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探偵神宮寺マキヒコ

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探偵小説パロディシリーズです
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記事一覧

探偵神宮寺マキヒコ、セーター殺人事件

探偵神宮寺マキヒコ、セーター殺人事件

解剖の結果、山口氏の死因は何らかのショックによる心臓麻痺だと分かった。これは事件ではなく事故だ。しかし神宮寺には少し引っかかる点があった。それは現場に落ちていた女物のセーターであった。

大胆に背中が露出し胸元が開いたデザインの、ネットでは『童貞を殺すセーター』などと呼ばれているセーターだった。山口氏は34歳であったが、失礼ながらおよそ女性にはモテそうもない風貌をしており、親しい知人の証言によると

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探偵神宮寺マキヒコ〜盗まれた句読点〜

探偵神宮寺マキヒコ〜盗まれた句読点〜

私の名前は神宮寺マキヒコ
『神宮寺探偵事務所』という小さな探偵事務所を営んでいる しがない探偵である

そして怪盗ノスフェラトゥは 私が生涯を掛けて追いかけているライバルである
『盗めないものは何もない』というのが奴が常々豪語している言い草で その通り奴は自ら望むものは何でも盗んで行った
『クレオパトラの涙』の異名で知られるダイヤのイヤリング
ピカソが晩年に遺したとされる絵画『寝そべった犬』
『不

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探偵神宮寺マキヒコ〜初めての謎〜

探偵神宮寺マキヒコ〜初めての謎〜

「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」

明智くんはそう言うと、私に向かって挑戦的な笑みを浮かべた。パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?そう言ったのか?私は自分の耳を疑った。パンは食べものじゃないか。それなのに食べられないだって?一体どういうことだ……。カビが生えたパンだろうか。そういえば先週、クラスメイトの毛利くんの机の中からカビの生えたパンが出てきた事件があった。緑色の変わり果て

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探偵神宮寺マキヒコ、最大の試練

探偵神宮寺マキヒコ、最大の試練

私の名前は神宮寺マキヒコ、『神宮寺探偵事務所』という探偵事務所を営んでいる、しがない探偵である。縁もあっていくつかの難事件を解決した今でこそ名探偵だなんて言われるようになったものだが、最初から何もかもうまくいっていたわけではない。これは私がまだ若い頃にあった事件の話。おそらく私の探偵人生で一番の試練であった。

20代の半ば、私はまだ探偵を始めたばかりだった。とは言え駆け出しのヒヨっ子探偵に頻繁に

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あとがき(または世界で最も愚かなミステリー作家の述懐)

あとがき(または世界で最も愚かなミステリー作家の述懐)

確か小学校低学年の頃だったと思う。短いお話を書いてみんなに発表しましょうという授業があった。今思えば、あの時書いたものが、私が初めて書いた小説だったかもしれない。どんな話だったかもほぼ覚えていないが、タイトルだけははっきりと覚えている。『桃金いっすんかぐやで浦島さんとうさぎと亀の鬼退治』というお話だった。

タイトルのまま、桃太郎と金太郎と一寸法師とかぐや姫と浦島太郎とうさぎと亀が鬼退治に行くお話

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探偵神宮寺マキヒコ、三日月荘の怪

探偵神宮寺マキヒコ、三日月荘の怪

神宮寺の探偵事務所に怪しい招待状が届いたのは4月のことだった。三日月荘という別荘でゴールデンウィークを過ごされませんかという招きで、集合場所と日時のみが記されており、差出人の名前は書かれていなかった。きっと何かがあるに違いないと踏んだ神宮寺は、その誘いに乗ることにした。それが恐ろしいゴールデンウィークの始まりだった。

待ち合わせ場所に神宮寺が到着すると、そこには同じように招待状を受けたらしい男女

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探偵神宮寺マキヒコ、スケッチブックの君

探偵神宮寺マキヒコ、スケッチブックの君

探偵なんて仕事をやっていると時々よく分からない依頼が来ることがあるものだが、その日神宮寺のところに舞い込んできた依頼はとりわけ変なものだった。亡くなった旦那の遺品であるスケッチブック、そこに繰り返し描かれている女性が誰なのかを調べて欲しい、という依頼であった。

依頼人は吉田ヨシエ67歳。亡くなった旦那のヨシオは大学時代のひとつ上の先輩で、3年前に病で亡くなった時は65歳だった。吉田は小さな部品工

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