«1995» (7)
ディクテーションが終わると、面接の時間になった。
過去の事例は事前に調べたけれど、2対1で志望動機や勉強したい事柄を聞かれる一般的な口頭試問というだけで、特に参考になりはしなかった。
大学受験の半年前の夏、実用フランス語技能検定試験(仏検)2級の二次試験が2対1の面接だった。だが、仏検の場合は会話能力を問われる為、至ってくだけた雰囲気で、自己紹介や最近起きた出来事をフランス語で語るカジュアルなもので、しかも、舞台裏の話として、2人の面接官が5段階評価をして、どちらかが「2」以上をつければ、即ち、2人とも「1」をつけて匙を投げなければ合格という甘い基準を知っていたので、大学受験の面接の参考にはなるまいと思っていた。
面接は、校舎の廊下に椅子が並べられ、呼ばれたら一人ずつ教室に入ってゆくという病院の問診待ちのような体であった。一番古い校舎だったこともあり、廊下は寒かった。
僕は内向的かつ緊張しぃで、いわゆるコミュニケーション能力が高いほうではないと当時から自覚していた。人前で話すのを克服できたのは40を超えてからだったから、あの日、自分の一生が決まるかも知れない面接を前にして、極度に緊張していたのは間違いないのだが、僕の次の順番にあたる女子が隣に座ると、この僕から見てもとんでもなく緊張していて血の気が引いているように見えたのはいかにも気の毒だった。振り返れば、僕があの状況で他人を見る余裕があったのは奇妙だけれど、僕自身の緊張なんぞを吹き飛ばすほどに、その女子の不審な挙動が度を超していたのかもしれないが。
そういえば、この日僕は高校の制服ではではなく普段着で、丸首のセーターにコーデュロイのパンツだったのを覚えている。面接での正装は学生服であるべきだった気もするのだが、服装を覚えている割に、どうしてその出で立ちで面接に臨むに至ったのかはよく覚えていない。
そうこうしているうちに僕の番になった。
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