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『コーヒー焼酎』とこの世の果て。

彼女と、近所のお店にお酒を飲みに行くことがおおい。

お酒に関しては、だいたいペースも一緒だし、耐性も同じくらい。好みは違うがお互いある程度、なんでも飲める。僕はワインやウイスキー、彼女は日本酒がとくに好き、といった具合で。

「アヤトくんがお酒弱かったら、つきあえないだろうなあ」と彼女はよく言っている。これは決してアルハラではない。と思う。

そんな折、次の一杯を決めようとメニューを眺めていると、ふと気になるお酒をみつけた。

『コーヒー焼酎』

僕はその飲み物が、なぜだかずっと気になっている。


むかしむかし、お酒が好きだが、しかしすぐに眠くなってしまう、Nという人物がいた。

『もっとお酒を楽しみたいのに……』
Nは友人たちと飲む機会があるたびに、そう思った。

実際、僕もお酒をゆっくり飲むと、最初の数杯のうちは、ものすごい眠気に襲われるときがある。

そこでNは考えた。「コーヒー飲んでから、お酒を飲み始めればよいのでは?」彼はカフェインの覚醒作用に注目した。

しかしすぐに問題が浮かび上がる。

Nは友人たちとの飲み会が終わったあと、千鳥足でなんとか自宅に帰り着き、そのまま倒れ込むように眠ってしまった。

しかしNが目を覚ましたのは、それから二時間後だった。

カフェインの覚醒作用が持続しているせいで、上手く眠れなかったのだ。

二日酔いも手伝って、Nは次の日の仕事を、夢遊病者のようにこなすはめになった。

「どうすればいいのだろう?」
Nはその日の晩酌で、ウィスキーグラスを傾けながら頭を抱えた。

なんとか上手くカフェインの覚醒作用を持続させたまま、お酒をたのしんで、深い眠りにつく方法はないだろうか。

しばらく考えたあと、Nの頭の中に電撃がはしった。

「そうか! はじめからそうすればよかったのだ! なんでこんなに簡単なことに気づかなかったのだろう!」

Nは自宅にあったコーヒーと焼酎の瓶を抱え、それをブレンドした液体、『コーヒー焼酎』を生み出した。

「これで眠くならずにお酒を飲んで、充分な睡眠もとれるぞ!!」
そのときNは天にも登るような気持ちだったという。

次の日、出勤したNの目もとには大きなクマができていた。

「社長。今日から仕事やめます!」

Nは自由の身になった。めでたしめでたし。


『コーヒー焼酎』という飲み物を見るたびに、こんな想像をする。

カフェインとアルコールの共演であり狂宴。陰と陽。光と闇。プラスとマイナス。終わりと始まり。その混沌。

そこには、明日のことを捨て去った、この世の果てみたいな酩酊が待っているんだろうな、と。


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眠れない夜に

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