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△読書感想:歴史△ 「アレクサンドロスの征服と神話」(興亡の世界史) (0013)

今回のテーマは「アレクサンドロス大王」。 世界史・人類史における屈指の征服王です。

「興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話」 
著 者: 森谷公俊
出版社: 講談社(講談社学術文庫)
発行年: 2016年 (原本は「興亡の世界史」第1巻(2007年)です)

<趣意>
歴史に関する書籍の読書感想です。 対象は日本の歴史が中心になりますが、世界史も範囲内です。 新刊・旧刊もふくめて広く対象になっております。

 

※一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください

<概要>
人類の歴史においておそらく1,2を争うであろう征服者であるアレクサンドロス大王(三世)の生涯とその帝国について俯瞰で時系列的に解説するとともに、その性格や特質を分析した一冊です。

 

<構成>
全体で第10章の構成となっています。 おおまかにテーマを分けていいますと次のようになるかと思われます。 
第1に、アレクサンドロス三世が生まれたマケドニア王国とその周囲のギリシアとペルシアとの関係性。 
第2に、アレクサンドロスのギリシア統一と東方遠征の歴史。 
第3に、アレクサンドロスの人間像。 
第4に、アレクサンドロス死後の帝国の行方と帝国の歴史的影響。

 

<ポイント>
一般向けのアレクサンドロス三世とその帝国の解説書のなかでも、全般的に内容を統括した基本書といえるかもしれません。

アレクサンドロス三世について人々の最も大きな関心事は、驚異の大征服を成し遂げた彼の人間像とその征服の歴史になるのではないでしょうか。 本書はその両方について広く解説し読者の期待に応えてくれるものだと思われます。

アレクサンドロスの人間像そしてその大遠征に関する説明はもちろんのこと、この2点を理解する上で欠かすことのできない前提であろうマケドニア王国(そして父王フィリッポス二世)についても丁寧に解説されています。
また東方遠征の軍事的征服プロセスだけにとどまらず、スピーディーな征服の成功の要因ともなっていたと思われる、アレクサンドロス流の征服地の支配の構造、彼を支えたマケドニア将兵たちとの独自の関係性についても分析がなされています。 
さらにアレクサンドロス三世の死後の帝国の解体と後継者戦争が語られるとともに、彼の覇業(?)がその後の世界の構造と歴史の有り様に残したインパクトについても考察が重ねられています。 

著者は、古代ギリシア・古代マケドニアを専門とする歴史学者であり、本書以外にもアレクサンドロス三世に関する著作を複数出版されています。 著者の長年の研究と考察により積み重ねられてきた成果に基づく堅実な内容ではないかと思われます。

アレクサンドロス三世と彼の大征服について知るには、他にも多くの解説書はもちろんのこと小説などもあります。 そのなかでも、各項目全体を網羅的に捉えており、総合的な理解のための標準的な教科書的一冊といえるのではないでしょうか。

 

<補足>
アレクサンドロス三世 (Wikipedia)
マケドニア王国 (Wikipedia)
ペルシア帝国 (Wikipedia)
フィリッポス二世 (Wikipedia)
ヘレニズム (Wikipedia)

 

<著者紹介>
森谷公俊
帝京大学文学部教授。 専門は古代ギリシア・マケドニア史。
そのほかの著作:
『アレクサンドロス大王東征路の謎を解く』 (河出書房新社)
『アレクサンドロス大王――「世界征服者」の虚像と実像』 (講談社)
『アレクサンドロスとオリュンピアス―大王の母、光輝と波乱の生涯』 (筑摩書房)
など。
参考サイト: 帝京大学

 

<私的な雑感>
アレクサンドロス三世の東方征服について、個人的には最初にそして大きく感じたことは、「よくもまぁー、マケドニア兵たちはインドまで付いていったなぁ…」という嘆息でした。

もともとマケドニアの王と将兵たちの間には、もちろん厳然たる上下関係はありましたが、絶対的なものではなかったと思われます。 しかし、アレクサンドロス三世の掲げる(もとは父王のものですが)東方征服という魅力的なロマンス(名誉・栄光だけでなく財宝も含めて)が契機ではあるでしょうが、夢物語をまさに実現してカリスマ性を強化し、将兵たちは王への忠誠心を高め、さらにそれが征服を拡大していくというある種の好循環があったのではないかと思われます。

アレクサンドロス三世はどれほど版図を広げようと征服心が尽きぬようでしたが、将兵たちにはさすがに限界があったようです。 
ある研究によると、人間は一定のレベルまで豊かになる(財産を形成したり収入を得られるようになる)と、それ以上に豊かになることに対してより多くのコストを払う(手間や時間を含めて)ことに消極的になり、満足度も大きく向上しないそうです(飽くことなく追求する人もいるでしょうが)。 将兵たちはアレクサンドロス三世がインドまで手に掛けるとはっきりと彼から心も態度も離反してしまいました。 
「もう、カンベンしてくれ…」てことでしょうか。

当時の将兵たちは獲得した財宝を手元で保管しながら遠征を続けていたようです。 当時は銀行などもなかったのですから一番安心できるのは自分の手元に実際に置いておくことだったのでしょう(故郷のマケドニアに送ったり、ペルシアの支配都市に保管したりもあったのでしょうが)。 
なにせ同じマケドニア人であり王の近臣であるバビロニア太守でさえ、管理を任されていた財宝を私的に使い込んでいました(太守は王が戻ってくるとは思っていなかったようです…)。 
そんなわけですから、最前線で体を張って戦う兵士たちについて、生きて帰ってくるわけはないと思われても仕方ないところでしょうか。

私が兵士だったら、背後のお宝を誰かがくすねて逃亡しないかと心配で、目の前の敵との戦いどころではなかったかもしれません…。

とにもかくにも、多元的で並行的世界として独立していた各エリアを、政治・経済・芸術文化など幅広い社会構造の融合という影響を残したことで、(アレクサンドロス三世がそれを意図していたかは別として)、彼が世界と歴史を新たなる次元へ推し進めたといえるのかもしれません。
もちろん、アレクサンドロス三世の東方遠征が始まりでもなくすべてではないでしょうが。

たいへん勉強になりました!!

 

<本書詳細>
『興亡の世界史1 アレクサンドロスの征服と神話』 (講談社/講談社学術文庫)

<参考リンク>
書籍『アレクサンドロス大王伝』  
著/プルタルコス 訳/森谷公俊  河出書房新社
書籍『アレクサンドロス大王東征記』
著/アッリアノス 訳/大牟田章  岩波書店
書籍『アレクサンドロス大王東征を掘る  誰も知らなかった足跡と真実』  著/エドヴァルド・ルトヴェラゼ  訳/帯谷知可  NHK出版
書籍『アレクサンドロス大王』  
著/ヒュー・ボーデン 訳/佐藤昇  刀水書房
書籍『よみがえる天才4 アレクサンドロス大王』 著/澤田典子 筑摩書房
漫画『ヒストリエ』  著/岩明均  講談社
映画『アレキサンダー』(2004) (Wikipedia)  
テレビ『NHKスペシャル 文明の道 第1集 アレクサンドロス大王 ペルシャ帝国への挑戦』 (NHK)
WEB記事:「ビジネスに効く! 世界史最前線(第2回) 英雄史観は危険、アレクサンドロス大王の真実を見よ」 (JBpress)

 

敬称略
情報は2021年7月時点のものです。
内容は2016年初版に基づいています。

 

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(2021/09/02 上町嵩広)

 

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