見出し画像

△読書感想:歴史△「土葬の村」

今回のテーマは「土葬」。 日本においていまや消失しつつある日本の葬儀文化や習俗を記した一冊です。

「土葬の村」 
著 者: 高橋繁行
出版社: 講談社(講談社現代新書)
発行年: 2021年(初版)

<趣意>
歴史に関する書籍の読書感想です。 対象は日本の歴史が中心になりますが、世界史も範囲内です。 新刊・旧刊もふくめて広く対象になっております。

 

※一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください

<概要>
日本の一部地域において平成の時代にまだ人々に文化・習俗として続いていた土葬文化も令和に入り、ついに途絶えようとしていることを踏まえ、土葬文化を30年にわたり調査してきた著者が記録を残して広く一般に知ってもらおうと取り組んだ解説になっています。

 

<構成>
本書は四部構成となっています。
第1章では、まず日本でおそらく最後に残る土葬文化の村落の実態を記録しています。 次に著者がこれまで長らく調査してきた近畿地方を中心とした各地の土葬文化を解説しています。 さらに現在の日本で新しいかたちで巻き直される土葬の形式と流れをそれぞれ説明しています。
第2章では、土葬とは異なりますが、かつての日本では比較的行われていた野焼き火葬について述べられています。 
第3章では、沖縄でかつて行われていた風葬の文化と習俗を取上げています。 
最後に第4章では、日本古来の土葬等の埋葬に関する伝承や伝説などのエピソードが紹介されています。

 

<ポイント>
最大のポイントは、現代の日本ではマイナーな(ほぼ消滅した)埋葬である「土葬」という文化・習俗を、納棺や墓地までの死者を運ぶ野辺送りなどの具体的な作業について体験者のインタビュー等を通じて詳細に記録し説明している点にあると思われます。

また土葬だけでなく、現代の火葬以外の日本各地の古来の野焼き火葬や風葬などについても取り扱っております。

これらにより日本の古来の埋葬文化と習俗そしてそれを執り行ってきた日本の人々の死者や埋葬に対する考え方、思想や精神性などを窺い知ることができる貴重な一冊ではないかと思われます。

 

<著者紹介>
高橋繁行
ルポライター。 葬儀葬祭やそのほかの幅広いテーマで取材・執筆活動。 高橋葬祭研究所を主宰。
そのほかの著作:
『葬祭の日本史』 (講談社/講談社現代新書)
『看取りのとき かけがえのない人の死に向き合う』 (KADOKAWA/アスキー新書)

 

<私的な雑感>
私は学生時代まで、日本では土葬は禁止されており火葬だけが許可されているものとばかり思い込んでおりました。 社会人になり日本をいろいろと回るなかでまだ土葬文化が残っていることを知り、正直なところビックリしました。

著者の述べるところでは、平成の時代においても一部地域では土葬は身近な文化として継続していましたが、令和となりいまや途絶えようとしているようです。 
著者が記録している土葬に関する一連の手続や行動を維持しようとすると、その地域・集落における親戚一族や地域住民の多くの協力が不可欠となり、集落全体の行事とでもいえるほどの多くの大きな労力と負担が必要のようです。 現在の日本における過疎化どころか限界集落問題そして親類同士の絆のある種の分解を考えると、困難と言うよりも不可能に近いといっても差し支えないのではないでしょうか。

個人的には、埋葬される方の生前からの「身体を焼かれるのは嫌」という思いがあり、その故人の思いを尊重されてきた遺族の方々の努力が印象に残りました。 これまで気にすることもなかった、古来の日本人の死生観の一端に触れることができたように思われます。

著者はことさらに古来の伝統的な土葬等の文化習俗を「残すべきだ」「維持すべきだ」「復活すべきだ」と強く主張しているわけでないと思われます(少なくとも本書においては)。 これらの古来の文化習俗が消えてしまうことにある種の寂寥感を覚えつつ、跡形もなく消えて忘れ去られてしまうことに対して、せめての思いとして、記録と記憶を残しておきたいと本書の執筆を思い立ったのでしょうか。

時代の変化とともに、日本の伝統的文化や古来の風習が消えてしまうことは他にも数多くあるかと思われます。 そのひとつを後世に記録として残す役割を果たす貴重な一冊なのではないかと感じました。

ご興味のある方は一読してみるのもいいのではないでしょうか。

 

<本書詳細>
『土葬の村』 (講談社/講談社現代新書)

<参考リンク>
書籍『墓と葬送の社会史』  著/森謙二  吉川弘文館
書籍『葬送習俗事典: 死穢の民俗学手帳』  著/柳田国男  河出書房新社(河出文庫)
書籍『お墓の誕生』  著/岩田重則  岩波書店(岩波新書)
書籍『弔いの文化史 日本人の鎮魂の形』  川村邦光  中央公論新社(中公新書) 参照:版元ドットコム
書籍『死者を弔うということ: 世界の各地に葬送のかたちを訪ねる』  
著/サラ・マレー  草思社(草思社文庫)
WEB記事: 世界の葬送 (公益社)
WEB記事: 住民反対運動も"世界一の火葬大国日本"で在日外国人が望む土葬を受け入れられるか (プレジデントオンライン)

 

敬称略
情報は2021年7月時点のものです。
内容は2021年初版に基づいています。

 

<ご留意点>
(1) URLはリンク先の運営方針等によりリンク切れなどになっている場合があります。ご容赦ください。
(2) 詳細な情報等はリンク先へご確認、お問い合わせ等をお願いいたします。
(3) 各項目は本運営者の自己の裁量で掲載させていただいております。なお、リンク先およびその記載情報等について、正確性、信頼性、安全性、有用性や合法性等を保証するものではございません。また、本ページへの掲載は、運営者のリンク先の掲載情報への賛意等を意味するものではございません。ご理解ください。
(4) 本ページの掲載内容は、諸般の事情により運営者の判断で変更されることがございます。ご了承ください。
(5) サービス改善や向上などのご意見等がございましたら、お聞かせいただければ助かります。よろしくお願いいたします。
(6) 不定期更新です。 毎月1回を目安に更新を予定しております。

(2021/08/05 上町嵩広)

 

<バックナンバー>
0001 「室町の覇者 足利義満」
0002 「ナチスの財宝」
0003 「執権」
0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
0005 「織田信忠」
0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
0007 「江戸の妖怪事件簿」
0008 「被差別の食卓」
0009 「宮本武蔵 謎多き生涯を解く」
0010 「戦国、まずい飯!」
0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」

 

#読書感想文

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?