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400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。2024年1月1日午前7時オープン!
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記事一覧

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「MO’FUNKY」ズボンズ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「MO’FUNKY」ズボンズ

「早く着いたよ」のLINEをタケルに打って、ドリンクバーを適当に4品持ってきて、ミモトは一気にガブガブする。甘いコーラはもちろんのこと、苦いブラックコーヒーでもお構いなしに飲みまくってハイに。

「急がないでいいよ」のLINEをしたのにも関わらず、タケルが早く来ないかなって楽しみに。コロナ禍前からずっと会っていないのだ。その分、タケルは年を取っただろうがミモトもそうだから、イーブンだと考えた。

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「When Doves Cry」プリンス

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「When Doves Cry」プリンス

寺の境内で鳩がギャーテーギャーテーうるさい。守は地面を徘徊する鳩の群れに突っ込んでいって、彼らを曇り空へぶっ飛ばした。「ダメだよ、そんなことしちゃ、小学生かよ!」と里穂が頬を膨らませて、プンプン怒り出す。「男はいつまでも子どもなんだよ」と在り来たりのことを守は言い出す。六体の地蔵の前に敷き詰められた砂利の大きめな石を蹴り散らかす、落ち着かない。

「鳩って本当はどう鳴くか知ってる?」と変化球で里穂

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「祝日」カネコアヤノ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「祝日」カネコアヤノ

試合の大事な局面でミスったことを引きずって、練習のコートに戻ってこない灰治を部員のみんなが心配。灰治はチームの大黒柱。

ある祝日の前夜に大会の《残念でした飲み会》をマネージャーが企画し、彼女は灰治を誘った。でもLINEの返事が全然返って来ず、飲み会の直前に灰治の下宿先に行く。

「ほっといてくれ」と灰治がドアー越しに。イラっとしたマネージャーは「いつまでひとりでバレーするつもりですか!」と大きな

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】 「No Success」Atari Teenage Riot

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】 「No Success」Atari Teenage Riot

酒野麹は自分らしさとは何かを追求している。ペンネームが表すようにユーモアのセンスがあるとは言えない真面目なタイプ。人には信頼されるが重宝はされない。助けた人はたくさんいるけれど、その割にSNSのフォロワー数が伸びない。誰にでも「いい人だよね」と一言で片付けられてしまうのは、よくある例。「自分らしさをください」と神様に祈っているようだから、まだまだ甘い。ただ在るだけでいいのに、自分らしさを求めるから

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「FLOATIN’」舐達麻

ハンシャ人の女だっていうきよみにアフロは恋をしてしまって、明日、初デートっていう段階で事情を話された。「今ならまだ引き返せるよ」と言われ、逆に火が点いた。白昼堂々、繁華街のアーケードにふたりで繰り出して、速攻、ハンシャ人の子分がやって来て、アフロは脅された。「こえ~よ」と輩が立ち去った後、半泣きしたが「もう帰ろう」と言うきよみの言葉に頷く気にはならなかった。「事務所って100均あったテナントの2階

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「夏の日の午後」eastern youth

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「夏の日の午後」eastern youth

いずれやって来る死。罪は溶けない。背中に晒して生きていくしかない。誰もが前科者。

そんな達観した考えに10歳で到達してしまって、久仁は苦しかった。生きづらいと言語化できたら少しは楽だっただろう。生きたくないというのが久仁の本音。でも自決する勇気など持ててしまえるほど、神様は残酷ではなかった。学校に行くのが苦しかった。でも、親を心配させたくなかったから、普通でいた。誰にもそうであるように、小学校の

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「月さえも眠る夜」THE BOOM

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「月さえも眠る夜」THE BOOM

美野里は結婚する。何人かの男と愛し合って、辿り着いた岬。勇二と船を出す。海へ旅立つ。

そんな海岸沿いのホテルで、ひとり。勇二は大浴場へと一足先に行った。今まで会った誰よりも勇二を愛している。愛の記憶は、一昨日、引っ越しをしてすっからかんになったその部屋に置いてきた。何も思い残すことはなく、勇二を愛することが出来そう。

