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大石あきこ『「都構想」を止めて大阪を豊かにする5つの方法』 : 〈大阪都構想〉の、非情非道な現実

書評:大石あきこ『「都構想」を止めて大阪を豊かにする5つの方法』(アイエス・エヌ)

本書は、「大阪都構想」の現実の姿を、説得的に、しかもたいへんわかりやすく説明してくれています。
ですから、妄信的な「維新の会」信者や、テレビを視て「橋下さん、カッコいい!」とか「吉村さん、イケメン!」とか言っているだけの人以外の、大阪府民は、本書を読んで「大阪都構想」の現実を知るべきです。

政治は「テレビパフォーマンス」ではなく、現実の「政策」であり、「大阪都構想」とは、大阪府民の明日の現実生活に直結している、あまり「中身の知られていない政策」に貼られた、レッテルなのですから。

「大阪都構想」を簡単に説明すれば、従来の「大阪市」を「四つの特別区」に分割解体して、「大阪府」の管理下におく、というものです。そうすることで、従来であれば、他の市町村より税収の多かった大阪市から、大阪府へと税収の多くを移管させ、大阪府として、自由にそのお金を遣えるようになる、というものです。

なぜ、大阪市の税金を、大阪府として遣えるようにするのかと言えば、それは税収の多い大阪市が、自分たち大阪市民のためにだけにお金を遣うのではなく、大阪府のために遣うためです。
一一こう聞くと、なにやら「大阪府民全体のために、大阪市民に犠牲になってもらう」という話のように聞こえますよね。しかし、現実は、そんなに単純なものではありません。

「大阪府民全体のために、大阪市民に犠牲になってもらう」と言うと、「大阪市居住者以外の大阪府民」は「金がこっちに回ってくるのなら、ありがたい話だ」と思うかもしれませんし、「人の良い大阪市民」は「大阪府民全体の為になるのなら、すこしは犠牲を払ってもいい」と思うかもしれません。
しかし、現実の政治は、そんな「キレイゴト」では済みません。

「大阪市」を「四つの特別区」に分割して、「大阪府」の管理下におくことで、大阪市の税収を大阪府へと移管すると、本当にそのお金は「大阪府民全体のため」に遣われるのでしょうか?

一一そうではありません。

「維新の会」が考えているのは、「大阪市の税収を大阪府の管理下に移して、それを資金にして、カジノを含むIR(統合型リゾート)などの事業に投資することよって、金儲けをしよう」ということなのです。
そして、「タテマエ」としては、そうしたことでお金を儲けた「海外資本のカジノ会社やリゾート会社」が、大阪に「莫大なお金(税金を含む)」を落としてくれるので、そのお金を「大阪府民」に還元しよう、ということになっています。「維新の会」は、そうアピールし、それを真に受けている人が、少なくないんですね。

でも、企業が儲けたお金を、そう簡単に、あかの他人である大阪(府民)に落としてくれるでしょうか?
黙って言い値の税金を、本当に払ってくれるでしょうか?
日本人従業員に、たくさん給料を払ってくれるでしょうか?
彼らは、本当に、そんな「甘い相手」でしょうか?

もちろん、彼らはそんな「甘い相手」ではありません。
世界を飛び回って金儲けをしている、じつにシビアなビジネスマンたちが、金儲けの機会として、大阪のIR事業に群がってきているのです。
当然、彼らは「政治家との裏取引」をします。「言い値」で契約なんかしません。
実際のところ、政治家とうまく裏取引をすれば、彼らに渡す賄賂など安いものだからです。

「いや、大阪の政治家は、賄賂など貰わないし、府民のために清廉潔白にやってくれるだろう」と、本気で言う方がおれば、それはもう「宗教ですか?」と問い返すしかありません。

テレビを視ていれば、「賄賂をもらう政治家」「賄賂をわたすビジネスマン」が珍しくもないという現実は、誰でも知っている「事実」ではないでしょうか?
それでも「維新の会」の政治家は、そんなことはしない、橋下徹はそんなことを一度もしなかった、松井一郎もそんなことは絶対にしない、吉村洋文だってそんなことは絶対にしない、とそう言うのでしょうか?

