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読書録

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柳流水の読書録です。
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#読書

【読書録】聖書周り

 新約聖書の福音書を読む日々。何で今、いや、そんなにジャストのタイミングで読むべきものもない。読むことはたいがい、時期外れに行われる。
 ニーチェが確か『喜ばしき知識』かどこかで、ルナンのことを批判していたので、とりあえずルナンの『イエス伝』を読んでいたのだが、新約聖書を読んでいなければそもそも背景というか、何が書いてあって何が事実なのかという所もわからないので、今まで何かの折に読もうと思っては放

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【読書録】かつてあった大阪 柴崎友香+岸政彦『大阪』

 たぶんコロナ禍に入ってから連載が開始された、岸政彦という社会学者と柴崎友香という小説家の、往復書簡のような形式のエッセイ集。
 テーマは、まさに題名通りの「大阪」。どちらも生い立ちの多くは大阪という土地に彩られており、そのうち東京に来た、という所が共通している。
 その性質から、大阪の昔を描写せざるを得ないわけだが、それに関して二人とも慎重である。何が慎重かというと、過度に思い出のフィルターを掛

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【読書録】ディドロ他『百科全書』5 中世のプロジェクトX

 もう図書館に返してしまったので、直接読み返したり引用することはできないが、せっかく読み終えたので雑多に浮かぶことをまとめようと思った。
 まず一つ、思ったより現在ある百科全書との差異はない。内容が薄いということもないし、当時必要とされていた知識、網羅的にアーカイブするという意識も、現代のものとそう変わらないのだろう。
 前回触れた「神と王の気配を強く感じる」という点も、当時の法全般がそこを根拠に

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【読書録】アレクサンドル・ジノヴィエフ『カタストロイカ』 2

 あの許すべからざる侵略戦争が起きるはるか前に読み始めたのだが、読むことをサボっているうちに、社会情勢がこんなに変わってしまうとは、夢にも思わなかった。

 いずれ同じ調子で、ペレストロイカが起こった当時のことを、面白おかしく、だが「いくら誇張したように見えても、それこそが当時の現実だったのだ」調で、本当らしく語るのである。
 面白おかしいのであるが、時世が時世であるだけに、それほど無邪気にも読め

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【読書録】ディドロ他『百科全書』4 神と王の気配が強いんじゃ

 引き続きこの本を読んでいる。
 「自然法」「主権者」「親権」の項目。これらに滲んでいるのは、王権と親権の、今とは違う、今現在の日本の社会からは想像もつかない力関係としての王権と親権の力である。主権の奥には、神の力がある、神がいなければ、王は力をもたない、神の代理として振る舞うのが王である、等々、はっきりと書かれている。その力に歪んでいて、たぶん、現在ではこれは事典としては成り立たないのではないか

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【読書録】ディドロ他『百科全書』3 フロイトと同じやり方

 1700年代という時代の風を大きく孕んで書かれた、ディドロ=ダランベールの『百科全書』。よくよく調べると、全巻書き切られた頃には発禁だか何かされていて、後半はコッソリ制作されていたらしい。その中の項目のいくつかの抜粋で構成されている、岩波文庫版の『百科全書』を今読み進めている。

 今読んでいるのが、短いけれども「自然状態」の項目。ルソーが社会契約説を提唱する際に利用した考えだ。社会、法律が生ま

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【読書録】ディドロ他『百科全書』2 哲学の変遷の記述自体に哲学の変遷を見る

 引き続き、ディドロとダランベールが編集した、1700年代に盛り上がった、百科全書を読み進みている。
 序論を抜け出し、具体的な項目としての「哲学」の項を読んでいる。
 昨日の記事では、ここに読むべきものがあるのか否か、疑問に思っていたが、いろいろな背景を思い浮かべながら読んでいると、得るものがない書物というのはないのだなと思った。ここにも、歴として読むべき何かがあった。

