探偵神宮寺マキヒコ、三日月荘の怪
神宮寺の探偵事務所に怪しい招待状が届いたのは4月のことだった。三日月荘という別荘でゴールデンウィークを過ごされませんかという招きで、集合場所と日時のみが記されており、差出人の名前は書かれていなかった。きっと何かがあるに違いないと踏んだ神宮寺は、その誘いに乗ることにした。それが恐ろしいゴールデンウィークの始まりだった。
待ち合わせ場所に神宮寺が到着すると、そこには同じように招待状を受けたらしい男女が何人かいた。神宮寺の知った顔はなく、神宮寺以外も1組のカップルがいた以外はお互いに面識はないようだった。しばらくするとマイクロバスがやって来て、我々は人里離れた山の湖畔にある別荘…三日月荘へとたどり着いた。神宮寺たちはここで3泊4日を過ごすこととなるのだ。早速用意されていた食事をしながら、神宮寺たちは互いに自己紹介をした。
田中シュウジ:元警官だという初老の紳士。右膝を悪くしているらしく杖をついている。警官を辞めた理由については多くを語らなかった。
山中タツオ:38歳。地方銀行員。元々は都内のメガバンクに勤めていたらしい。極度の肥満。
里中ハルオミ:大学2年生。父親は大物政治家の里中モトキ。父親とは違って気弱で引っ込み思案。
中村ユミ:大学2年生。ハルオミの彼女。快活な美人。ユミの方から熱心にアプローチをして付き合うことになったらしい。
中屋敷マリエ:32歳。映画やドラマで活躍する人気女優。番組プロデューサーだった夫を2年前に事故で亡くしている。
中澤コウジロウ:三日月荘の給仕。47歳。来客をもてなすようにと指示を受けて派遣されているが、依頼主の詳細は知らないようだ。
神宮寺マキヒコ:東京で探偵事務所を営む探偵。いくつかの難事件を解決している。
この7人が三日月荘に集められたメンバーだった。何故このメンバーが集められたのか、そして誰がこんなことをしたのか…。全員皆目見当もつかなかった。食堂に飾られたタペストリーには、7人の男女が描かれていた。6人が炎に焼かれ、1人がそれを笑いながら見ている。そしてそこに意味深に記された数え唄…。その不気味なタペストリーが、神宮寺たちの未来を暗示しているかのようで、豪華な食事もなかなか進まなかった…。
……
三日月荘での3泊4日を終え、神宮寺は帰途についていた。三日月荘での4日間は神宮寺にとって決して忘れられないものとなった。初日の夜のバーベキュー、2日目の川下り、夜にやった人狼ゲームでは神宮寺は人狼として上手く立ち回った。3日目の夜のキャンプファイヤーと満天の星空…。最初は疑心暗鬼でよそよそしかったメンバーたちともすっかり打ち解けて色んな話をして、きっとまた再会しようと約束をして連絡先も交換して別れた。帰りの湘南新宿ラインの車窓を流れてゆく景色を見ながら神宮寺は思った。
『何も事件起きへんのかい!!!!』
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