橋下徹さんは「軍隊には、性処理の女性が必要だ」という現実論者ですが、それが批判されると、途端にその主張を隠した現実主義者でした。だから「まずい話は隠して当然」という現実論者でもあります。
松井一郎さんは、教育勅語を子供たちに唱えさせる「塚本幼稚園」を絶賛して、園長の籠池氏にも好意的でしたが、学校用地払い下げ問題が暴露されて籠池氏が批難された途端、無関係の知らん顔を決め込んだ現実主義者です(だから、籠池さんは、松井さんを批難しました)。
吉村洋文さんは、もともとは、タレントのやしきたかじんさんの顧問弁護士であり、そのたかじんさんの遺産相続をめぐって、弁護士倫理としてどうかというような言動があった人です。

こんな「本音と建前の乖離が激しい、現実主義的政治家」さんたちが、一度も「便宜を図ったり、図られたり」したことがないと、本気で信じることができるのでしょうか?

だとすれば、イマドキの中学生よりも純朴で、世間知らずだと言えるでしょう。

ともあれ、「海外資本のカジノ会社やリゾート会社」のシビアなビジネスマンたちが、橋下徹さんや松井一郎さん、吉村洋文さんに「猛アタック」をかけたというのは、否定できない現実であり、そんな彼らの存在を、橋下徹さんや松井一郎さんや吉村洋文さんが大歓迎して、それらの事業に「莫大な税金」を注ぎ込むことを約束している、というのも、ハッキリとした事実です。

では、そんな事業で莫大なお金が動いたとして、その儲けは「一般の大阪府民」に還元されるでしょうか?

私は、されないと思います。
現に、国政レベルでも、「異次元の規制緩和」だとか「異次元の財政出動」なんてことで、企業が金儲けをしやすいようにした結果、たしかに企業はお金儲けをしましたが、一般国民は、それで少しでも豊かになったでしょうか? なっていませんよね。

企業が儲れば、その儲けが一般国民のところにも滴り落ちてくるという「トリクルダウン理論」は、完全に空ぶりでした。
最初から「嘘」だったのか、国民を誑かすための、実の無い「甘言」でしかなかったのかは知りませんが、結局は「空言」だった、というのは動かぬ事実です。
企業だけが儲け、お金持ちだけが豊かになったからこそ、かつては「一億層中流」と言われた日本においても、アメリカに劣らない、貧富の「二極化」が急速に進んでしまった。一一これが現実です。

では、この大阪で「海外資本のカジノ会社やリゾート会社」が儲けたお金が、本当に「一般の大阪府民」のところにまで滴り落ちてくるのでしょうか?

それを信じるのは、あまりにも「世間知らず」の「妄信」であり、「宗教ですか?」という話にならざるを得ません。
大阪で「維新の会」とともに「大阪都構想」を推進している政党は「公明党」ですから、その「妄信」は「創価学会の信仰」ですか? 一一ということにしかなりません。
「お題目を唱えれば、冷酷非情なビジネスマンも、途端に良い人になって、大阪府民のためにどんどんお金を落としてくれる」と、あなたはそう信じられるのでしょうか?

簡単に言うと、「大阪都構想」とは、「大阪市民の税金を横取りし、それを資金にして金儲けのための派手な事業を展開し、企業は儲け、与党政治家も何かといい目を見る」ということでしかありません。

「大阪市民」は「税金の取られ損(流用されるだけ)」ですし、一般の「大阪府民」は、その恩恵には少しもあずかれないどころか、本来府民のために遣われるべき税収が、ぜんぶそっちの方に注ぎ込まれて、行政による住民サービスは悪化の一途を辿るしかない、というのが、「維新の会」が進めている「大阪都構想」の「リアルな姿」です。

あなたは、「大阪都構想」についての、「維新の会」が語る「夢のような話」と、私の「シビアな解釈」と、どちらに信憑性を感じるでしょうか?
「お題目を上げれば、シビアなビジネスマンもコロリと変わる」というような話と、「シビアなビジネスマンは、徹底的にシビアだよ」という私の意見の、どちらが「現実」に近いと考えるのでしょうか?

「大阪都構想」とは、本当に「大阪府民が豊かになる」政策なのでしょうか?
それとも、一部企業が大儲けするために、大阪府民の税金が湯水のごとく流用されてしまう、という話なのでしょうか?

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本書は、こうした「大阪都構想」の現実を、わかりやすく教えてくれました。
「大阪都構想」という、おおがかりな「特殊詐欺」に引っかからないために、あなたも本書くらいは読んで、「現実」に目を見開いてほしいと思います。

詐欺に引っかかる人というのは、自分を過信していて、人の話を聞かず、本も読まない人が多い。読んでも、安直な「金儲けの方法」を語ったような本しか読まない、現実を知らない、欲に目の眩んだ人が多い。

一一残念ながら、これは確かな事実なのです。

初出:2020年7月3日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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