The Beatles 全曲解説 Vol.184 〜アルバム『Let It Be』について
今回より、アルバム『Let It Be』とその全収録曲の解説に移ります!
バンドの瓦解をどうにか食い止めようともがきにもがくビートルズ。
ところが、そんな過程にも数多くのトラブルが4人を襲い、ビートルズの結束が試されることになります。
アルバム『Let It Be』概要
アルバム『Let It Be』は、1970年5月8日に発表された、ビートルズ最後のオリジナルアルバムです。
発売順では最後の作品ですが、レコーディングが始まったのは『The Beatles (White Album)』の発表後すぐとなる、1969年1月でした。
活動中盤から見せていたサイケな実験性や、『White Album』の多彩な音楽性から離れた、比較的ストレートなロック作品が多いのが特徴です。
更に、演奏の間の会話やジャムセッションの断片が多く収録されており、異色とも言えるほどにライブ感の強い作品でもあります。
なぜこのような作品ができたのか。
そして、なぜ1年以上も発表が遅れたのか。
それは、このアルバムが辿った複雑な道のりがあったのです。
ゲット・バック・セッション
『White Album』のセッションでバンドがバラバラになる危機感を覚えたポールは「もう一度ライブ活動をやらないか」とメンバーに提案。
ジョージをはじめほとんどのメンバーは乗り気ではなかったものの、「ライブ演奏可能な新曲をレコーディングし、その模様をドキュメンタリーとしてまとめる」という所までは話がまとまり、1969年の年明け早々、本格的なセッションに入ります。
これが通称「ゲット・バック・セッション」と呼ばれるものです。
目指したのは、1日で完成させた伝説のデビューアルバム『Please Please Me』のスタイル。
ライブ録音だけの楽曲を集め「原点回帰」を宣言し、バンドの結束を改めて強めることが目指されました。
ところが、そんな青写真を掲げて始まったセッションはすぐに行き詰まってしまいます。
原因となったのは慣れない環境によるストレスでした。
映画撮影用のだだっ広く寒々しいスタジオで、常にカメラを回されながらのレコーディング。
曲作りに集中できるわけもなく、4人のフラストレーションはたまっていきます。
ついにはジョージがポールと口論を起こし、セッション中盤にはレコーディングを数日ボイコットするという事件も。
セッションは正念場を迎えます。
しかしジョージの復帰後、彼が助っ人として連れてきたキーボーディストのビリー・プレストンが加わったことで、雰囲気は好転。
演奏はソウルフルさを増し、活気が戻ってきたのは明らかでした。
セッションの難航によって、会場も決まらないまま延期を繰り返していたライブは、アップル・コアの屋上でのゲリラライブという形で実現しました。
この約40分の演奏は、「ルーフトップ・コンサート」と呼ばれ、伝説となっています。
この約1ヶ月に亘るセッションの様子は、1970年に映画『Let It Be』として、マイケル・リンゼイ=ホッグ監督によってまとめられました。
内容はポールが孤独にバンドをまとめようとする様子や、メンバー同士が噛み合わない場面が多く、結構観ていて辛い画が多いものです。
ですが、終盤のルーフトップ・コンサートの映像は、さすが世界を席巻したバンドの結束力をこれでもかと見せつけてくるもので、「ビートルズここにあり」という声が聞こえてきそうです。
フィル・スペクターの登場
ライブをやることはやったものの、1ヶ月分のレコーディング音源の処置にメンバーは困ります。
ジェフ・エメリックは『White Album』セッションの途中でビートルズのもとを離れていたため、ビートルズはグリン・ジョンズというエンジニアに音源のまとめを依頼します。
その結果、『Get Back』と題された1枚のレコードが完成します。
ところが、アルバムというよりも「レコーディング記録」のような内容にメンバーは満足できず、結局この作品はお蔵入りとなります。
メンバーはそのままアルバム『Abbey Road』のセッションへと入ります。
翌年の1970年、契約の関係からもう一枚アルバムを出す必要に迫られたビートルズは、ジョンやジョージの推薦でアメリカの大物プロデューサー、フィル・スペクターに改めて音源のまとめ直しを依頼します。