ひとつだけ悔いることがあるとすれば、中学生の時に「付き合って」と言ってきたG

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Myself」長渕剛

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Myself」長渕剛

たつみは胸を隠して立っている。暗い部屋で、龍生は微笑んでいる。全身のタトゥーが暗闇と同化して輝いている。真面目なたつみとチンピラの龍生の人生が絡み合ったのは偶然。気まぐれな悪戯。でも、たつみが龍生に惚れたことは間違いなかった。「死んだ弟もやんちゃだったね」と緊張を隠して言った。

「なんで死んだ?」

その答えは《自殺》だったが「事故だった」とたつみは嘘をついた。龍生は嘘を見抜いたが、そこまで鈍感

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「自問自答」ZAZEN BOYS

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「自問自答」ZAZEN BOYS

《人として好き》が先なのか、《動物としての好き》が先だったのか。

「性欲に惑わされるようじゃ、まだまだわたしは弱い人間ね」とメグミは自ら寂しいと認めた。

「ムカイくんって色気もあるよね」
「あんなにボーッとしてるのに」

メグミがムカイと寝たのは4日前のことで、酔っ払った勢いで「うち来る?」と彼女は言い放って、それからは大人の男女の流れに則って。とても精神が癒されたひと時であったが、親しくもな

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【400字小説】祝福が黄色

【400字小説】祝福が黄色

踏み切り前でプロポーズして良かった。
あなたに出会えて嬉しかった。
あなたを泣かせてすみませんでした。

ずっとね、謝っていたんだよ。
わたしの過ちは許されない。
佐々木希よりも神々しい
あなたの対応に頭が上がらない。

こんな平凡な単語を並べることしかできない。
それでもあなたのわたしへの失望感に比べたら、
指の爪を剥がされたくらいの苦痛で。
あなたの心臓を握り潰そうとしたんだから。

嘘はいけ

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【400字小説】鎖に繋がれた自由

【400字小説】鎖に繋がれた自由

不自由の中に自由があるってよく言うけれど、
実際のところ意味がわからない。
急に駐車場で車の窓をコツコツされて
嫌なあなたが立っていたのに辟易した。
そんなことお構いなしに喋り出すから、
仕方なく窓を開けていた。
無視したって良かった気もする。
嫌いな人には関わらない自分になりたかったんだ。
それが自由な気がしているからさ。

「STAY DREAMいいよ」って
長渕剛の曲を押し付けてきて、うざか

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【400字小説】わたしに執着していない

【400字小説】わたしに執着していない

「自分らしさを追求するってさ、
まだまだだね、きみは」

カチンと来た。
あれ以来、LINEのやりとりは
していない、1年以上。
何度か最後のLINEを開くことはあって、
ブロックされていないから
本当に関係が断ち切れたわけではないと、ホッとしている。

悪かったのはわたしかもって思うことがあって、
「自分も他人もなくて、あるがままに居るだけ」
という悟りのような考えに
少しは理解を示せるようにな

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【400字小説】悪魔はチャンス

【400字小説】悪魔はチャンス

恋はチャンスで、チャンスは恋だってあのバンドが歌ってた。
30年前って自覚がなくて、時間は止まったまま。
記憶なんて置いてきっぱなしだから、
新しい思い出なんか出来ない。
それは白くて四角いか。
知的で素敵な詩を書いてみたい。

井上陽水がすごいことを知った、今さらだよ、50歳。
「ま~あだだよ!」ってあの人が言ったら
秘密基地に帰ろう。
ひとりでに書ける小説なんてないんだよ。
記憶を全動員して書

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【400字小説】心の隙間、何で埋めてる?

【400字小説】心の隙間、何で埋めてる?

加齢で体力も顕著に落ちてきたし、
心にも余裕がなくなって来ていると公言。
その一方で心に虚しさがあることは誰にも言っていない。
それを事細かに言語化するのは不可能だから。

「膝が痛くてさあ」とか「高校生の娘が
学校行けてなくてね」とか
友人に口にする言葉はマイナスなことばかりだと
オムライスを半分食べたところで気づいた。

「ごめん、愚痴しか言ってなくて」
「我々も年ですからネ。
いいことばかり

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