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医療人類 家庭医療目 都市型 東京に棲息 家庭医療+人類学・精神分析・生命哲学に興味が…

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医療人類 家庭医療目 都市型 東京に棲息 家庭医療+人類学・精神分析・生命哲学に興味があります

記事一覧

依存症と主体/自己についての自分的メモ(読書記録)

2024年日本プライマリ・ケア連合学会学術大会(JPCA2024)のシンポジウム、「助けてが言えない」をオンデマンドで視聴した。依存症の研究で著名な松本俊彦氏と、当事者研究…

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8日前
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JPCA2024:都市部の高齢者に犬の散歩を処方する

筆者の勤務する診療所にはさまざまな主訴で高齢者が受診するが、その中でも身体の不調の訴えというよりは、話し相手がほしくて受診する方が一定数存在する。薬や身体の相談…

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2か月前
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JPCA2024:訪問診療での超高齢者の看取りにおけるExpert Generalist Practiceの実践

2024年6月に浜松で開催される第15回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会でのポスター発表の内容が、おそらく不十分で理解困難な気がするので、こちらにテキストとして掲…

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2か月前
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偶然性と運命

 病気になった人は,必ず自問するだろう.医療者なら一度は患者から訴えられたことがあるだろう.「どうして自分がこの病気になったのか?どうして自分だけ?」 こうした…

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3か月前
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「風の谷」と対称性

 安宅和人氏の「風の谷」の試み、またコロナ以降の世界の展望、「開疎化」という概念を知り、だいぶ昔にひっそりと書いた文章を思い出した。今回のコロナで、人間(と家畜…

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6か月前
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「たべきる」と「使い切る」

三浦哲也の『食べたくなる本』の,「おいしいものは身体にいいか」という表題の文章では,料理家の有元葉子の「暮らし」について語られている.本によると,有元は食を含め…

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7か月前
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「ふつうの相談」を家庭医療的に読む

ふつうの相談0とは、不調を「個人症候群」(中井久夫)として扱っているときに生じるものであり、疾患として診断、ラベリング、抽象化される前の原初の状態のものを言う。…

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10か月前
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PLAN75はDNARの延長線上にあるのか?

人間は自分たちの死をコントロールできるのか、してよいのかどうか。 これがこの映画に通底する疑問である。 人が死を選ぶとき、それは本当に自分の意志だけで選んでいるの…

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1年前

映画『エゴイスト』はSDHがテーマである

手持ちカメラで人物のクローズアップや真後ろを撮影し、視点はあくまで人物の近景に絞られている。ゲイの性行為をあそこまで生々しく写したのも、登場人物のリアルを体感す…

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1年前
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依存症と主体/自己についての自分的メモ(読書記録)

依存症と主体/自己についての自分的メモ(読書記録)

2024年日本プライマリ・ケア連合学会学術大会(JPCA2024)のシンポジウム、「助けてが言えない」をオンデマンドで視聴した。依存症の研究で著名な松本俊彦氏と、当事者研究の熊谷晋一郎氏が出演しており、松本俊彦編集の『助けてが言えないーSOSを出さない人に支援者は何ができるか』に触発されて企画されたとのことだった。
松本氏の発表は、若者の市販薬のオーバードーズ(OD)、リストカットなどが主題である

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JPCA2024:都市部の高齢者に犬の散歩を処方する

JPCA2024:都市部の高齢者に犬の散歩を処方する

筆者の勤務する診療所にはさまざまな主訴で高齢者が受診するが、その中でも身体の不調の訴えというよりは、話し相手がほしくて受診する方が一定数存在する。薬や身体の相談などの用事が済むと、友だちとするような雑談をひとしきりして満足して帰っていく。背景には、孤立した都市部の高齢者という社会問題がある。こうした問題に対して、医療ではなく、犬の散歩というコミュニケーションを処方した試みについて報告する。

