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○読書感想Vol.6 「流浪の戦国貴族 近衛前久」○

題 号: 「流浪の戦国貴族 近衛前久」 (中公新書)
著 者: 谷口研語 ※敬称略
出版社: 中央公論社(発刊当時) 現:中央公論新社
発行年: 1994年10月25日
価 格: 880円(税別) 
リンク先: 中央公論新社

一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください。

<概要> ※以下、概要内のリンク先は「Wikipedia」です。
 戦国時代後期・末期の五摂家筆頭である近衛前久の生涯が主題になっています。近衛前久の戦国時代における事績や活動の解説がメインであり、時系列的に、以下のように区分できるかと思われます。
 第1に、青年期における上杉謙信との強い連携関係の時代。
 第2に、壮年期に入り、織田信長との協調関係の時代。
 第3に、本能寺の変を境に第一線を退いた、豊臣秀吉への追従関係の時代。
 第4に、豊臣政権末期から江戸幕府開府に至る、最晩年の時代。
 近衛前久は公家であり、五摂家筆頭の近衛家の当主でありながら、かなり血気盛んであったようであり、上杉謙信と親交を深め、謙信の関東支配、それを契機とする室町時代の朝廷・幕府権威の再興を企図し、関白現任でありながら、越後のみならず関東まで下向し、謙信の関東支配を後押しし、ときには焚き付けるほどまでのアクティブな人物であったようです。
 しかし、謙信の関東支配は結局、行き詰まってしまい、謙信とも疎遠となったところへ、足利義昭を擁した織田信長の上洛に合わせ、今度は織田信長と協調路線をとり、再び朝廷の権威復活の意図を活発化させたものの、これも本能寺の変で頓挫してしまったようです。
 その後は、本能寺の変に関する豊臣秀吉からの嫌疑等を受け、出家し隠棲状態に入り、政治問題に関与する意欲を退潮させていったたように思われます。五摂家筆頭近衛家や元関白という名誉的地位を、秀吉に利用され、秀吉の権力・権勢拡大に追従せざるを得ないような、受動的で積極的意志も感じさせないほどまでになってしまったような印象を受けます。
 風雲急を告げる戦国時代にあって、朝廷・公家社会の再興のために積極果敢に取組む、前久のいわば公家社会の風雲児としての魅力と、時代の趨勢には逆らえず挫折したものの、公家の矜持を保とうとした最後の人物を描いたものと感じられました。

<雑感>
 近衛前久は寡兵ながら自ら戦陣にも赴き、武家と対等な関係を築こうとしたのでしょうか。しかし、公家社会においては明らかに異端であり、当時の他の公家衆からは好意的評価をされていなかったようです。出版当時から、戦国時代における天皇・公家等の朝廷に関する研究も進んでいると思われますので、改めて最新の研究を取り入れ、主題とした書籍が望まれると思われました。
 興味がある方は一読してみるのもよいかと思われます。

※内容は「1994年10月25日 初版」に基づいています。

<関連書籍> ※敬称略
「朝廷の戦国時代」  著:神田裕理 吉川弘文館
「天皇の歴史5 天皇と天下人」  著:藤井讓治 講談社
「戦国貴族の生き残り戦略」  著:岡野友彦 吉川弘文館

(2020/09/04 reki4)


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