見出し画像

ただ美しいドレスをつくる #未来のためにできること

【文藝春秋SDGsエッセイコンテスト#未来のためにできること グランプリ受賞作品】

 わたしが未来のためにできることは、ただ美しいドレスをつくること。

おばあさまが仕立てられたドレスのリメイク

 わたしは神戸のちいさなアトリエで、ウェディングドレスの仕立て屋をしている。最近ではSDGsの影響もあり、お直しやリメイクへの関心が増えてきたように思う。古いヴィンテージドレスをお直しすることもあるし、お母さまのドレスを花嫁さまのためにリメイクすることもある。

30年前お母さまが着られたウェディングドレス

 ミシンとトルソーと作業台だけのちいさなアトリエだが、それでも不思議とドレスのお直しの仕事だけは途切れない。まあこんな、めんどくさいことをやっている変り者が世の中に少ないからだろう。

相棒のミシン

 ドレスのお直しはいうほど簡単ではない。ほどく手間もかかるし、場合によっては、布の状態にまでもどして、もう一度裁断し直すこともある。サイズ直しは簡単そうだが、花嫁さまにあわせてバランスよく仕上げるにはコツがいる。ほどいてみてはじめてわかるダメージや、想定外のことにも柔軟に対応しなければならない。ものすごく地味な作業だ。

ほどいてパターンをとって裁断し直す

 それでもわたしがリメイクをしている理由は、「環境にいいから」ではない。繕うことが好きだから。そして時を経て大切に使われてきたものには物語があり、それを美しいと思うからだ。

 ドレスはさまざまな物語を持ってわたしのところに来てくれる。30年前におばあさまがお母さまのために手作りしたウェディングドレス。お母さまがハワイ挙式で着た思い出のドレス。カナダのおばあちゃまから譲られた1950年代のドレス…。

1920年代のヴィンテージドレス レースのほつれ直し

 ドレスたちの身の上話に耳を傾けながら、わたしはドレスを繕う。傷んだレースを根気よくかがり、縮んだシルクのシワを伸ばし、ていねいにほどいてまた縫い直す。きちんと手をかけてあげると、ドレスは目を覚ましたかのように輝きを取り戻すのだ。そして花嫁さまも、そのことをわかってくださる。

手をかけてあげるとドレスは輝く
30年前のお母さまのドレスで

 花嫁さまたちも「環境にいいから」といった理由でリメイクを選択されたわけではないと思う。もちろんそれもあるかもしれないけれど、そんなことよりも、大切な家族の物語をつなぐことが素敵だから、時を経たものが美しいから依頼してくださったのだと思う。素敵だから、美しいからそうする。そしてそれが結果的に服やものを長く大切にすることにつながる。それがいちばんだと思う。

 若いひとたちに「リメイクは素敵」と思ってもらえるくらいに美しいドレスをつくること。それが未来のためにわたしができることなのだ。

1950年代アメリカのヴィンテージドレスで



#未来のためにできること


▼関連note



この記事が受賞したコンテスト

だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!