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JPCA2024:訪問診療での超高齢者の看取りにおけるExpert Generalist Practiceの実践

JPCA2024:訪問診療での超高齢者の看取りにおけるExpert Generalist Practiceの実践

2024年6月に浜松で開催される第15回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会でのポスター発表の内容が、おそらく不十分で理解困難な気がするので、こちらにテキストとして掲載しておくことにする。一般向けではないのでそのうち書き直そうと思う。

超高齢の患者の訪問診療において、Expert generalist practice(1)、つまり個別化されたケア(personalized care)と解釈学的

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偶然性と運命

偶然性と運命

 病気になった人は,必ず自問するだろう.医療者なら一度は患者から訴えられたことがあるだろう.「どうして自分がこの病気になったのか?どうして自分だけ?」

こうした患者からの訴えに,わたしたちはどう答えたらいいのだろう?

 九鬼周造を研究する哲学者であり,乳癌を患う宮野真生子と,医療人類学者磯野真穂の往復書簡『急に具合が悪くなる』で磯野は,運命を,「生きる過程で降りかかるよくわからない現象を引き受

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「風の谷」と対称性

「風の谷」と対称性

 安宅和人氏の「風の谷」の試み、またコロナ以降の世界の展望、「開疎化」という概念を知り、だいぶ昔にひっそりと書いた文章を思い出した。今回のコロナで、人間(と家畜)ばかりが繁栄し、ひたすら増殖して他の生物や自然環境を圧迫していく未来に希望はないことが明らかになっただろう。あまりに人間に偏った世界では、中沢新一氏のいう非対称性の思考から対称性の思考への転換が必要である。「風の谷」の試みはまだはじまった

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「たべきる」と「使い切る」

「たべきる」と「使い切る」

三浦哲也の『食べたくなる本』の,「おいしいものは身体にいいか」という表題の文章では,料理家の有元葉子の「暮らし」について語られている.本によると,有元は食を含めた生活全般を,「循環」の相から見つめ直そうとしている.土着のものを無駄なく使い切り,その食材のポテンシャルを最大限に発揮させる料理をし,冷蔵庫には不要なものはためない,食材の仕入れからゴミ出しまでをスムーズに循環させる.そこから食だけではな

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「ふつうの相談」を家庭医療的に読む

「ふつうの相談」を家庭医療的に読む

ふつうの相談0とは、不調を「個人症候群」(中井久夫)として扱っているときに生じるものであり、疾患として診断、ラベリング、抽象化される前の原初の状態のものを言う。ふつうの相談0を持ちかける相手は、中井の言う熟知性の間柄にある人たち、つまり主に親しい友人や家族である。専門家が介入する前に、素人同士でケア/治療が行われる。医療人類学的には、クラインマンのヘルス・ケア・システムで言う民間セクターでまずは処

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PLAN75はDNARの延長線上にあるのか?

PLAN75はDNARの延長線上にあるのか?

人間は自分たちの死をコントロールできるのか、してよいのかどうか。
これがこの映画に通底する疑問である。
人が死を選ぶとき、それは本当に自分の意志だけで選んでいるのか?ほとんどの場合、それはNoと言わざるを得ない。スピノザや中動態の考え方を踏まえると、自分の意志だけでなにかを決定することはほぼありえないことは明白だ。周囲の環境や人から、なにかしらの影響を受けたり、原因があって、人は行動を決定する。死

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映画『エゴイスト』はSDHがテーマである

映画『エゴイスト』はSDHがテーマである

手持ちカメラで人物のクローズアップや真後ろを撮影し、視点はあくまで人物の近景に絞られている。ゲイの性行為をあそこまで生々しく写したのも、登場人物のリアルを体感するためだろう。

表面的に見れば人が死ぬことや逆境にあることで涙を誘うメロドラマに見えなくもない映画ではある。しかしこれは実話をベースとした小説が原作である。

小説の書かれた20年前を現代の医療者からみると、これはSocial Deter

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