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400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。2024年1月1日午前7時オープン!
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2024年1月の記事一覧

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Stepping Stones」G.Love&Special Sause

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Stepping Stones」G.Love&Special Sause

マウスピースが合わない。イサミは夜中の歯軋りが酷くて、歯医者で勧められた。だが、ハメている最中の違和感にいつまでも慣れない。だから毎朝起きるとマウスピースはいずこかへ。

そもそも歯軋りの原因は肥満で、プールでのウォーキングを医者に推奨されたが、そもそも費用がない。お酒を減らして、それをプール代に充てればいいのだが、知らないふりをしている。ごまかしの日々。

そんななか、尿道結石で悲惨な目に。チ○

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【400字小説】漂白

【400字小説】漂白

カネコアヤノの白いポシェットが黄ばんできたので、
漂白しようか迷っている、マキコ。
いつもだったら躊躇わず漂白液に漬けるのに、
相当なお気に入りだから、嫌だなって、縮んだりするのが。

同棲しているヤスナリはカネコアヤノに興味がない。
「ビジュアルがかわいらしいから
純粋に音楽として聴けない」って
ショックなことを言われたな。
はっきり否定したのと、わたしを受け入れているのは
わたしはかわいくない

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【400字小説】検討

【400字小説】検討

ピアスを開けたコトネは、それをマサキに気づいてほしかった。
でも、スタバのお姉さんに夢中で見つめてもくれない、しょうがない。
一方的に片想いってことはコトネにだって敏感。
さっきポッポ公園のベンチで告白。
「検討させてください」って脈なしってことだよねえと
親友のアスカにLINEを送ったのだけど、既読スル~だ。
「きれいな人だね」ってスタバのお姉さんを褒めると、
期間限定のフラペチーノをズビズバ言

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【400字小説】表

【400字小説】表

Excelでパチパチと表にデータ入力。
AIとかChatGPTのある時代に、
手入力で打ち込んでいくことに
理不尽ささえ感じている。

ツクモは40歳を過ぎて少しずつ、
加齢による衰えを感じ始めていて、
如実に現れているのが、
データ入力のスピードが落ちて、
まわりに敵わないこと。
負けっぱなしで後ろめたさを感じるんだ。
誰もが通る道と年上の男性上司から
言われても癒えない。

だから毎日、家に帰

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【400字小説】楽

【400字小説】楽

アカは村上春樹がそれなりに好きで。
代表作は大抵読んだ。
つまり《大》は付かないファン。
でも、人と話すときはカッコつかないから、
マニアックなファンのフリして熱く。
語るくらい村上春樹が好きだから、
執筆することも外せないだろうってことで
小説を書き始めて5年。

でも、いまだに作品を仕上げたことはない。
書くことは楽しくなくて苦痛なだけ。
アカは苦労することが美徳とも思う、勘違い。
だから、唯

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【400字小説】線

【400字小説】線

カガは20数年前、音楽雑誌で編集者をしていて、
カヌレの所属するレコード会社の担当だった。
実を言えば、カガはカヌレに恋をしていて、
でも人気モデルでもあったし、相手になんかされないと諦めていた。

それで1、2年で、カガは転職。
音楽業界を離れ、別の業界で雑誌の仕事を続けた。
のちに、カヌレは音楽プロデューサーと結婚。
カガは少し残念な気持ちもあったが、
遠くから祝福の拍手と祈りを。
そしてそれ

