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△読書感想:歴史△ 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」 (0014)

織田信長に反旗を翻した伊賀忍者(?)軍団の攻防に迫った一冊です。

「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地 
著 者: 和田裕弘
出版社: 中央公論新社(中公新書)
発行年: 2021年

<趣意>
歴史に関する書籍の読書感想です。 対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。 新刊・旧刊も含めて広く対象になっております。

 

※一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください

<概要>
「忍者」といえば、いまもむかしも「伊賀」をすぐ思い浮かべると思います。 「天正伊賀の乱」については伊賀の忍者軍団が一致協力(惣一揆)して織田信長と全面対決して信長を苦しめた争乱というイメージでしょうか。
その実相をより具体的に解き明かそうとするとともに、いわゆる「忍者」(本書では「しのびのもの」と呼びます)の本当の姿や彼らの実際の活動にも触れられています。

 

<構成>
全体は7章構成ですが大まかに4つに分かれています。
第1に、「天正伊賀の乱」を理解するための前提として、織田信長勃興期における伊賀国の状況、そして信長と伊賀の関係。
第2に、「第1次天正伊賀の乱」(本書では第1次から第3次までに区分)とされる信長の息子である北畠(織田)信雄による伊賀侵攻の顛末。
第3に、その後の信長主導による「第2次天正伊賀の乱」とその結果としての伊賀平定までの過程。
第4に、本能寺の変を受けて、伊賀国人の残党による再反乱とその鎮圧から豊臣秀吉治世下における伊賀支配。

また要所要所で、いわゆる「忍者」(ここでは伊賀衆または伊賀国人になります)の戦国時代における実際の活動や実態についても言及されています。
なお、伊賀国人たちが中心になりますが近接の甲賀についても併せて言及されています。

 

<ポイント>
本書の特徴のひとつとしては、その手法において、文献に依拠してそれらに記載のある情報を基に丁寧に、「天正伊賀の乱」の実相を解明しようとしている点にあるかと思われます。
本文内にも随時、典拠となる文献を示しており、またそれらの文献についてもどの程度の信頼性をおけるのかを配慮しつつ説明されている点がとくに印象に残りました。

内容としては、題材からしてややもすると特殊技能(もちろんマンガのような忍術でないことは言うまでもありませんが)を持った伊賀忍者たちと、それを圧倒的な軍勢と物量で押し切って封殺しようとする織田信長の激しい戦いのイメージなどに引きずられかねませんが、そこは冷静に受け止めつつ、実際の「忍者」(伊賀国人)たちの戦いの有様を述べられており、当時の「忍者」たちの本当の姿を窺い知ることができるかと思われます。

また「天正伊賀の乱」を、信長に対する地域的反乱というひとつの事件(または信長包囲網の連環のひとつ)にとどめて説明するだけでなく、そこから敷衍して戦国時代の趨勢を踏まえ、この争乱と鎮圧が、中世の終焉と近世の創出を体現するメルクマール的な出来事のひとつであったのではないかと捉えている点も特徴的ではないかと感じます。

 

<補足>
・天正伊賀の乱 (Wikipedia)
・伊賀国 (Wikipedia)
・織田信雄 (Wikipedia)

 

<著者紹介>
和田裕弘 (わだ やすひろ)
歴史研究家。 おもに織豊期に関する著作がある。
そのほかの著作:
『織田信長の家臣団 派閥と人間関係』 (中央公論新社)
『信長公記 戦国覇者の一級史料』 (中央公論新社)
『織田信忠 天下人の嫡男』 (中央公論新社)

 

<私的な雑感>
「天正伊賀の乱」と聞くと、子供の頃に忍者のマンガやアニメで心躍らせた私としては、兵力と物量に劣る忍者たちがその異能な能力を駆使して神出鬼没、多種多彩な奇襲攻撃やゲリラ戦などにより織田軍団に立ち向かうドラマチックで壮絶な激闘を思い浮かべてしまいます。

しかし実際のところはどんな戦いであったかはよく分からないようです。 本書では個々の「忍者」たちの姿や活動の具体的な実態やエピソードには触れられておりません。 
小説やマンガなどの創作を通じて名のある忍者は数多くいますが、そのような人々が実際にいたかどうかは不明ですし、そのモデルになった人が実在していたとしても、その真の姿や実績について信頼に足りる資料は心許ないようです。 本書でも創作の世界で有名な忍者の原型らしき名前(名前だけですが)は出てきますが、詳細で具体的な事績やエピソードは残念ながら見当たらないようです。

そうはいっても、実際に忍者たちがいたことは事実であり、当時の人たちの記録にも彼らの存在とその活躍ぶりが残っています。 そして天正伊賀の乱(第1次天正伊賀の乱)においても伊賀の忍者たちのゲリラ戦で、織田信雄が敗退に追い込まれたことも事実です。

そんな歴史のカケラを元に、血湧き肉躍るエンターテイメントが創作され人々を楽しませてくれることは許してもらってもいいのではないでしょうか。 私のようなお気楽ないち歴史ファンとしては、史実だけに縛られることなく、余白としてのエンターテイメントを楽しみたいなぁーと思います(もちろん、あくまでエンターテイメントとしてですが)。

読んで良かったです!

 

<本書詳細>
「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
(中央公論新社)

<参考リンク先>
書籍『伊乱記』 (伊賀市 古文献刊行事業)
書籍『伊乱記』 (国立国会図書館デジタルコレクション)
書籍『現代語訳 信長公記』 (KADOKAWA)
書籍『戦国の忍び』 (KADOKAWA)
伊賀忍者オフィシャルサイト (伊賀流忍者観光推進協会)
伊賀上野観光協会 (※公式サイト)
伊賀流忍者博物館 (※公式サイト)

 

敬称略
情報は2021年11月時点のものです。
内容は2021年初版に基づいています。

 

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(2021/12/16 上町嵩広)

 

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