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原書のすゝめ

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語学は楽しい♪ +読書は楽しい♪ =原書は楽しい♪♪ をコンセプトに記事を書いてみました。Let’s enjoy reading in the original language…
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#海外文学のススメ

原書のすゝめ:#26 L’homme aux cercles bleus

原書のすゝめ:#26 L’homme aux cercles bleus

珍味というのは好みが分かれる。

それと同じで、独特の読み味にも好みが分かれる、と思う。

フレッド・ヴァルガスの作品を読んだことがある人は、ミステリファンでもそれほど多くはないだろう。フランス人でも好き嫌いが分かれるようだが、TVシリーズにもなっているぐらいだから、それなりに人気を博しているようである。

日本では、ヴァルガスの作品は在庫がなくなると書店の棚から消え、再版されることなく、やがて中

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原書のすゝめ:#25 A Bear Called Paddington

原書のすゝめ:#25 A Bear Called Paddington

クマのぬいぐるみは、子供たちの人気者である。たぶん。

子供の頃、私が大切に持っていたのはパンダのぬいぐるみだったと思うが、パンダは中国語で「熊猫」と書くから、まあ同じようなものである。

1957年のクリスマスのこと。当時、BBCでカメラマンとして働いていたマイケル・ボンドは、妻へのクリスマスプレゼントに小さなクマのぬいぐるみを買う。そして、このぬいぐるみにパディントンという名前をつけた。その翌

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原書のすゝめ:#23 The Suicide Club

原書のすゝめ:#23 The Suicide Club

子供の頃に読み忘れた作品の一つ、『宝島』。

大人になってから読んだ気もするが、むしろ覚えているのは『ジキル博士とハイド氏』の方だ。
どちらもロバート・ルイス・スティーヴンソンの作品である。

スティーヴンソンは、スコットランドのエディンバラに生まれた。
父トマスが灯台建築技師であったためか、エディバラ大学ではエンジニアリングを専攻した。その後専攻を法律へ変更し、弁護士資格を取得する。のちに、以前

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原書のすゝめ:#21 Les scrupules de Maigret

原書のすゝめ:#21 Les scrupules de Maigret

メグレ警視の捜査法は独特である。

犯行現場へ赴くと、状況を観察し、どのようにして犯罪が起こったのか、どのような人物が犯人たり得るのか、なぜ犯行に至ったのか、など人間や物を観察しながら事件を解明していく。

次々に事件を解決するメグレの名声は次第に高まり、のちにこれが「メグレ式捜査法」などと呼ばれることになる。

そして、ロンドン警視庁から「メグレ式捜査法」の「見学」にやって来る警部までいるのだ。

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原書のすゝめ:#19 The Adventure of The Blue Carbuncle

原書のすゝめ:#19 The Adventure of The Blue Carbuncle

クリスマスが近くなると読みたくなる本がある。

いくつかあるけれども、今回ご紹介するのは、
『The Adventure of The Blue Carbuncle 』(『青い紅玉)。

本作は『The Adventures of Sherlock Holmes』(『シャーロック・ホームズの冒険』)に収録されている短編である。

霜が降りた寒い朝。
みすぼらしい帽子を前にホームズがソファでくつろい

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原書のすゝめ:#18 Rock, Paper, Scissors

原書のすゝめ:#18 Rock, Paper, Scissors

本を選ぶとき、普通は読みたい本を選ぶ。

私が本を読むのは、今いるところとは違う世界へ連れて行ってもらえるからである。だから読みたい本を手に取るわけだが、自分の知らない世界を教えてくれるのは、案外誰かが勧めてくれた本だったりする。

今回の本は、『Rock, Paper, Scissors』。
知人が面白いと言って貸してくれた本で、Alice Feenyのミステリである。筆者はBBCで記者やプロデ

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原書のすゝめ:#17 SHIBUMI

原書のすゝめ:#17 SHIBUMI

私は、読書において道草食子である。

本を読んでいる時、ちょっとした言葉や表現に遭遇すると、それが引き金となって本筋から逸れて他のことを考えてしまう。

そうなると、本の続きを中断して頭の中では別の旅に出ずにはいられなくなるのだ。そしておそらく、私のような道草食子さんや横道逸男くんは案外おられるのではないか、と密かに思っている。