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【400字小説】平日

【400字小説】平日

平日休みは得した気分に。
ユウコはディズニーランドが好き。
平日に山梨から遊びによく行く。
でも遠方に住む友だちのオリやリツメは
土日休みで、都合が合わない。

だから、ひとりディズニーする。
カラオケもひとりで、
すき家にひとりで入れるくらいひとりに慣れた。

「土日休めないのは大変だね」と
言われるのは好きじゃない。
哀れに思われてる気がして。

オリもリツメともコロナ禍直前に会ったきり
会っ

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【400字小説】病

【400字小説】病

ヤナギが竹原ピストルの『LIVE IN 和歌山』を
初めに歌ったのは、効果テキメンだった。
なぜならば参加者全員、
メンタルの病を抱えていたからだ。

「♪『俺、精神病なんですよぉ。』
なんて平気で言ってくるお前は、
うん、やっぱり精神病なんだと思うよ♩」
という歌い出し、
これ以上に最適な歌詞があったろうか。

おかげで空気は和み、
3時間のカラオケはあっという間に、過ぎ去った。

「ヤナギくん

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【400字小説】形

【400字小説】形

見えるようで見えないのが恋心だ。
この話の設定は寂れた町の喫茶店。

「お察しの通り、ボクはシロちゃんのことが好きなんだよ」

「全然察してないよ」

そんな会話が展開される。

「ごめんね、嬉しいけど、今ね、あたし、
大切な人がいるんだよ」

撃沈、少しは脈アリと思ったのか、クロダよ。
ふたりでお茶したいと言ったのはクロダで、
それを断られなかったからって、
そういう意味に取るのは早合点。
シロ

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【400字小説】愛

【400字小説】愛

極道の世界にも愛はあるって、ハコは信じてる。
一般のそれより激しく、深くて、純真で、そしてやさしい。
ハコはあとからシシドが
暴力団組員だと知ったのだけれど、
誰にでも笑顔で挨拶すると認識していたから、
悪い冗談だと信じなかった。
それを知るまで、実に1年の月日を要したのだが、
それだけシシドは愛に溢れた極悪人。

シシドの所属する組は、仕事が汚いと
評判が最悪だったが、組の中にも外にも、
シシド

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【400字小説】素直

【400字小説】素直

誰かを待っている彼女を、ハヤシは見ていた。
かわいらしい子だなあって、おじさんらしく。

結婚15年目の40歳。
娘がふたりいる。
専業主夫なのは心を病んでいて、
働けないっていう冴えないオチ。

お腹が空いたファミレスで
今かとハンバーグセットを待っている。
ハヤシは日々、ハンバーグしか食べない。
お口も考えもオコサマ。
幼い頃、貧乏でゼエゼエハアハアだった家庭に育った。
その反動で毎日憧れだっ

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【400字小説】顔

【400字小説】顔

リュウは変身したかった。
アオイに言ってもバカにされるだけ。

「こんなに科学も医療も進歩しているのに、
このしかめっ面を入れ替えられないのは
腑に落ちないんだよ」

「つまり整形したいの?」

「一生に一度じゃなくてさ、
毎日、その朝の気分で顔変えられるの」

「誰が誰だかわからなくなるじゃん。
わたしはリュウの顔、好きだよ。
わたしはわたしの顔嫌いだけど、
整形したら嫌でしょう」

「とんぼも

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【400字小説】馬

【400字小説】馬

アンカーでバトンを受けたバスケ部のヒバリは、
その時、逆転なんて無理な可能性だった。

ところが、第3コーナまでに3人抜いて、
野球部と陸上部を抜けば、
どんでん返しが待っている状況に。

馬並みに荒々しく走る野性味で、
会場も奇跡を期待せずにはいられない。
ヒバリも声援が自分に向けられていることを、
風を切りながら感じたので、力になった。

そして、最終コーナーで陸上部を捉えて、
カーブもお構い

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【400字小説】保険

【400字小説】保険

忘れた頃に好きだった彼女からLINEの返事。
オウジはその恋を諦めていたので、淡々と受け止めた。
今さら追いかけても、遅いレスポンスに
振り回されるだけだと、自分に言い聞かせる。
保険レディの仕事をしているから、
その勧誘に繋げる気だろうと警戒。
でも、初めて会ったスタバの窓際の席で
ひとり読書していた彼女の横顔は美しくて、
2年半経っても忘れられない。
ほかの客ことのもお構いなく、
気がついたら

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