The Beatles 全曲解説 番外編 〜『The Beatles: Get Back』感想
2021年11月27日、ついにピーター・ジャクソン監督作品『The Beatles: Get Back』の全貌が明らかになりました!
監督による特別映像が配信されてから早1年、この日を死ぬほど心待ちにしているファンの方も多かったことでしょう。
公開されてからというもの、喜びの声や様々なコメントがネット上に飛び交っています。
全3エピソード、8時間にわたる本編。
1周視聴しただけでは全てを消化し切れませんが、今回は特別編として、初発の感想を3つに分けて簡潔に記しておきたいと思います。
※ネタバレを含むため、本編未視聴の方は充分ご注意ください※
感想①: ライト層にもセッションの流れが掴みやすい
これまでゲット・バック・セッションの様子を正規ルートで知る方法は、1970年公開の映画『Let It Be』を観るか、公式から発表されているアウトテイク集などから確認するしかありませんでした。
それぞれ演奏や会話の音源は断片的なもので、セッションの全体的な流れを掴むには小さすぎる情報でした。
そのため、ゲット・バック・セッションの全貌は、ごく一部の関係者や研究者による情報を想像で補うことでしか捉えることのできないものだったのです。
ところが、今回8時間分の映像と音声が解禁されたことで、ファンがこれまで想像に頼ってきた部分の多くが可視化され、セッションの流れをより深く理解できるようになりました。
カレンダーを1日ずつ潰していく流れの作り方が非常にナイスだと感じました!
「体験型エンターテイメント」の触れ込みに違わず、ルーフトップ・コンサートが近づくにつれての高揚感と緊張感をメンバーとともに共有出来る作りがニクいです。
さらに、デビュー前からゲット・バック・セッション開始までのビートルズの歩みが簡単に示されたり、文脈の説明が必要な発言には補足映像が挿入されたりと、ビートルズに関する予備知識が少なくても楽しめる構成に唸りました。
日本公演の映像が挿入されていたのは、日本のファンには非常に嬉しい演出でしたね!
感想②: 名曲が生まれる瞬間&埋もれてきた未発表曲の数々!
名曲が出来上がっていく過程をじっくり楽しむことができるのも魅力的でしたね。
中でもパート1、遅刻したジョンを待っている間にベースをかき鳴らすポールが、あれよあれよという間に “Get Back” を作り上げていく様には鳥肌が立ちました。
これまでは「雰囲気の悪いセッション」というイメージが先行しがちなゲット・バック・セッションでしたが、この映画ではメンバーが一丸となってコンセプトに沿った演奏を実現させようとする様子を楽しめます。
メンバーが少年時代に楽しんだオールドロックンロール、ボブ・ディランなどの同世代ミュージシャン、取り止めのないジャムセッションなど、まるでビートルズのシークレットライブに招待されたかのよう。
特に未発表のレノン=マッカートニー作品の多さは圧巻で、ビートルズの創作意欲の高さをこれでもかと思い知らされます。
そして、待望のルーフトップ・コンサート初の全編公開!
ライブ演奏だけでなく、屋上の下見の様子に、沿道で見守る一般の方のコメントや、止めに入った警官とスタッフのやり取りも充実していて、伝説のライブの一部始終をより濃密に理解できるようになりました。
ちなみに警官とのやり取りも含め、本作ではロード・マネージャーのマル・エヴァンズが大活躍しています。
歌詞の書き起こしや演奏の手伝いから軽食・小道具の手配まで、ビートルズの大きな信頼を受けながら活動を支えたマルは、まさに本作の「影の主役」と言えるでしょう。
感想③: バンドに真摯に向き合う4人の姿にグッとくる
映画『Let It Be』でもそうでしたが、これまでゲット・バック・セッションはポールが孤軍奮闘で引っ張っていたというイメージがありました。
ところが、本作からは4人がそれぞれのやり方でバンドに真剣に向き合う様子がはっきりと描かれています。
本作は制作発表当時は、セッションの明るい面だけを抽出しているような印象を持たれていました。
ですが蓋を開けてみるとピリピリした場面も含めて、ゲット・バック・セッションのありのままの姿を出来るだけ「さらけ出す」覚悟が窺える内容でした。
“Two Of Us” の演奏中にポールと口論になったり、ジョンとポールがワイワイ演奏しているのをよそにむくれているジョージの表情は非常に生々しいです。
さらに、バンドの在り方を巡るジョンとポールの真剣な議論(隠し録り‼︎)の様子は衝撃的でした。
雰囲気の良くなったセッション終盤でさえ、ルーフトップ・コンサートをやるかどうかで意見がまとまらないところなど、この時期のバンド運営の困難さを理解できる場面は全編通じて多いです。
それでも、この時期のビートルズは決して根からバラバラになっていた訳ではなく、バンド存続に向けて全員が自分なりに真摯な感情を持っていたことが分かります。
ジョンはヨーコの存在とリーダーの自負から。
ポールは真面目で不器用な使命感から。
ジョージは音楽へのストイックさから。
リンゴは程よい距離感とユーモア精神から。
形は違えど4人の想いとそのバランスが、瓦解しかけていたバンドを辛うじて支えていたのは間違いありません。
筆者が最も印象に残ったのは、その均衡が大きな危機に陥ったセッション7日目、ジョージがスタジオを出ていった後、帰り際に肩を寄せ合う3人の姿でした。
ビートルズというモンスターを背負って長い月日を共に過ごした戦友たち。
その魂を超えた繋がりがここにはありました。
結局このあと1年と少しでビートルズは解散してしまいますが、心の中ではいつまでも4人は「ビートルズ」だったと考えるのは感傷が過ぎるでしょうか。
最後に
以上、長々と感想を述べてきましたが、結局言いたいことは一つです。
「ここまで生きてきてよかった‼︎」
筆者はビートルズ解散から20年以上を経て生まれた「ド後追い世代」で、リアルタイムにビートルズがいる喜びを知りません。
ですが、2021年というこの年に偶然にも生きていることができて、1年以上も「ビートルズの最新作」を心待ちにすることができて、ビートルズと一緒にあの時代に「Get Back」できた自分は、心の底から幸運だと思います。
そして、この年にビートルズ全曲の解説記事の連載を始め、その最終盤に文章という形で、この大作に触れた喜びを皆様と共有出来ることが何より嬉しいです。
改めて、根気強くセッションの記録を残してくれたマイケル・リンゼイ=ホッグ監督と、それを最高の形で世に届けてくれたピーター・ジャクソン監督に最大限のRespectを。
ディズニープラス独占配信とはいえ、見放題なのが嬉しいところ。
年末にかけ何度も観返して、じっくり深く楽しみたいと思います。
そして、「The Beatles 全曲解説」連載も、最後まで全力で楽しんで駆け抜けてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
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