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【400字小説】楽

アカは村上春樹がそれなりに好きで。
代表作は大抵読んだ。
つまり《大》は付かないファン。
でも、人と話すときはカッコつかないから、
マニアックなファンのフリして熱く。
語るくらい村上春樹が好きだから、
執筆することも外せないだろうってことで
小説を書き始めて5年。

でも、いまだに作品を仕上げたことはない。
書くことは楽しくなくて苦痛なだけ。
アカは苦労することが美徳とも思う、勘違い。
だから、唯一の小説書き友だちのナガイ(年下)には、
「書くのは苦しいから、僕は遅筆なんだよ」って
玄人っぽいフリを。
「楽しんで書いているうちは、
まだまだプロ意識が足りないってことだ」ってさえも。

ある日、ナガイから唐突に村上春樹の
『職業としての小説家』という小説ではない
文庫本をプレゼントされた。
なんの気なしに読み進めた。
が、忘れもしない59ページに
「小説は楽しんで書くもの」云々と書かれていて、
それがナガイなりの反撃だってことに、今さら気づいた。

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