そんなわけで、本を読んでいてもなかなか先に読み進まないということが

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原書のすゝめ:#16 Le petit prince

原書のすゝめ:#16 Le petit prince

世界中で最も愛され、最も多くの言語に訳された本といえば、この作品をおいてほかにないのではないかと思う。

『Le petit prince 』

古今東西、老若男女を問わず、たとえ読んだことはなくても知っている人は多いはずだ。

以前、別の章で同じ「petit」がつく名作として『Le petit Nicolas』を取り上げたことがあるが、『Le petit prince』にはこれからも手をつけるこ

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原書のすゝめ:#15 Still More Two Minutes Mysteries

原書のすゝめ:#15 Still More Two Minutes Mysteries

早起きは三文の徳。

分かってはいるが、昔から朝は苦手である。
とくに冬場は、太陽すら寝ぼけ眼の時刻にカタツムリよろしく、布団を背負いながらズルズルと寝床から這い出るのが辛い。願わくば、冬眠中の熊になりたい。

夏至を迎える頃には、こんな私でもカーテン越しに差し込む朝の光の中で、ゆっくりと優雅に羽化する蝶のレベルぐらいには目覚めもよくなる。

だいたい早朝にして既に南中高度は高く、気温も上昇してい

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原書のすゝめ:#14 Carry on, Jeeves

原書のすゝめ:#14 Carry on, Jeeves

英語の授業が苦痛に感じられるようになったのは、一体いつからだろう。

文法の授業では「構文を丸覚えするように」と言われたものだが、丸暗記が苦手な私にとってそれは拷問に等しかった。書取りの時間では、綴りを思い出そうとする間に先生が次の文章を読み始めるので、鉛筆が追いつかず、いつも途中からBGMになるのがオチだった。

しかし、構文の丸覚えも書き取りも語学学習には欠かせないものだから、もちろん一切の責

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原書のすゝめ:#13 Fahrenheit 451

原書のすゝめ:#13 Fahrenheit 451

私はいつも「記事」を寝かせる。
長いものだと1年以上寝かせている。
というか、思いついた時に書いたものが溜まってしまうから、記事の方で勝手に寝ている。

そして、ときどき風味を確認しながら、発酵を待つ。書いた順ではなく、熟成したものから出荷する。そのため、季節感のあるものは少なく、トレンドにも乗らない。英語エッセイは頭に浮かんだ順に書いて、書いた順に投稿しているので、夏に冬の記事が掲載されていたり

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原書のすゝめ:#12 The Adventure of the Western Star

原書のすゝめ:#12 The Adventure of the Western Star

アガサ・クリスティの作品は、長編小説66作、中短編が156作、戯曲15作、だそうである。

実は情報元によってやや数字が異なっているのだが、まあ、多少の誤差があったとしても構わないと思う。いずれにせよ、作品数が多いことには変わりはないのだから。

ある日曜日の朝、突然クリスティの全作品を原書で読もうと思い立った。

何かきっかけがあったわけではないけれど、ストラットフォード・エイボンでセールになっ

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原書のすゝめ:#10 La fille de Brooklyn

原書のすゝめ:#10 La fille de Brooklyn

Antibes, mercredi 31 août 2016.
À trois semaines de notre mariage, ce long week-end s’annonçait comme une parenthèse précieuse, un moment d’intimité retrouvée sous le soreil de fin d’été de la Côte d’

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原書のすゝめ:#9 The Promise

原書のすゝめ:#9 The Promise

原稿用紙10枚。
文章力をつけるために必要な枚数なのだそうだ。

私は、原稿用紙に換算すると8枚から10枚を目安に記事を書いている。きっちり字数を決めてもよいのだが、日本語以外の言語を使ったり、原文の引用があったりするため、厳密に決めないことにしたのだ。英語エッセイは手書きでA4用紙1枚程度である。

なぜ字数制限を設けるのかという問いに対して、Somerset Maughamサマセット・モームが

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