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#多様性を考える

父が危篤のとき、僕はゲームをしていた。

父が危篤のとき、僕はゲームをしていた。

「お父さんが救急車で運ばれたから、お母さん行ってくるね」

動揺を隠し切れない母が、気丈なフリをして病院へ向かった。

家には、姉と僕の二人だけが取り残された。

あれからもう20年近くになるか。当時僕は高校2年生だった。

土木現場で重機の運転手をしていた父が、仕事中に突然呼吸困難となり、救急車で搬送された。後から知った話では、気管支炎だったそうだ。
得てして現場作業員は喫煙者が多く、父もその一

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人生最後の挑戦! 推し、母。

人生最後の挑戦! 推し、母。

「わたし、YouTuberになったよ!」

あるとき、68歳の母からLINEが届いた。動画を観ると、確かに母は料理をするYouTuberになっていた。

母は、iPadもパソコンも持っていないので、撮影はスマホ一台でしている。

「びっくりしたー。どうしてYouTuber?」

「わたしより年上の90歳でも、YouTuberになれる時代だよ! わたしにも、できると思って」

よくよくヒアリングして

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小説「ある朝の目覚め」第一章

小説「ある朝の目覚め」第一章

あらすじ化粧はわたしの「戦闘服」。わたしを強くしてくれる。

内気で感受性の強い自分に「武装」してIT企業の技術営業職として働くあや子は、お気に入りのノートと万年筆で日々の出来事や自分の考え・思いを書き出して整理する習慣を仕事や生活に活かしている。

出勤前のおひとり様時間を楽しむカフェでのある女性バリスタとの交流が、あや子の日々と内面とに、最初は小さな、徐々に大きな波紋を起こしていく。

ある日

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小説「弦月湯からこんにちは」第1話(全15話)

小説「弦月湯からこんにちは」第1話(全15話)


【あらすじ】



第1話



──「お目覚めかね、イチコ」

 いつもの低いしゃがれ声が聞こえる。肩に置かれた手は、ずっしりと重い。見上げないでも分かっている、そこには獅子頭の男がいる。舌なめずりしながら、私を待ち構えている、獅子頭の男が。

 あたりを見回す。いつもの白い部屋にいた。床も、壁も、天井も、どこもかしこも白くて、つるつるしている。換気扇が回るぶーんという音が、薄く聞こえる。

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