スペクターは独自の録音技術で、重厚かつ絢爛豪華な音像を作り出す「ウォール・オブ・サウンド」の使い手として、60年代のアメリカのポップスシーンを牽引した人物です。
人間的には一癖も二癖もあるまさに「鬼才」で、アーティストを引き立たせるというよりは、「オレのやりたいことをやる」という風に、作家性を前面に出すプロデュース手法で知られていました。
結果「原点回帰」をコンセプトに積み上げられた音源は、スペクターの手によってエコーとオーケストラが多分に加えられたものとなりました。
ジョン・ジョージ・リンゴの3人は特にこだわることなく彼の仕事を評価しましたが、ゲット・バック・セッションに特段の思い入れがあったポールはこの音源の扱いに激怒。
契約を覆す訳にはいかずアルバムの発売は呑みましたが、スペクターとは絶縁することになります。
こうしてようやく世に出たのがアルバム『Let It Be』だったのですが、こういった制作の経緯から、長年その真価についてはファンの間で議論の種となってきました。
『Let It Be…Naked』の発表
アルバムが不本意な形で発表されたことをポールは長年根に持っていました。
ある表彰式でスペクターと鉢合わせした際には、「早く帰らないと、あいつにオーケストラとコーラス隊をダビングされるぞ!」という捨て台詞を吐いたほど。
スペクターは80年代を境に退廃的な生活に入り、2003年には殺人容疑で逮捕され、2021年に獄中でその生涯を終えました。
何の因果か、その逮捕のニュースと重なるタイミングにあたる2003年、『裸のLet It Be』が発表されたのです。
このアルバムはスペクターによる加工を廃し、「原点回帰」のコンセプトに立って『Let It Be』をポール主導で再構築したものでした。
「Naked」と宣言してはいるものの、ただ演奏をシンプルにしたというだけではなく、アウトテイクの音源も取り入れながら「ビートルズが本当に鳴らしたかった音をレコード上で仮想的に再現する」という、リミックスアルバムの色が強い作品です。
タイトで引き締まった、熱量のある演奏が楽しめるアルバムですが、ポール個人の思い入れが強く出ていることもあって、あまり好まない人が多い作品でもあります。
筆者は大好きな一枚なのですが、誤解を恐れずに言えば、オリジナルへの思い入れや耳の慣れの少ない後追い世代ほどしっくりきやすい作品なのかなとも思います。
50周年記念盤&最新映画の発表!
そんな紆余曲折も賛否両論も経てきた『Let It Be』、2021年についに50周年記念盤が発表されましたね!
これまでは『Anthology』シリーズでも触れることができなかったアウトテイクや、封印されてきたグリン・ジョンズ編集による『Get Back』が解禁され、『Let It Be』の歴史をより深く知ることができるようになりました。
何より世界中のファンが心待ちにしているのが、最新映画『The Beatles: Get Back』ではないでしょうか!
映画『Let It Be』では、難航するゲット・バック・セッションの中で対立するビートルズの姿がクローズアップされ、観る側にとってはしんどい内容となっていました。
ところが、ポールとリンゴはこれまで「本当はもっと仲良くやってた」と何度も口にしてきました。
その意味が、今回正式に発表された予告編で明らかになった訳ですよね。
これまでは暗いセッションという印象だったのが、出てくるのは笑顔と活気に溢れた、初期のマッシュルームカットとも錯覚してしまう4人の姿。
筆者はこの予告編だけで何度も泣きました。
2時間×3回の計6時間というボリュームで、伝説のセッションの1ヶ月を追うという内容。
中でもルーフトップ・コンサートは初の全編公開ということで、あの瞬間についに立ち会えると思うと今からワクワクしっぱなしです。
11月25日〜27日は、ファンにとってはまさにお祭りの3日間になることでしょう。
それを心待ちにしながら、最新リミックスと共に『Let It Be』収録曲の魅力を追っていきましょう!
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