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エコロジカル・アプローチ@バレーボール【9/16】「スモールサイドゲーム(SSG)」の可能性

エコロジカル・アプローチ@バレーボール【8/16】「言語化」の留意点からの続きです。

制約主導アプローチにおいて最もよく行われている方法、制約主導アプローチの主役と言うべきものが「スモールサイドゲーム(SSG)」です。

SSGは、サッカー界をリードするメディア”footballista”の記事で次のように述べられています。

実際のフィールドよりもピッチを小さく区切り、選手の人数を調整するゲームトレーニングは、サッカーをプレーしたことがある人であればおそらく経験したことがあるはずだ。最先端の理論が反復する技術トレーニングよりも実際のゲームに近い環境におけるトレーニングを重視したことで、急速にSSGに注目が集まっている。特に、制約主導型のアプローチと呼ばれる思想は「SSG において正しく制約を設定すること」が選手のテクニックや判断力を向上させると考えている。 

「最先端理論を実践する手段。急速に発展するスモールサイド・ゲーム」footballista(会員限定記事)

SSGは「実際のフィールドよりもピッチを小さく区切り、選手の人数を調整するゲームトレーニング」であり、そこで「制約を適切に設定することが選手のテクニックや判断力を向上させる」最も強力な手段であるということですね。

日本サッカー協会(JFA)では、技術委員会が小学校4年生以下の年代に応じたゲーム形式を明確に示すため、「JFAスモールサイドゲーム ガイドライン」を策定しています。その目的としては、「小学校4年生以下の子どもたちが、サッカーの基礎的な技術を発揮し、ゲームを楽しむために、ボールを扱うスペースと時間的な余裕がある中で、技術を発揮しながらプレーできるゲーム環境の整備」(ガイドライン策定のニュース内の「経緯」より編集)が挙げられています。(ガイドラインpdfはこちらからダウンロード

「JFAスモールサイドゲーム ガイドライン」を策定より

「制約」の項目としては、人数、ピッチ(コート)サイズ、ゴールサイズ、ペナルティエリア、ボール、ゲーム時間、1日最大出場時間、リスタート、得点後のスタート、ゴールキック、オフサイド(なし)などが設定されています。

バレーボールにこれを当てはめるとどうなるでしょうか?
「制約」の項目として次のような項目が挙げられます。
・人数
・コートサイズ
・ネットの高さ
・ボール(風船・ビーチボール・ソフトバレーボール・スマイルボール・・・)
・アタックエリア
・サービスエリア(ネットからの距離)
・得点(何点マッチ)
・交替
・ヒット回数
・床との接触の可否(バウンド可能数)
・キャッチの可否
・キャリーの可否
・アタックの種類:特定の種類に限定、または特定のプレーへの重み付け(点数が多く動く-バスケットでは1,2,3点があるが、バレーでは「アタック」の種類が多く、「ブロック」もあり、重み付けできる可能性が広い)
・セカンドサービスの有無

非常に多くの項目が「制約の調整」に使えることが分かると思います。特に「人数」は重要な要因で、人数が多いことにより、
・「ボールに触らないプレイヤー」が出てくる
・誰がプレーすべきボールか迷い、動けなくなる(「誰でも取れるボール」がミスを起こす)
・パスを出す目標(誰にパスするか)が認識しにくい
・パスをしたら攻撃参加しなくなる ⇄ 攻撃手が自分しかいなければ、自分が攻撃参加(助走)できるパスを出さざるを得なくなる
等の問題が起きるので、制約として適切な調整が望まれます。

「ボール」については、バレーボールは持てないし、落とせないし、体でダイレクトヒットするので当たると痛い・怖いという非常に特殊な競技であるため、痛くない・怖くない・滞空時間が長い、さらに「持つと飛ばせない」風船やビーチボールをはじめ、実に様々なボールが同じような競技に使われています

「風船」ほど性質の違うボールは他の競技では考えられないのではないでしょうか?しかも、「風船」から公式のバレーボールまで、風船・ふうせんバレーボール用ボール・ビーチボール・ビーチボールバレー用ボール・ソフトバレーボール・スマイルボール・軽量4号球・4号球・5号球など、かなり細かく多段階に、その間を埋める性質を持ったボールが存在し、それぞれにゲームのルールが存在しています。

様々なボールとルールの「バレーボール」を全体として眺めれば、「制約(ルール)」を一番工夫して楽しんできたのがバレーボールだと言えるかもしれません。そう考えれば、SSGをやってみることのハードルはかなり下がるのではないでしょうか?

「持ってはいけない」「落としてはいけない」「3ヒット以内で返球(アタック)しなければならない」というのが絶妙な制約になってバレーボールが成り立っているわけですが、その制約が絶妙となるには、かなり特殊なボール操作のスキルを身につけなければ遊べるようになりません。「持ってはいけない」「落としてはいけない」「3ヒット以内」ということも含め、ちょうど遊べるようにルール(制約)を変更し調節することが初心者・若年者指導の鍵を握っていると言えるでしょう。

バレーボールこそ初心者・若年者向けのSSGを考えていかなければならないスポーツなのです。

「最初から遊べる」こと、そのために「持ってもよい」「落としてもよい」「ヒット回数を増やす」などルールをちょうど楽しめる程度に設定することの重要性について、バレーボーラーのための学びのプラットフォーム構築のために:その3「バレーボール指導の現場に必要なものは?」で詳しく説明しています。

オランダで開発されたSmashbalは、初心者が最初からスパイクの快感を味わってもらえるように「スパイクから始めてゲームを発展させる」やり方であり、前述の記事でも触れていますが、次回はその”Level1”から”Level4"までルール(制約)がどのように変化していくかについて具体的に見ていきたいと思います。

エコロジカル・アプローチ@バレーボール【10/16】"Smashbal" 段階的に制約が発展するスモールサイドゲームに続きます。

▶︎布村忠弘のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。