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エコロジカル・アプローチ@バレーボール【4/16】「制約」という言葉について

エコロジカル・アプローチ@バレーボール【3/16】「変動をどのように調節するか」セッター練習の例からの続きです。

前回は「安定したプレーを身につけるためには『適切な変動』が必要である」ということについて解説しました。

セッター練習というと、全く同じ球出しから同じ目標へ、指導者の言った通りのやり方で機械のように繰り返す練習をよく見かけますが、実際のゲーム中のセットアップでは、ボールの位置、それを判断した時の体の位置(ホールまでの距離)、アプローチの角度、目標までの距離と角度、移動に許された時間等は毎回違っています。さらに、アタッカーの状況も毎回違っていて、その場その場で助走のタイミングにトスを合わせることが「決められた位置に決められたタイミングで上げる」こと以上に重要だと考えられます。

身につけたいのは、こういった「変動」の中で安定した結果を出すための「普遍的なコントロールスキル」の感覚です。「変動」にいかに対応するかこそ練習すべきであり、「変動があるからこそ普遍的な感覚をつかめる」わけです。

「制約」という言葉について

今回は、バレーボールでの実践例の紹介を一休みして、「制約」という言葉について考察してみたいと思います。

エコロジカル・アプローチを実行する手段が「制約主導アプローチ」であり、「制約」という言葉は一番根幹となるキーワードなのですが、実は私はこの言葉に少し違和感を持っていました。

最近、友人のこのツイートを見て、「制約とは解放していくものとしていいのか?(むしろ、その方が自分の感覚に近いけど)」と思いました。なぜ「制約を開放していくのも制約主導」と言う必要があったのか?

「制約」をWikipediaで調べると「(英: limitation, restriction, constraint)ある条件や枠をもうけて、自由な活動や物事の成立をおさえつけること。また、その条件や枠。あるいは、制限。」とあります。

また、「分野により以下を意味する場合もある。」とも書かれています。
制約 (CAD) 、2つ以上のエンティティまたはソリッドモデリングボディ間の幾何学的特性の境界
制約 (数学) 、解が満たさなければならない最適化問題の条件
制約 (古典力学) 、座標と運動量の関係
制約 (情報理論) 、変数間または変数間の統計的依存度

エコロジカル・アプローチにおいて「制約」は ”constraint” であり、 「制約:constraint」は生態学、生態心理学、動的システム理論、進化生物学等、様々な分野でよく使われている科学的実績のある用語であるとのことです。

「制約」とは何か?書籍では、3つの制約:「個人制約」「タスク制約」「環境制約」について以下のように説明されています。

個人制約は、構造的な制約と、機能的な制約に大別できます。構造的な制約とは、その人の身長や体重、身体が有しているストレングスや柔軟性などです。機能的な制約は、認知能力であり、その時の疲労状態やモチベーションなども含みます。
タスク制約は、ボールのサイズや重さ、ラケットの大きさ、スモールサイドゲームのコートサイズや人数など、練習環境に関わる制約です。スモールサイドゲームのルールも、タスク制約に含まれます。得点形式やボールタッチの制限、侵入可能なエリアなどです。環境制約は、物理的な制約と社会文化的な制約に大別できます。物理的な制約とは、練習する場所のサーフェスが芝か土か人工芝か、温度や湿度や標高などです。社会文化的な制約とは、その国や地域で良いものとされているプレースタイルなどの社会的な期待や、家族からの支援の状態なども含みます。

植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (p.115). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版.

このように分類することはできますが、実践の場では分類にはさほど意味はありません。はるかに重要なのは、自己組織化につながる制約をしっかり設けることができているかどうかです。例えば練習環境のサーフェスを選択できる場合は、コーチが操作できるタスク制約に含まれます。一方、土のグラウンドで練習するしかなく、選択の余地がない場合は環境制約に含まれます。しかし、重要なのはタスク制約なのか、環境制約なのかという分類ではなく、サーフェスを選択できる場合に、練習内容に適したサーフェスをしっかり選択できているかどうかです。

植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (p.116). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版.

個人の要因、環境の要因、タスクの要因によって、どんな動き方が最適かが変わってくるというわけで、「制約」とは「どんな動きが最適かを決めることになるすべての要因」と言ってもいいかもしれません。

そう考えれば、「…してもいい」も「制約」と言えるような気がします。「…してもいい」は「制約を緩める・制約を外すという作業」というイメージがあって、その辺りが違和感の原因だったと思いますが、これで解決かもしれません。

個人的にはWikipediaに書かれていた
制約 (数学):解が満たさなければならない最適化問題の条件
というのが一番しっくりくるのですが、みなさんは「制約」という言葉にどんなイメージを持つでしょうか?

エコロジカル・アプローチ@バレーボール【5/16】どんなパスがいいパスか?「代表性」についてに続く

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バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。