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エコロジカル・アプローチ@バレーボール【16/16】タスクの「単純化」と「分解」

最近とある講習会で

バレーボールのプレイをぶった切らない
「タスクを分解」するんじゃなくて「タスクの単純化」を
バラバラにした「サプリメント」だけ摂っても成長できない

2023年度埼玉県バレーボールスポーツ 指導者 義務 研修会より

という言葉に触れたので、「まとめ」を終えた「エコロジカル・アプローチ@バレーボール」シリーズですが、タスクの「単純化」という大事なキーワードが残っていたことを思い出し、これについて書きたいと思います。

タスクの「単純化」について、植田氏は著書の中で次のように述べています。

 重要なのは、制約を操作して、タスクの難易度や強度を下げつつ、試合環境では密接に絡み合う情報と動作の結合を弱めないようにすることです。テニスであれば、コーチが手で放ったボールを打つスイング(タスク分解のスキルドリル)と、実際の試合で相手がラケットで打ったボールを打ち返すスイングは、かなり異なるタスクです。スキルドリルには、相手選手の動きから得られる情報や、ボールの飛翔から得られる情報が抜け落ちています。しかも、試合では前後左右に走りながらスイングしています。
 制約主導アプローチのコーチが学習者に望むのは、実際の試合で得られる情報に基づき動きを調整し、判断できるようになることです。タスクを分解して学び、後で結合して、試合で再現することではありません。
 タスク単純化とは、代表性の高い環境で学習するために、時間的な困難や空間的な困難が軽減されるように、タスク制約を操作することです。時間的な困難を軽減するとは、子供や初心者がバスケットボールを初めてプレーするような場合に、飛翔速度が遅く、緩やかにバウンドするボールを使用して、パスレシーブのための時間を増やすようなイメージです。空間的な困難を軽減するとは、コートサイズを狭くする、ゴールのリングを低くする、軽いボールを使用するなどの操作によって、パスやシュートを無理なく実行できるように仕向けるイメージです。このような制約操作でプレーの難易度を下げ、タスクは分解せず、代表性の高さを保てるようにするのが、タスク単純化の目的です。

植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (pp.120-121). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版. より、一部抜粋

タスクが分解されたスキルドリルの例として、バレーボールでは、指導者が同じ打ち方で、同じところに、同じタイミングで、同じ軌道と速さのボールを打ち続け、そこにプレイヤーが順番に走り込んで、同じところに同じ軌道のボールを返すというレシーブ練習があります。打ち手やボールの動きが常に同じで、「相手選手の動きやボールの飛翔から得られる情報」を受け取ることがなくなります。また、バレーボールでは次にプレーするセッターやアタッカーの情報も重要ですが、それも抜け落ちています。

セッター練習でも、コーチが手で、同じ軌道で放ったボールを、同じ位置から、決まったステップで走り込んで、同じところに上げるということやったりしますが、そこに「情報を受け取って判断する」ということはほとんどありません。実際には、スタート位置からボールを捉える位置までの角度も距離も時間も様々ですし、アタッカーまでの角度と距離やアタッカーの状況も様々ですし、相手の守備の状況も様々です。

様々な状況判断の下にプレーを選択・調整できるようになるには、実際のゲームにあるような「判断・選択」が求められる環境が必要ですね。そのためには、タスクの分解ではなく、タスクの単純化によってゲームの全体性を保ち、「判断・選択」をプレイできるようにすることが重要です。バレーボールであれば、ボールの大きさや重さ、コートサイズやネットの高さ、プレイヤーの人数、タッチの回数、返球の方法等のルール(制約)を調整して様々に「単純化」することでそれが実現できます。

できる範囲で「判断・選択」が求められるようにすることが「持っている技術で遊ぶ」ということでもあります。バレーボールは「遊べるようになるまでのハードルが高いスポーツ」なので、いかに単純化するかが鍵になると言えますね。

「エコロジカル・アプローチ@バレーボール」シリーズのこれまでの記事は
エコロジカル・アプローチ@バレーボール【15/16】まとめ にリストアップしてありますので、是非ご覧ください。

▶︎布村忠弘のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。