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Webライティングの現場から~「今日、頬杖に載せたもの」vol.2~「こしらえる」という、ものづくり

皆さん、ごきげんよう。
Bitter Orange Radio、東京担当の橘ねろりです。

ライターとして、さまざまな言葉と出合う日々ですが、
あらためて見つめた言葉のなかに、新鮮な意味を見つけたり、未知なる発見に驚いたりすることがあります。

今回も、そんな日々の「頬杖案件」について、綴っていきたいと思います。

「こしらえる」という、ものづくり


「こしらえる」が持つ独特の響き

浅草やスカイツリー、墨田川の流れを望める東京の下町。
そこで生まれた私の父は、生粋の江戸っ子で、
普段、標準語を話していても、ところどころ下町言葉が出てくる人でした。

それが実際に下町言葉なのか、
または地方の人からもたらされた方言なのか、
時々分からないものもありましたが、
父が使う言葉として認識していたなかで、
特に気に入っていたのが、「こしらえる」という言葉です。

父は「つくる」と言う代わりに、
いつも「こしらえる」という言葉を好んで使っていました。

子供の頃は、その「こしらえる」という言葉が温かく響き、
何をつくっても、より良いものをつくったように聞こえる気がして満足したものです。

学校の工作にしても、料理にしても、
「これ、一人でこしらえたの? すごいねー!」
と父に褒められると、なんだか立派なものをつくったような気になり、
自分でも、「よし、また何かをこしらえてみよう」と意気込むきっかけになりました。

また父は、「おにぎり」のことも「おむすび」と呼んでいました。

下町言葉は、語気が強くなりがちな特徴がありますが、
時折、「お母さんが、おむすびをこしらえてくれたよ―」
なんていう父の言葉を聞くと、
言葉自体が持っている独特な魅力に惹かれ、
一瞬にして満ち足りた感覚になったことを覚えています。

おむすび一つが、言葉の表現によって贅沢な食事に変化する瞬間でした。

浅草寺とスカイツリー  (Ⓒ2024 Tachibana Nerori)

ライターや編集者として、
それこそ雑誌や書籍、Webサイトなどを「つくる」という仕事に携わってきましたが、
自分が書いた記事が載った雑誌や書籍を父に見せるたびに、
「こんな立派なものをこしらえたのかい?」
と父は言い、手に取った雑誌の紙やデザイン、印刷に至るまで、
目につくものを丁寧に眺めては褒めていました。

「こしらえる」が持つ意味

「こしらえる」という言葉を辞書で調べると、

・ ある材料を用いて、形の整ったものやある機能をもったものを作り上げること。「弁当をこしらえる」「家をこしらえる」
・ 手を加えて、美しく見せるように、化粧をしたり衣装を整えて飾ったりすること。「顔をこしらえる」「身なりをこしらえる」
・工夫を巡らし、ないことをあるかのように見せかけること。
「話をこしらえる」
                        (※参考:goo辞書)

などの意味があるようです。
どれも丁寧な仕事によって、丹念につくられていくような、そんな意味を感じる言葉だと思いました。

父が生まれ育った下町は、職人が多く住んでいたエリアであり、
丁寧な仕事でものづくりをするという環境がまわりにあったかと思われます。
そのような環境を考えると、
父が発する「こしらえる」の言葉に、不思議な説得力が宿っていたことも、
容易に理解できることでした。

墨田川と東京の下町 (Ⓒ2024 Tachibana Nerori)

今、私自身が仕事で書いている記事では、
「工場で製作されました」「Web制作しています」
「街をつくる」「文化を創造する」など、
「つくる」を意味するさまざまな言葉を用いて、その内容をシンプルに伝えています。

そこにはどんな強い思いがあり、
どんな苦労をして「つくる」ということに成功したのかは、
文章で紹介することにして、表現として選ぶ言葉自体は、
「制作・製作・作・造・創」等のシンプルな言葉を用いてまとめてきました。

もし、その仕事を言葉一つで表現するならば、
「こしらえる」という言葉で表現できたものだったのかもしれません。
言葉一つに、深い意味や人を惹きつける魅力があることも、
忙しさに追われるなかで、しばらく忘れていたような気がします。

定年まで数十年間、印刷会社に勤め、
高い文章力の才能により生涯数えきれないほどの賞をとり、
最期まで文学に打ち込んでいた父も、
2カ月前の夏の朝、静かに世を去りました。

私の仕事も、記事を「つくる」仕事―。
父が好んだ言葉のように、
私も記事を「こしらえる」ようにつくっていこう―と。
高く澄んだ秋空を見上げながら、心に深く刻みました。

隅田川から見上げるスカイツリー (Ⓒ2024 Tachibana Nerori)


「Bitter Orange Radio」では、
今後もさまざまなコンテンツをお届けしていきます。

今日がどんな日でも、「素敵な自分を応援する」あなたへ―。
小さな灯が心にともりますよう。

お相手は、橘ねろりでした。

Written by Tachibana Nerori

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