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映画『エゴイスト』はSDHがテーマである

手持ちカメラで人物のクローズアップや真後ろを撮影し、視点はあくまで人物の近景に絞られている。ゲイの性行為をあそこまで生々しく写したのも、登場人物のリアルを体感するためだろう。

表面的に見れば人が死ぬことや逆境にあることで涙を誘うメロドラマに見えなくもない映画ではある。しかしこれは実話をベースとした小説が原作である。

小説の書かれた20年前を現代の医療者からみると、これはSocial Determinants of Healthとヤングケアラーの問題である。性的マイノリティ、経済的格差、学歴社会、母子家庭、貧困。福祉につなげることはできなかったのか、と医療者としてはつい思ってしまう。20年でLGBTQに対する視線は大きく変わった。だがまだ途上であることは確かだ。主人公が人格を否定されながら育った時代はほんの少し前であり、愛した人と結婚することで経済的、精神的に助け合うことも、自分の愛する家族に紹介することもできないのは、現代でも変わっていない。

愛を知らないと思っていた主人公のある意味エゴイスティックとも言える愛の形。自分を明らかにすることで人を傷つけてしまうのであれば、エゴイストになることでしか、マイノリティは自分を守ることができない。龍太の母の包容力がすべての救いだ。

そして原作の自伝的小説の作者、つまり浩輔のモデルは、40歳台の若さでこの世を去っている。原作の作者のコラムやブログのファンで、長年読んできたわたしは、作者にいつしか勝手な親近感を抱いていた。スーザン・ソンタグのキャンプを知ったのも著者のコラムだった。

原作者については下記に詳しい。R.I.P.
https://note.com/tamotsunarita/n/n1db8f181f35b


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