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記事集・H

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私は蓮實重彥(蓮實重彦ではなく)の文章にうながされて書くことがよくあります。そうやって書いた連載記事や緩やかにつながる記事を集めました。
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うつす、ずれる

うつす、ずれる

 今回は「何も言わないでおく」の続きです。見出しのある各文章は連想でつないであります。緩やかなつながりはありますが、断章としてお読みください。

 断片集の形で書いているのは体力を考慮してのことです。一貫したものを書くのは骨が折れるので、無理しないように書きました。今後の記事のメモになればいいなあと考えています。

書く、描く
「書く」のはヒトだけ、ヒト以外の生き物や、ヒトの作った道具や器械や機械

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何も言わないでおく

何も言わないでおく

 今回は「簡単に引用できる短い言葉やフレーズほど輝いて見える」という話をします。内容的には、「有名は無数、無名は有数」という記事の続編です。

 前回の「名づける」の補足記事でもあります。

*「「神」という言葉を使わないで、神を書いてみないか?」

 学生時代の話ですが、純文学をやるんだと意気込んでいる同じ学科の人から、純文学の定義を聞かされたことがありました。

 ずいぶん硬直した考えの持ち主

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『杳子』で迷う

『杳子』で迷う


謎解き
 小説を読むさいに、何らかの見立てを設ける場合があります。見立てなんて言うと、もっともらしく響きますが、図式的な先入観をもって読書に臨むことでしょう。

 ようするに決めつけて読むわけです。

 たとえば、謎解きです。ジャンルがミステリーの小説であれば、謎解きがテーマなはずですから、「正しく」謎を設定して、「正しく」解いていけば、「正しい」解にたどり着けるでしょう。

     *

 

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「カフカ」ではないカフカ(反復とずれ・05)

「カフカ」ではないカフカ(反復とずれ・05)

 名前は複製として存在します。文字であれば、複製、拡散、保存が簡単にできるし、名前は最小の引用でもあります。だれでも、簡単に引用できるのです。

 でも、ほんとうにそうでしょうか? 今回は、反復と「ずれ」を、名前で考えてみます。

最強最小最短最軽の引用
 名前は最強で最小最短最軽の引用です。なかでも固有名詞、とくに人名は最強で最小最短最軽の引用なのです。

 固有名詞の中でも人名や作品名にそなわ

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「私」を省く

「私」を省く


「僕」
 小学生になっても自分のことを「僕」とは言えない子でした。母親はそうとう心配したようですが、それを薄々感じながらも――いやいまになって思うとそう感じていたからこそ――わざと言わなかったのかもしれません。本名を短くした「Jちゃん」を「ぼく」とか「おれ」の代わりにつかっていました。

 さすがに学校では自分を「Jちゃん」とは言っていませんでした。恥ずかしいことだとは、ちゃんと分かっていたよう

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「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

「ない」に気づく、「ある」に目を向ける

 吉田修一の『元職員』の読書感想文です。小説の書き方という点でとてもスリリングな作品です。

「 」「・」「 」
 たとえば、私が持っている新潮文庫の古井由吉の『杳子・妻隠』(1979年刊)に見える「・」ですが、河出書房新社の単行本では『杳子 妻隠』(1971年刊)らしいのです。

 らしいと書いたのは、現物を見たことがないからです。ネットで検索して写真で見ただけです。

 私は「・」がなかったり

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