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【400字小説】芸人だからって

先輩がお笑いで売れて有名になっても、うらやましくもなかったし、ましてや妬みもしなかった。僕は僕で幸せだし。妻と娘と猫、そしてマイホーム。それがあれば十分で。

先輩は欲張りだった。仕事で営業成績が社内で圧倒的に優秀でも満たされなかった。歴代の彼女たちも相当美人だったけれど、ころころ乗り換えていた。お笑いで売れることだけが、先輩を満足させるのだと僕は理解していた。そんな日は来ないと思っていた。だって、売れっ子芸人なんて一握りだし、センスも技術も半端じゃ、なれない。

ところが先輩は売れた。僕の感覚がおかしいのか、魅力的には感じなかったけどな。普段の世間話も、ライブで見せた一発ギャグもピンと来なかった。もっと残念だったのは、売れても満ちなかった先輩の心だ。上京して毎晩のように歌舞伎町のキャバクラに通って豪快に金を使っているってテレビで言っていて悲しかった。まあ、別に他人の人生だから興味はないけど。

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