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エコロジカル・アプローチ@バレーボール【1/16】なぜ「エコロジカル・アプローチ」なのか?

今話題の「エコロジカル・アプローチ」ですが、このnoteでも雑賀雄太氏がシリーズで解説しています。また、ポルト大学(ポルトガル)スポーツ科学部修士課程でエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、非線形ペダゴジー、ディファレンシャル・ラーニングなどの運動学習理論を学んだサッカーコーチの植田文也氏が書籍にまとめています。

雑賀氏はシリーズの記事の最後に次のように書いています。

エコロジカル・アプローチは「自己組織化」というそのキーワードが象徴する通り、プレーヤーは自律的に成長する存在であることを前提とした理論である。裏を返せば、コーチがプレーヤーを直接的に成長させることはできないという前提がそこにはあると気がつく。つまり、エコロジカル・アプローチにおけるコーチングとは、プレーヤーを成長「させる」存在ではなく、プレーヤーが成長「する」ことを支える活動だと言えるのである。

これはコーチングの本質を捉えたものであり、バレーボールにおいても「エコロジカル・アプローチ」は基本的な取り組みの姿勢として学んでいくべきものであるということを示しています。

しかしながら、植田氏自身も「エコロジカル・アプローチという理論そのものは難解です。ただし、結論は単純で、【制約主導アプローチを実践すべき】というその一言にまとめられます。」と書いているように(植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (p.8). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版. )、その理論はなかなか難解ですが、【制約主導アプローチを実践する】ということで理解していけるものではないかと考えています。

まずは実践してみる。そのために、伝統的な「規定的な指導」を離れ、「エコロジカル・アプローチ」は「自分にもできる」と思いたい、思ってもらいたいということで、この記事を書いてみました。

エコロジカル・アプローチを実現する「制約主導アプローチ」は、獲得したいスキルや戦術を、適切な「制約」を設定することで、プレイヤー自身の探索・自己組織化に任せて獲得に導くことであると理解しています。つまり、「有効な試行錯誤が成立するように環境をデザインする」ことと言えるでしょう。

戦術に関する制約主導アプローチの典型例

このシリーズでは、制約主導アプローチのバレーボールでの実践を具体的に考えていくことになりますが、まず、雑賀氏のシリーズ第1回で示された例について、見ていきましょう。

練習内容:6対6のウォッシュゲーム
制約その①:1本目のディグによる相手コートへの返球は相手チームの得点になる。
制約その②:スパイクによるハード・アタックができるのは後衛プレーヤーのみ。前衛プレーヤーはハード・アタックができない。

制約その①によって、過度にAパスを狙おうというリスクは避け、1本目のボールがネットから少し離れていた位置でもセッターが攻撃参加枚数を十分に確保することができれば良いという戦術の可能性が生まれ、
制約その②によって、後衛プレーヤーは攻撃参加に必要な助走を確保するために1本目のディグで上げるボールの高さを高くし、前衛プレーヤーはソフト・アタックでいかに得点できるかを考える可能性が出てくる。

制約を考える際には、まずはどんなプレーが発現してほしいのか?を考えることが第一であり、重要である。その後、そうしたプレーを発現するためにはどんな制約が最適なのか?を考えるのである。そして、実際の現場で一定の制約を課したトレーニングを実施し、そこからフィードバックを受け、より最適な制約になるように修正を加えていくのである。この一連の流れはまさに試行錯誤の連続である。(以上引用、一部編集)

スキルの基本となる動作について

以上は、戦術に関する制約主導アプローチの典型例ですが、スキルの基本となる動作についてはどうでしょうか?植田氏は次のように述べています。

エコロジカル・アプローチは運動の学習ステージを、二つの段階に分けています。第一段階は「コーディネーションステージ」と言われ、…一般的に見られる動作フォームの「型」が徐々に固まっていく段階です。次の第二段階は、学習した動作パターンを環境変化に応じて適応させる「適応(アダプテーション)ステージ」です。

植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (pp.103-104). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版.

一見、第1段階では制約主導アプローチは出番がないような印象も受けますが、この「動作フォームの型」の習得もやはり「試行錯誤」によって行われ、それを有効にするためには環境のデザイン、つまり「適切な制約の設定」が鍵を握っています。

また、植田氏は次のように述べていますが、

運動学習の目的は、基礎の最適化ではありません。動的な試合環境にスキルを適応させることです。初学者であろうと、代表性やバリアビリティの高い練習環境でのプレーが可能だと判断されたら、スキルを適応させるための練習環境にどんどん進んでいくべきです。

植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (p.104). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版.

私は、単純な技術練習も「プレー」になっている(遊べている)ことで上手くなれる(効率よく学習できる)と考えています。さらに、「スキルを適応させるための練習環境」になるように制約をどんどん変化させていくことが、様々な場面で使える普遍的なスキルを確実なものにしていきます。それぞれに「適切な制約を設定して練習環境をデザインする」ということでは、それらを「二つの段階」に区別する必要は無いのかもしれません。

また、初心者から「ゲームを遊べる」ということを大切にしたいという観点からも、どんな技術レベルであれ、それを使ってできるゲームを工夫したいし、それは可能だと考えています。これについては、【バレーボーラーのための学びのプラットフォーム構築のために:その3「バレーボール指導の現場に必要なものは?」】の中で詳しく述べていますが、そこで紹介したSmashbalソフトバレーボールスマイルボールビーチボールバレーふうせんバレーボールなどは、初心者から幅広く遊べるように「制約」を工夫したものと理解できます。特にSmashbalの動画では、プレイヤーの状況に合わせてルール(制約)がどんどん変化していく様子がよく分かるものになっています。

そして、「認知・判断・行動」が一体となった「知覚‐運動カップリング」(植田文也. エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践 (p.76). 株式会社ソル・メディア. Kindle 版. )として練習してこそ、「使えるスキル」が身につくわけです。

まず、「どんな感覚を身につけてもらうか?」を考え、「やっている練習が、その感覚をつかむための試行錯誤になっているか?」を観察して環境を整えるのが指導者の役目です。「何をやらせるべきか?」よりも、観察して「今ここで、どんな感覚をつかめそうか?」が重要です。それを考えるためには「身につけるべき感覚」が整理されていなければなりませんが、「感覚」は言語化できるものではなく、得られるものは「特定の物理現象を起こすときの自分の感覚」でしかありません。よって、「どんな物理現象が起きればいいのか」を整理したものが【動作原理】であり、教科書「コーチングバレーボール」で技術指導の根幹となっているものなのです。

次回からは、制約主導アプローチをバレーボールで実践していく例について、具体的に紹介していきたいと思います。
エコロジカル・アプローチ@バレーボール【2/16】基本技術(オーバーパス)習得における「制約主導」に続く。

▶︎布村忠弘のプロフィール


バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。