 序論の中で書かれてい

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【読書録】ディドロ他『百科全書』

 よく聞く、中世のフランスで起こった「百科全書派」という単語。いったい、百科事典のごときものが、一つの派閥を生み出すに足るのだろうか。昔はそうだったのだろうか。今では考えられないが。誰の、どういった全書だったのか。この単語しか聞かず、正体も立ち位置も不明だったため、想像が膨らむばかりだった。
 先日、その当の『百科全書』、本体は長すぎるのだろうか、序論と中心的項目の抜粋が、はるか昔に岩波文庫で出て

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【読書録】シャイフ・ハーレド・ベントゥネス『スーフィズム イスラムの心』6(終)

 本編の最後の箇所である。この後、先代か何かの詩何篇かと、訳者のあとがきがあって、この本は終わる。
 結構長い時間かけて読んできて、この言葉が来たので、表面的に捉えてしまって、何だかがっくりしてしまった。
 ただ読むことには、価値がないのだろうか。
 さすがに、そこに含意されていることがわからないではない。このあとには、この書を読んだことによって、具体的な行動、実践に駆られるのでなければ、本書は意

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【読書録】シャイフ・ハーレド・ベントゥネス『スーフィズム イスラムの心』5くらい

 これは今度は、知ってる人は知ってるかもしれないが、GNUという、フリーソフトウェアのセットの命名法と似ている、ちょっと違うかもしれないが、朗唱の中の文言に、同心円的な光景を持ち込んでいる所は似ている。これって、実は先ほどの、垂直性と水平性、右と左のある空間、四つの象限に区切られる平面的思考、スピード感をもってどこかに進化しようとする矢印のような秩序に歯向かう、円環的時間の構成要因なのではないか?

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【読書録】シャイフ・ハーレド・ベントゥネス『スーフィズム イスラムの心』4くらい

 バーというのは、アラビア語で二文字目に当たり、最初のアリフ「ا」は縦線で、バー「ب」が横線であり、外からの簡単な言葉で説明すれば、男と女、水平と垂直のような、二元論的な象徴であるという、中島みゆきの「糸」である、まさに、本当に男女がそれぞれの役割をもって存在して、敷布を構成するといったような含意があるらしい。
 引用箇所は、神の御名において、という、仏教でいう何妙法蓮華経のような最初の文句の中に

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【読書録】シャイフ・ハーレド・ベントゥネス『スーフィズム イスラムの心』3くらい

 バラバラに触れて来たのでナンバリングがどの辺になるのかわからないので、だいたい三回目とする。

 語気が強いんじゃ。ベルクソン涙目。
 全てを、時間における点と線の関係、直接的な時間というものの考え難さに人生を費やしてきたと言ってもいい、ベルクソンの思想の、あるいはその先駆者たちの真っ向からの否定と見ていい。たぶん、どちらも正面からこの点において相手を反駁するために話そうとか、どちらが真実か言い

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【読書録】まるで友達の家に遊びに行ったらだんだんその友達の厄介な性格が見えてきた時のよう

 スーフィズムの、現在の教祖である、シャイフ・ハーレド・ベントゥネスの著書『スーフィズム イスラムの心』の続きを読んでいる。
 読み進めるごとに、手放しに称賛することが、だんだんためらわれてきた。

 コーランの世界の中では、ムハンマドは最初の預言者なのではなく、最後の預言者であるとされ、イエスやモーセは、コーランの中でも偉大な預言者のうちの一人であると数えられている。
 簡単な理解だが、イスラム

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【読書録】ベルクソン『物質と記憶』4

『物質と記憶』の終盤に差し掛かって、終盤というのは、「要約と結論」という章に入ったからなのだが、今までわからなかったことが、ここへきて全体的視点を得ることができる、あるいは、そこまでいかなくとも、今まで読んできて全く分からなかった点を、何かしら読み換えるヒントのようなものがある、ということに期待をしていたのだが、それは完全に裏切られた。この「要約と結論」においてまとめられていることは、今まで辿って

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