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哲学書評

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記事一覧

【所感】飯田隆「言語とメタ言語」

【所感】飯田隆「言語とメタ言語」

以前書いたnote「【読解】飯田隆「言語とは何か?」」では未読だった、飯田の「言語とメタ言語」という論文を、まずは流して読んだ。訂正の意味を込めて本noteを書く。
「言語とメタ言語」では、「「言語の外に立つ」ことはできないが、「言語の外には出られる」(『分析哲学これからとこれまで』148頁」)」という主張がなされていた。これは、世界(実在)の側を、人間(認識)が、正しく指し示すことができるのか?

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【読解】飯田隆「言語とは何か?」

【読解】飯田隆「言語とは何か?」

本noteは、『現代思想2024年1月号 特集=ビッグ・クエスチョン(青土社)』に所収された、飯田隆の「言語とは何か?」という論文の主張を検討したものである。本論文は、ウィトゲンシュタインの哲学的態度の変化を道標に「言語とは何か?」という問いについて考察している。
さて、「言語とは何か?」という問いは、特有のフラストレーションが伴う。概ね飯田は次のように言う。

では、飯田からしばし離れ、ウィトゲ

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【書評】浅田彰『構造と力』

【書評】浅田彰『構造と力』


はじめに1983年に世に出た、浅田彰の『構造と力』が2023年の暮れに中公文庫から出された。手に取りやすくなったことで、どれだけの人がこの本を手にするかわからないが、当時のベストセラーであったことには一定の理由があるだろう。この本はフランス現代思想というジャンルに属するが、この「現代思想」が何をやっているのかを概観するにはうってつけだ。スピーディで、煽ってくるような文体は、普段誰も語ろうとしない

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【読解】木島泰三「心と身体はどのような関係にあるのか?」

【読解】木島泰三「心と身体はどのような関係にあるのか?」

はじめに本noteは、『現代思想2024年1月号 特集=ビッグ・クエスチョン(青土社)』に所収された、木島泰三「心と身体はどのような関係にあるのか?」を紹介するものである。木島は、古代の哲学者アリストテレス、近代のデカルト、現代のデネットとその対抗馬のチャーマーズを参照し、哲学史を概観しながら、難問「心身問題」の出自と現状を紹介している。

概要と要約現代の「心身問題」は、「魂なき機械論的な世界か

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【読解】納富信留「「ある」とはどのようなことか?」

【読解】納富信留「「ある」とはどのようなことか?」

はじめに本noteは、『現代思想2024年1月号 特集=ビッグ・クエスチョン(青土社)』に所収された、納富信留の「「ある」とはどのようなことか?」を紹介するものである。納富はプラトンの専門家であり、本論文はギリシャ語の語源的な「ある」と、パルメニデス、プラトン、アリストテレス以降の西洋哲学の伝統的な探究テーマになった「ある」の意味を対比させた後、「ある」の神秘性や考えることそのものの難しさを述べて

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【読解】永井均「この現実が夢でないとはなぜいえないのか?」

【読解】永井均「この現実が夢でないとはなぜいえないのか?」

はじめに本noteは、『現代思想2024年1月号 特集=ビッグ・クエスチョン(青土社)』に所収された、永井均の「この現実が夢でないとはなぜいえないのか?」を紹介するものである。短い論文であり、文章に複雑さはないが、それがかえって難しい。

この現実が夢でないとはなぜいえないのか?永井の答えは、「この現実は夢の特徴を持ちあわせている」からだ。つまり、現実は夢っぽいのだ。
では、夢の特徴とは何なのだろ

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「なぜ世界は存在するのか?」という問いはどういった問いなのか?永井均『哲学の密かな闘い』を読みつつ

「なぜ世界は存在するのか?」という問いはどういった問いなのか?永井均『哲学の密かな闘い』を読みつつ

問いがもっているべき構造世の中にはたくさんの謎がある。ある不幸な人はこう思うだろう。「なぜ自分だけこんな目にあうのか?」。また、ある科学者はこう思うかもしれない。「なぜこの世界はこのような物理法則に支配されているのだろうか?」。また、ある人はこう思う。「なぜ世界は存在するのだろうか?」と。

どのような問いも共通の構造をもっている。問われているあり方そのものと、それに対比される他の可能性としてのあ

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ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』のエッセンス

ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』のエッセンス

『論理哲学論考』は難解だと言われているが、論旨の中核はそこまで複雑ではない。そこで本noteでは、概要でもなく、感想でもなく、本書のエッセンスを列挙する。これがわかれば、本書が読みやすくなるかもしれない、というものだ。そして、一番シンプルな解説だとも言える。

ウィトゲンシュタインは、有意味な言語表現と、無意味な言語表現を区別した。有意味な言語は、世界の内で起こる事実を記述しえるが、無意味な言語は

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片岡一竹『疾風怒濤精神分析入門』の所感

片岡一竹『疾風怒濤精神分析入門』の所感

永井均さんがTwitterで紹介していた、片岡一竹『疾風怒濤精神分析入門 ジャック・ラカン的生き方のススメ』を一通り読み流したので、ひとまず所感を残しておく。

本書は精神分析の大家であるジャック・ラカンの理論のラフスケッチであるとともに、精神分析という営みを平易に紹介するものである。

ラカンというと現代思想に大きな影響を与えたことで知られているが、その理論は難解極まりない。私もいくつかの書籍か

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入不二基義『現実性の問題』「現に」という現実性の、記述可能性、認識可能性、存在可能性

入不二基義『現実性の問題』「現に」という現実性の、記述可能性、認識可能性、存在可能性

はじめに以前所感を書き、別noteで円環モデルを紹介し、さらに別noteで「現に」という現実性を解説した、入不二基義『現実性の問題』を読み解いていく。

「現に」という現実性を解説した際にも登場したが、「現に」という現実性は、記述された内容や輪郭とは独立のものである。だが、そのようなものが存在していると、どのようにして言えるだろうか。本noteでは、私から三つの疑問を提示し、それに対応する入不二の

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入不二基義『現実性の問題』「現に」という現実性

入不二基義『現実性の問題』「現に」という現実性

はじめに以前所感を書き、別noteで円環モデルを紹介した、入不二基義『現実性の問題』を読み解いていく。

本noteでは本丸である「現実性」について考察していく。とりわけ、「可能性」との連関に限定した「現実性」にフォーカスする。前回のnoteで提示した超簡易版の円環モデルのうち、以下図のとおり赤点線の箇所が射程範囲である。
※なお、次のnoteでは図中左下の「潜在性」との連関における「現実性」を取

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入不二基義『現実性の問題』第一章の円環モデル

入不二基義『現実性の問題』第一章の円環モデル

はじめに以前所感を書いた、入不二基義『現実性の問題』を読み解いていく。

本書は「現実と可能」についての考察であるが、基本的に形而上学的(存在論)な哲学書である。心の哲学や時間論がキーワード的に登場するとはいえ、あくまで、入不二の形而上学だと思って読む方が、内容に裏切られないと思う。

まず、第一章に絞り、そこで登場する「円環モデル」を本noteで紹介する。このモデルは本書全体を裏で支える通奏低音

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入不二基義「非時間的な時間 第三の〈今〉」を読む

入不二基義「非時間的な時間 第三の〈今〉」を読む

1.はじめに「非時間的な時間 第三の〈今〉」は入不二基義『時間と絶対と相対と 運命論から何を読み取るべきか』の第一章である。

さて、哲学における時間論では、大別して「A系列」と「B系列」という立場が存在する。「A系列」は時間を独特の「変化」として動的に捉え、「B系列」は時間を順序関係として静的に捉える。この分類はマクタガートという1900年頃に活躍した哲学者によるものだ。

それをふまえたうえで

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入不二基義「懐疑論・検証主義・独我論から独現論へ」を読む

入不二基義「懐疑論・検証主義・独我論から独現論へ」を読む

はじめに入不二基義「懐疑論・検証主義・独我論から独現論へ」は大森荘蔵生誕100年の特集号である『現代思想 一二月号(2021)』に収められたテキストである。

大森荘蔵は戦後日本を代表する哲学者であり、西洋哲学の受容のみならず、自らの頭で考え抜く姿勢が後世に多くの影響を与えた人物だ。この雑誌の中でも現代の日本を代表する学者によって、数々のエピソードが紹介されている。

ただ、入不二の本テキストは通

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