングを試行錯誤でつかんで欲しいところですが、私が見た例では、定位置に下がったときにはボールが出ていて、タイミングを選びようがない、つまり練習環境が条件を満たしていない状況でした。

・「たくさんの失敗の中の偶然」を待てない

今までできなかったことができるようになるには、とりあえず「今までと違うやり方」をしてみる必要があります。上手くやってやろうとすると、自分がやり慣れたやり方になってしまうので、そこから外れることができなければなりません。そのためには「何十回もやる中でたまたま起きる偶然を待つ」ことが重要です。特に「タイミング」は考えると上手くいかなくなるので、偶然を待つ方が合理的です。

・やってみた結果が出る前に途中で修正してしまう

「こうしたら」→「こうなった」が1対1で対応しないと試行錯誤は成立しません。たとえばオーバーパスで「この位置でとらえたら、この方向に飛ぶ」という結果を知らなければならないのに、ボールをとらえてから「ここでそのままやると軌道が低くなってしまう」と分かってボールを持ち上げてしまうとどうなるでしょうか?「どこでとらえたらどこに飛ぶか、イメージ通りのパスを出すにはどこで捉えるべきか」が永遠につかめなくなってしまうわけですね。

・安心して失敗できない

あらためて言うまでもありませんが、試行錯誤においては「失敗」の情報こそが大事な宝物です。それを最大限に活かすには「安心」して「こうしたら・こうなった」を感じることに専念してもらいたいですね。

ちょうど、これ!という記事がありましたので、紹介いたします。
>私達は失敗したとき、「失敗しちゃいけない」と考えがち。失敗を禁止事項として伝えれば失敗せずに済む、と考えがち。だから子どもや部下に「失敗しちゃダメだろう!」と叱り飛ばしたりする。しかしそうすればそうするほど頭が真っ白になり、できていたこともできなくなるパニックに陥る。

以上を参考に「試行錯誤が成立しているか?」「成立していないとしたら何が障害になっているか?」を観察していただければ、きっといい発見があると思います。

エコロジカル・アプローチ@バレーボールのシリーズは次回のまとめでひとまず終了です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

▶︎布村忠弘のプロフィール


バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。